文化審議会著作権分科会法制問題小委員会19・20年度報告書(案)抜粋 2009/01/162009-01-18

http://shibuya.cool.ne.jp/ldnews/pdf/20090116.pdf

------------------

文化審議会著作権分科会法制問題小委員会 平成19・20年度報告書(案)抜粋
平成21年1月 日

(脚注は省略した。)

第3章 権利制限の見直しについて

第1節 はじめに(検討の視点)

○権利制限規定の見直しについては、これまでも関係団体からの要請等を踏まえ
て随時検討を行っているが、本小委員会においては、その要請等を踏まえつつ、
利用されることとなる著作物の性質、利用行為の目的や社会的要請、利用技術の
変化や利用行為の態様、許諾を求めることの容易さや契約実態との関係等を踏ま
えつつ権利制限規定の追加の是非の検討を行ってきている。

○一方で、権利制限規定については、第1章(「デジタルコンテンツ流通促進法
制」について)の中で触れたように、著作物の利用技術が進歩し、多くの者が著
作物利用を行うようになってきた中で、ネットワークを介した著作物利用であっ
ても零細な利用行為があり、許容されるべきと考えられる事項と許容すべきでな
いと考えられる事項との境界、判断基準が、現在の権利制限規定の考え方から比
べて変わってきているとして、既存の権利制限規定の切り口(例えば、私的領域
かどうかや、非営利無料かどうかなど)と、実際に権利者の利益を不当に害する
行為かどうかという面での実態とが、必ずしも重ならない問題が生じてきている
可能性が指摘されている。
権利制限規定の見直しを検討するに当たっては、従来からの検討の視点、また条
約上の考え方に則して検討を行うとともに、必要に応じて、このような既存の権
利制限規定と実態との乖離の可能性の観点も踏まえて、権利制限規定の整備の是
非を検討していくことが適当と考えられる。

○また、平成20年11月の知的財産戦略本部/デジタル・ネット時代における知
財制度専門調査会報告書においては、権利制限の一般規定(日本版フェアユース
規定)の導入が提言されており、今後の権利制限の検討に当たっては、一般規定
の導入の検討のほか、個別の権利制限規定と一般規定との関係を踏まえた検討も
必要になると考えられる。

○平成19年度及び平成20年度において、具体的に検討を行った項目の結果又は
経過については、次節以降のとおりである。

第2節 障害者の著作物利用に係る権利制限の見直しについて

1 問題の所在

(1)これまでの改正要望の概要

本小委員会では、平成17年1月の「著作権法に関する今後の検討課題」に基づき、
障害者の著作物利用に関係する権利制限の見直しについて検討を行っているが、
平成18年1月の文化審議会著作権分科会報告書においては、一部の事項について、
改正要望の趣旨の明確化、捷案の具体化等を待って改めて検討を行うこととされ
ていた。また、その後に寄せられた改正要望もあり、現在、検討を求められてい
る事項の概要は次のとおりである。

ア 私的使用のための著作物の複製は、当該使用する者が複製できることとされ
 ているが、視覚障害者等の者は自ら複製することが不可能であるから、一定の
 条件を満たす第三者が録音等による形式で複製すること

視覚障害者、聴覚障害者又は上肢機能障害者等(以下「視覚障害者等」という。)
は、自らが所有する著作物を自らが享受するためであっても、当該障害があるた
めに、自ら、録音又は当該者作物の複製に伴う手話・字幕の付加を行うことが困
難なことがある。そこで、一定の条件を満たす第三者によりそれらの行為が事実
上なされたとしても、視覚障害者等自身による私的使用のための複製として許容
されるようにすべきとの要望がある。

イ 著作権法第37条第3項について、

(i) 複製の方法を録音に限定しないこと
(ii) 対象施設を視聴覚障害者情報提供施設等に限定しないこと
(iii)視覚障害者を含む読書に障害を持つ人の利用に供するため公表された著
  作物の公衆送信等を認めること

