特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議 特別支援教育の更なる充実に向けて (審議の中間とりまとめ)~早期からの教育支援の在り方について~ 平成21年2月12日2009-02-12

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 特別支援教育の更なる充実に向けて (審議の中間とりまとめ)
  ~早期からの教育支援の在り方について~  平成21年2月12日
 特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議

はじめに

特別支援教育は、平成17年12月の中央教育審議会答申(「特別支援教育を推進
するための制度の在り方について」)により、その理念及び制度改正の方向が示され、
それに基づき、平成18年6月に学校教育法が改正され、平成19年4月から新た
な制度としてスタートした。
現在、都道府県や市町村、各学校においては、平成19年4月に出された文部科
学省初等中等教育局長通知「特別支援教育の推進について」や障害者基本計画に基
づく重点施策実施5か年計画(平成19年12月障害者施策推進本部決定)、教育振
興基本計画(平成20年7月閣議決定)等に基づき、校内委員会の設置、実態把握
の実施、特別支援教育コーディネーターの指名、特別支援教育支援員の配置、個別
の教育支援計画や個別の指導計画の作成・活用、さらに教職員研修など教員の専門
性向上のための取組が進められており、これらの特別支援教育の体制整備は、各学
校種において一定程度、進みつつある。
しかし、幼児児童生徒一人一人の教育的ニーズを把握し、それに対応した適切な
指導及び必要な支援を行うという特別支援教育の理念の実現という観点からは、こ
れらの取組はまだ緒についたばかりである。今後、特別支援教育体制の更なる整備
のほか、障害のある幼児児童生徒の将来を見通し、一人一人の教育的ニーズに応じ
た計画的かつ適切な指導及び必要な支援を行うことなど特別支援教育の更なる質的
な充実を図っていくことが求められており、そのためには、なお多くの課題がある。
また、平成17年12月の中央教育審議会答申においては、障害のある児童生徒の
就学の在り方など、更なる検討を要するとされた課題もある。
このような状況の中、本協力者会議は、[1]幼稚園、小学校、中学校、高等学校及
び特別支援学校等における特別支援教育の推進体制の整備について、[2]乳幼児期か
ら学校卒業後まで一貫した支援について、[3]障害のある児童生徒の就学について、
等の課題について、特別支援教育の実施状況を評価しつつ、更なる推進方策につい
て検討を行うため、平成20年7月28日に設置された。以来、特別支援教育の理
念の実現に向けた具体的な施策を検討するための議論を重ねてきた。そして、これ
らの課題のうち特に重要である、早期からの教育相談・支援や就学指導の在り方を
中心に、多くの団体から意見を聴取するとともに検討を行い、このたび、本協力者
会議の審議の中間とりまとめとして「特別支援教育の更なる充実に向けて~早期か
らの教育支援の在り方について~」をとりまとめた。なお、本協力者会議で検討す
べき他の課題については、引き続き検討を行う予定である。
本報告を通じ、早期からの教育支援の体制が整備され、就学前から就学先のそれ
ぞれの学校において、子どもの将来の自立と社会参加に向けて、一人一人の教育的
ニーズに対応した適切な指導及び必要な支援が推進されることを期待するものであ
る。

1.特別支援教育を巡る動向と更なる推進のための基本的な考え方について

(1)特別支援教育制度への移行と国内外の動向

・平成18年6月の学校教育法改正により、平成19年4月から新しい特別支援
教育がスタートした。特別支援教育の目指すところ(理念)は、「障害のある幼児
児童生徒の自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援するという視点に立ち、
幼児児童生徒の一人一人の教育的ニーズを把握し、その持てる力を高め、生活や
学習上の困難を改善又は克服するため、適切な指導及び必要な支援を行うもの」(平
成17年12月中央教育審議会答申「特別支援教育を推進するための制度の在り
方について」より)であり、改正法では、[1]従前の盲学校、聾学校及び養護学校
について、障害種別を超えた特別支援学校の制度とすること、[2]特別支援学校に
おいては、在籍する幼児児童生徒の教育を行うほか、幼稚園、小学校、中学校、
高等学校等からの要請に応じて助言・援助に努めること(特別支援学校のセンタ
ー的機能)、[3]幼稚園、小学校、中学校、高等学校等においては、発達障害を含む
障害のある幼児児童生徒に対して適切な教育を行うことが規定された。

・また、平成18年12月の教育基本法改正では、「国及び地方公共団体は、障害
のある者が、その障害の状態に応じ、十分な教育を受けられるよう、教育上必要
な支援を講じなければならない。」との規定が新設され、特別支援教育の実施が教
育における憲法とも言える教育基本法に明確に位置付けられた。また、これに先
立ち、平成16年12月には発達障害者支援法が成立し、特に発達障害のある子
どもの早期発見、早期の発達支援が強く求められている。