著作権法第37条第3項は、専ら視覚障害者向けの貸出しの用に供するために、著
作権者の許諾なく著作物を録音することができる旨を規定しているが、対象施設
としては、視覚障害者情報提供施設等に限られている(著作権法施行令第2条)。
このため、現行制度では、

i) 著作物を録音以外の方法で複製する場合、
ii) 視聴覚障害者情報提供施設等に当たらない国立国会図書館、公共図書館、大
  学図書館等において録音資料を作成する場合、又は
iii)例えば重度の身体障害者や寝たきりの者等、視覚障害者以外の読書に障害
  を持つ人の利用に供するために公表された著作物の公衆送信等を行う場合

には、著作権者の許諾が必要である。
これらの場合について、著作権者の許諾なく行えるようにし、多様な障害種の障
害者について、その情報環境の改善を図ることが必要であるとの要望がある。

ウ 聴覚障害者情報提供施設において、専ら聴覚障害者向けの貸出しの用に供す
 るため、公表された著作物、放送等に手話や字幕を挿入(翻案)して録画する
 こと

現在、社会福祉法人聴力障害者情報文化センターでは、放送事業者や著作者団体
等との事前の一括許諾契約を結ぶことにより、字幕・手話を挿入した録画物を作
成し、聴覚障害者情報提供施設等において、聴覚障害者用に字幕・手話入りビデ
オ、DVD等の貸出しを行っているが、現実には、聴覚障害者等が希望する作品に
は十分には字幕や手話を付与することは行われていないとの指摘がある。このこ
とについて、権利制限を認めてもらいたいとの要望がある。

エ 専ら聴覚障害者の用に供するために、手話や字幕が挿入(翻案)された、公
 表された著作物、放送等の録画物を公衆送信すること

著作権法第37条の2では、聴覚障害者情報提供施設において、放送又は有線放送
される著作物について、音声を文字にしてする自動公衆送信が静められているが、
この自動公衆送信はリアルタイムによるものに限られていることから、字幕や手
話を付した複製物を作成し、これを自動公衆送信するには許諾が必要である。こ
のことについて、権利制限を認めてもらいたいとの要望がある。

オ 聴覚障害者向けの字幕に関する翻案権の制限について、知的障害者や発達障
 害者等にもわかるように、翻案(要約等)をすること

聴覚障害者向けに字幕により自動公衆送倍する場合(第37条の2)には、わかり
やすい表現に要約するという形態での翻案が可能(第43条第3号)であるが、文
字情報を的確に読むことや咽難な知的障害者や学習障害などの発達障害を有する
者等についても、同様の要請がある。特に、教育・就労の場面や緊急災害情報等
といった場面での情報提供に配慮する必要性が高いため、知的障害者や発達障害
者等にもわかるように翻案(要約等)することを認めてもらいたいとの要望があ
る。

現在、学習障害者や、上肢障害、高齢、発達障害等により文章を読むことに困難
を有する者の読書支援を目的として、図書をデイジー化し、提供する活動が行わ
れている。このような活動についても、権利制限の対象とすべきとの要望がある。

(2)障害者関係施策の状況や国際的な状況

近年、情報技術の進展に伴う情報流通の急激な増大に伴い、障害による情報格差、
すなわち、障害者にとって一般に流通している書籍・新聞・雑誌等を読むことが
できない、放送番組等をみることができない等の情報格差の問題についての社会
関心が高まっている。平成18年12月には、障害者の権利及び尊厳を保護・促進す
るための包括的・総合的な国際条約として「障害者の権利に関する条約」が国連
で採択されており、我が国は、平成19年9月28日に署名を行っている。同条約に
おいては、障害者の情報アクセスの確保の必要性について触れるとともに、知的
財産権を保護する法律がその不当な又は差別的な障壁とならないようにすべきこ
とについて言及されている。
このような背景から、政府の障害者施策においても、障害者の情報アクセスの確
保との観点が重視されるようになってきており、政府の重点施策実施5か年計画
(平成19年12月25日・障害者施策推進本部決定)戯において、「障害者の情報へ
のアクセスに配慮した著作権制度の在り方につい町検討を進め、必要に応じて法
整備を行う」ことが盛り込まれるに至っている。
また、諸外国の立法については、対象となる障害種や対象となる行為がより広い
権利制限規定を設けている国も多く見受けられるところである。

【参考:諸外国における立法例等】

○障害者の権利に関する条約(平成19年9月28日署名)(仮訳文)

第30条 文化的な生活、レクリエーション、余暇及びスポーツへの参加

1 締約国は、陣春着が他の者と平等に文化的な生活に参加する権利を静めるも
 のとし、障害者が次のことを行うことを確保するためのすべての適当な措置を
 とる。
(a)利用可能な様式を通じて、文化的な作品を享受すること。
(b)利用可能な様式を通じて、テレビジョン番組、映画、演劇その他の文化的
  な活動を享受すること。
(c)文化的な公演又はサービスが行われる場所(例えば、劇場、博物館、映画
  館、図書館、観光サービス)へのアクセスを享受し、並びにできる限り自国
  の文化的に重要な記念物及び遺跡へのアクセスを享受すること。
2 (略)
3 締約国は、国際法に従い、知的財産権を保護する法律が、障害者が文化的な
 作品を享受する機会を妨げる不当な又は差別的な障壁とならないことを確保す
 るためのすべての適当な措置をとる。
4・5 (略)

---(諸外国の著作権法抜粋は省略)---

2 検討結果

(1)全体の方向性

障害者の著作物利用についての権利制限は、これまで障害者の福祉の増進、社会
参加の促進等の観点から規定が設けられてきている。一方、今回の検討において
は、いわゆる情報アクセスの保障、情報格差是正の観点から対応が求められてお
り、障害者にとって、鈴音物等のその障害に対応した形態の著作物がなければ健
常者と同様に著作物を享受できないという状況を解消することが必要とされてい
る。このような観点からは、従来の権利制限規定の対象となっていた障害種の障
害者に限らず、多様な障害に対応して各障害者に必要な形態の著作物を制作する
ことについても、基本的に高い公益性が認められると考えられる。
このような観点から、本小委員会における検討では、障害者が著作物を利用でき
る可能性を確保する方向で著作権法上可能な措置について検討すべきであるとの
意見や、障害者福祉の問題は、諸外国と比べて日本固有の事情があるとは考えら
れないことから、諸外国の例等を参考にそれと同程度の立法措置を講ずべきとの
意見があった。また、検討に当たっては、健常者向けのマーケットや障害者向け
のマーケットへの影響について考慮すべきであるとの意見があった。
以上を基本的な方向性としつつ、各検討課穎における対応方策について、次のと
おり検討を行った。

(2)視覚障害者関係についての対応方策(1(1)ア・イ関係)

○1 障害者の私的複製を代わって行うための措置について

現行の著作権法第30条では、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範
囲内において使用することを目的として、その使用する者が著作物を複製するこ
とができることとされている。この「使用する二割については、使用者自身であ
ることが原則であるものの、その支配下において補助的な立場にある者が使用者
自身に代わって複製することも許されると解されている。
このため、このような考え方を前提とすれば、ボランティア等が障害者の自宅に
おいて録音物を作成するような場合や障寧者自身と個人的関係のある者が録音物
を作成するような蓼合など、第80条の私的使用目的の複製に該当するものもある
と考える。
一方、現在、点字図書館で行われているプライベートサービスのように、外部の
機関が多数の視覚障害者からの個人的な複製の要望に応じて録音物を作成すると
の形態については、第30条の範囲の複製とは考えにくい。また、点字図書館が対
象施設となっている第37条第3項では、視覚障害者の用に供するために、公表され
た著作物を録音することができることとされているが、その目的は、貸出しの用
に供するため又は自動公衆送信の用に供するためとの限定がある。