・これらの法改正等を踏まえ、文部科学省では、平成19年4月から新たな制度
として特別支援教育がスタートするに当たり、文部科学省初等中等教育局長通知
「特別支援教育の推進について(19文科初第125号)」を発し、特別支援教育
の理念や校長の責務等を示すとともに、各学校における必要な体制整備として、
校内委員会の設置、実態把握の実施、特別支援教育コーディネーターの指名、個
別の教育支援計画*1や個別の指導計画*2の作成・活用、教職員研修の実施等の取組
を求めた。

・各都道府県・市町村及び各学校においては、現在、特別支援教育に関する体制
整備が進められており、特に小・中学校では、校内委員会の設置や特別支援教育
コーディネーターの指名などの基本的な体制は整備されつつあるものの、個別の
教育支援計画や個別の指導計画の作成・活用などの取組は十分ではなく、特別支
援教育の理念の実現という観点から、大きな課題の一つと考えられる。

・一方、国際的には「障害者の権利に関する条約」が、平成18年12月、第61
回国連総会において採択され、平成20年5月に発効したところである。我が国
では平成19年9月に署名し、現在、政府において批准に向けた検討が進められ
ているところであるが、同条約が求める障害者を「包容する教育制度(インクル
ーシブ・エデュケーション・システム)」と特別支援教育との関係が論点の一つと
なっている。

(2)基本的な考え方と改善の基本的方向

・このような特別支援教育を巡る国内外の動向や、教育委員会、各学校等の取組
の状況を踏まえると、特別支援教育の理念の実現という観点から、早期からの教
育相談・支援、就学指導の充実を図ることが最も重要かつ優先的に取り組むべき
課題である。

・そのため、本協力者会議としては、障害のある幼児児童生徒一人一人のニーズ
を把握し、適切な指導及び必要な支援を図る特別支援教育の理念を実現させてい
くためには、早期からの教育相談・支援、就学指導、就学後の適切な教育及び必
要な教育的支援全体を一貫した「教育支援」ととらえ直し、個別の教育支援計画
の作成・活用の推進を通じて、一人一人のニーズに応じた教育支援の充実を図る
ことが、今後の特別支援教育の更なる推進に向けた基本的な考え方として重要と
考える。

・個別の教育支援計画の作成・活用により、[1]障害のある子どもの教育的ニーズ
の適切な把握、[2]支援内容の明確化、[3]関係者間の共通認識の形成、[4]家庭や医
療、福祉、保健等の関係機関との連携強化、[5]定期的な見直し等による継続的な
支援、などの効果が期待でき、その取組を強力に推進していくことは、特別支援
教育の理念の実現につながるものである。

・これにより、これまでの就学指導中心の「点」としての教育支援から、早期か
らの支援や就学相談から継続的な就学相談・指導を含めた「線」としての継続的
な教育支援へ、そして、家庭や関係機関と連携した「面」としての教育支援を目
指すべきである。

2.早期からの教育相談・支援の充実について

(1)早期からの教育相談の充実や保護者への情報提供の在り方

○早期からの教育相談の充実や保護者への情報提供の在り方

・障害のある子どもにとって、その障害を早期に発見し、早期からその発達に
応じた必要な支援を行うことは、その後の自立や社会参加に大きな効果がある
と考えられるとともに、障害のある子どもを支える家族に対する支援という観
点からも、大きな意義があるものである。

・このため、市町村教育委員会や都道府県教育委員会は、小・中学校の特別支
援学級やいわゆる通級指導教室、特別支援学校のセンター的機能等、それぞれ
の保有する資源の十分な活用を図るとともに、教育委員会の体制整備や専門性
の向上、関係機関との連携による医療、福祉、保健等関係機関との情報の共有
化等を通じて、早期からの教育相談・支援の更なる充実を図ることが求められ
る。また、国においても、平成20年8月に国立特別支援教育総合研究所に設
置された発達障害教育情報センターの機能の充実を図るなどして、保護者や教
育委員会に対する適切な情報提供を行うことが重要である。

・施策の実施に当たっては、公立幼稚園を所管する教育委員会と、私立幼稚園
及び保育所等を所管する首長部局との連携・協力を十分に図る必要があり、例
えば先進的な自治体においては、自治体内での窓口を一本化する、教育委員会
に「子ども課」等の名称で所管を一元化する、部局を横断した連携体制を構築
するため、関係組織を統括する「発達支援室」を設置するなどの取組が行われ
ている。また、早期からの教育相談の充実を図る場合には、幼稚園等の施設や
特別支援教育にかかわる人材が比較的豊富な地域と、十分には整っていない地
域のように条件の違いがあることを踏まえ、多様な地域の状況に応じた柔軟か
つきめ細かな施策が求められる。

・さらに、幼稚園、保育所や認定こども園、療育機関等を利用しない障害のあ
る子どもの場合や、これらの機関を利用していても連携が十分ではない場合に
は、教育委員会としては事前に状況等を把握することができず、就学時健康診
断の段階で初めて幼児の状況が分かることがある。このため、教育委員会は、
特別支援連携協議会*3 等のネットワークを活用するなどして医療、福祉、保健
部局等との連携や地