平成18年1月の著作権分科会報告書では、「私的使用のための複製」による対応
を考えるのか、一定の障害者向けのサービスについて特別の権利制限を考えるの
かについて、実態を踏まえた上で検討すべきとされていたところである。
この点、第30・条の私的使用目的の複製は、家庭内の行為について規制すること
が実際上困難である一方、零細な複製であり、著作権者等の経済的利益を不当に
害するとは考えられないという趣旨に基づいた規定であり、前述のプライべート
サービスのように、外部の機関が多数の視覚障害者からの要望に応じて録音物を
作成するとの形態について、第30条の範囲を拡大して対応することは、本来の規
定の趣旨から外れるものと考えられる。
したがって、点字図書館がプライべートサービスとして視覚障害者等の私的使用
目的の複製を第三者が代わって行うための措置としては、別途、第37条第3項に
基づき録音図書の作成を行う目的について、貸出しの用に供するため又は自動公
衆送信の用に供するために限らないこととし、視覚障害者等が所有等をする著作
物から録音図書を作成・譲渡することが可能となる措置を溝ずることが適当と考
えられる。

○2 第37条第3項の複製を行う主体の拡大について

現行の第37条第3項では、「点字図書館その他視覚障害者の福祉を増進する月的
とする施設」において録音が可能としており、具体的には、視覚障害者を対象と
した施設が指定されているが、これらのほか、公共図書館等においても録音を可
能とするよう要望がなされている。
現在、国立国会図書館や一般図書館において、日本図書館協会と日本文峯家協会
が実施する「障害者用音訳資料ガイドライン」に従い、権利処理を行った上で録
音図書(デイジー図書を含む)の作成を実施してきている。これらの施設は、同
ガイドラインの下で、登録制などにより利用者が視覚障害者等であることの確認
が行える体制が整えられ七いるものとして事業を実施しているものである。この
ように利用者の確落等が整えられ、視覚障害者の福祉等に携わる施設と同等の取
組が可能と認められる公共施設については、第37条第3項の規定に基づく複製主
体として含めていくことが適当と考えられる。

○3 第37条第3項の対象者の範囲について

今回の権利制限は、録音物がなければ、健常者と同様に著作物を享受できない者
への対応という観点から検討が必要とされているものであり、その必要性は、理
念的には視覚障害者に限られるものではないと考えられることから、障害等によ
り著作物の利用が困難な者について、可能な限り権利制限の対象に加えることが
適切である。
もっとも、権利制限規定は、権利の範囲を定める規定との性格上から、また法に
関する予測可能性を確保する観点から、規定の適用範囲を明確にしておく必要が
ある。範囲の明確化の方法としては、例えば、障害者手帳や医師の診断書の有無
等の基準により限定する方法があるが、そのほか施設の利用登録等により確認が
なされた者等を対象とするといった方法で認めていくべきとの要望もある。この
ため、このような意見等を踏まえ、規定の明確性を担保しつつ可能な限り範囲を
広げていくよう努めることが適当と考えられる。

○4 第37条第3項の複製方式の拡大について

本事項については、対象とする障害種の範囲の検討と密接な関係を有するため、
知的障害者、発達障害者等関係の課題と併せて検討を行った。(2(5)で詳述)

○5 第37条第3項の範囲の拡大に関するその他の条件について

今後、障害者向けの録音物等の市場が大きくなってくることも考えられ、営利事
業としてこれらの複製を行う場合は権利制限の取扱いを慎畢に検討すべきではな
いかとの意見があった。
また、コンテンツの提供者等によりこれらの鈴音物が提供されることが本来望ま
しいとの考え方胡からは、コンテンツ提供者自らが、障害者に利用しやすい形態
で提供するインセンティブを阻害しないようにする必要があると考えられること
から、録音物等の形態の著作物が市販されている場合については、権利制限を適
用しないこととすることが適当と考えられる。

(3)聴覚陣容者関係についての対応方策(1(1)ウ・エ関係)

○1 手話・字幕を挿入した録画物の作成等の取扱いについて

現在、放送行政においては、放送局自らが字幕放送等を行うことについて目標を
設定しつつ取組を進めてきている。このような取組は今後とも重視されるべきも
のであり、また相当の進捗が見られるが、しかしながら、緊急放送等を含めたす
べての放送番組において字幕等が対応できている状況にはないとの指摘がある。
また、放送行政以外の分野では必ずしも同様の取組が進んでいるとは言い難い状
況にあると考えられる。

【参考:字幕付与可能な放送時間に占める字幕放送時間の割合、手話放送の割合】
 <字幕放送>
 NHK(給合テレビ)    平成19年度実績  100%(※44.6%)
 在京キー5局       平成19年度実績 89.0%(※39.5%)
 在阪準キー4局      平成19年度実績 90.8%(※34.3%)
 在名広域4局       平成19年度実績 88.2%(※30.8%)
 系列ローカル局      平成19年度実練 67.7%(※26.1%)
   ※は、総放送時間に占める字幕放送時間の割合
 <手話放送>
 NHK(教育テレビ)    平成19年度実績 2.4%
 民放(キー5局平均)   平成19年度実練 0.1%

【参考:日本語によるパッケージ系出版物のうち
                    字幕の付与されているものの割合】
 日本図書館協会による頒布事業において、日本で製作された日本語による映像
 資料のうち、日本語字幕付きVHS:139本(0.66%)、日本語字幕付きDVD:
 約1,000本(7.1%)

一方、前述のように、社会福祉法人聴力障害者情報文化センターでは、放送事業
者や著作者団体との事前の一括許諾契約を結ぶことで、字幕・手話を挿入した録
画を行っている(NHK、関東民放5社、関西民放5社、地方局等・次ページ図参照)。
字幕付き、手話付きのビデオ又はDVDが約3,000本あり、作品ごとに利用条件、
利用方法を設定しつつ、利用登録制により、貸出等を行っている。なお、聴力障
害者情報文化センターによると、同センタ}において制作しているDVDは、人間
の台詞のみならず、そのDVDの鑑賞に必要な音声情報を文字にした字幕(いわゆ
るバリアフリー字幕)が挿入されたものとなっているとともに、聴覚障害者の障
害の程度に応じた字幕の選択が可能となっているとのことである。
しかしながら、必ずしも希望作品について希望どおりに許諾が得られているわけ
ではないとの指摘があり、また、一括許諾契約の相手方以外の個人や取材先等に
関するものを製作しようとする場合には、改めて個別の契約が必要となるところ
である。
このような状況を踏まえ、聴覚障害者の用に供するために字幕等を挿入して複製
を行う行為についても、権利制限の対象として新たに位置づけることが適当と考
えられる。

【参考:字幕ビデオ制作等の流れ】(図省略)

○2 複製を行う主体について

現行では、上記のように、聴覚障害者情報提供施設等を中心として、関係団体と
の契約により字幕の付与等が行われているが、視覚障害者関係の権利制限の要望
と同様に、公共図書館等についても複製主体としてもらいたいとの要望がなされ
ている。これについては、登録制などにより利用者が聴覚障害者等であることの
確認が行える体制が整えられていること等の条件を満たす公共施設についても、
複製主体として含めていくことも考えられるが、一方で、映像資料を取り扱うこ
ととなることに関して、

i)点字図書と異なり、字幕等を付した映像資料については、健常者にとっても
 利用価値が損なわれない可離があることから、貸出し対象者の確終について
 より慎重な体制が求められること、
ii)放送やDVD等には、複製の抑止等をするための技術的な保護手段がかけられ
 ているなど、技術的にもより高度な体制が求められること

などにかんがみ、これらの体制が確保されるかどうかを見極めた上で、適切な施
設等を複製主体としていくことが適当と考えられる。(なお、現行の第37条の2
(いわゆるリアルタイム字幕のための権利制限)についても、第37条の規定とは
異なり、リアルタイム字幕の付与のために一定の能力が必要との観点から、個別
の聴覚障害者情報提供施設ではなく、それを設置する事業者等が指定されている。)

○3 対象者の範囲について

対象者の範囲については、視覚障害者関係の場合と同様の観点から、規定の明確
性を担保しつつ可能な限り範囲を広げていくよう努めることが適当と考えられる。

○4 その他の条件について

○前述のように字幕等を付した映像資料については、健常者にとっても利用価値
が損なわれない可能性があることから、例えば、利用登録制などのほか、複製物
について技術的保護手段を施すこと等、利用者と複製主体との関係を踏まえて流
出防止のための一定の取組が可能となるよう体制の整備を求めることが適当と考
えられる。

○このほか、営利事業として複製を行う場合についての考え方や、コンテンツの
提供者等によりこれらの録音物が提供されることが本来望ましいとの考え方から
は、コンテンツ提供者自らが、障害者に利用しやすい形態で提供するインセンテ
ィブを阻害しないようにする必要があると考えられることについては、視覚障害
者関係の権利制限の場合と同様と考えられる。

○5 公衆送信の取扱いについて

字幕等を付した映像資料を公衆送信するとの要望は、具体的には、専ら聴覚障害
者を対象としたCS放送を念頭に置いた要望とのことであるが、公衆送信は、広く
権利者に影響を与える可能性があることから、権利制限を認めていくとする場合
には、利用者の限定の手段等が確保されることを前提とすることが適当と考えら
れる。

(4)知的障害者、発達障害者等関係についての対応方策(1(1)オ・カ関係)

○1 現行規定での対応可能性

ヒアリングの中では、学校教育に関係した事例が多く見られたが58、著作権法第
35条第1項では、学校その他の教育機関において、教育を担任する者及び授業を
受ける者が、授業の過程において使用する場合には、公表された著作物を複製す
ることができ、また翻案して利用することもできる(第43条第1号)とされてい
る。
この「教育を担任する者」については、その支配下において補助的な立場にある
者が代わって複製することも許されると考えられており糾、学準教育、社会教育、
職業訓練等の教育機関での活用であれば、要約等やデイジー図書の製作の態様に
よっては、現行法においても許諾を得ずに複製できる場合があると考えられる。
ただし、複製の分量や態様、その後の保存等の面においては、必要と認められる
限度に限られる。
一方、ヒアリングの中では、これらの取組の中核的な施設のようなものがデイジ
ー図書の蓄積や提供を行う構想等も提示されているが、そのような形態であれば、
第35条第1項の範囲の複製とは考えにくい。

○2 対応方策について

知的障害者、発達障害者等にとって、著作物を享受するためには、一般に流通し
ている著作物の形態では困難な場合も多く、デイジー図書が有効である旨が主張
されており、著作物の利用可能性の格差の解消の観点から、視覚障害者や聴覚障
害者の場合と同様に、本課題についても、何らかの対応を行う必衰性は高いと考
えられる。
このような観点から、視覚障害者関係(上記(2))、聴覚障害者関係(上記
(3))の権利制限の対象者の拡大を検討していく中で、権利制限規定の範囲の
明確化を確保する必要性はあるものの、可能な限り、知的障害、発達障害等によ
り著作物の利用が困難な者についてもこの対象に含めていくよう努めることが適
切である。その際、複製の方式については、録音等の方式に限定せず、それぞれ
の障害に対応した複製の方法が可能となるよう配慮されることが望ましいと考え
られる。

(5)まとめ

以上のように、障害者の著作物利用についての権利制限については、障害者の情
報アクセスを保障し、情報格差を是正する観点から、対象とする障害種を視覚障
害や聴覚障害に限定することなく、障害等により著作物の利用が困難な着であれ
ば、可能な限り権利制限規定の対象に含め、また、複製等の主体、方式について
もそれに応じて拡大を行う方向で、速やかに所要の措置を講ずることが適当であ
る。
また、権利者への影響の観点から、権利制限を行うには一定条件の確保を前提と
するために速やかな措置が難しい事項があった蓼合についても、その条件が整い
次第、所要の措置を実施に移すことが適当と考える。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック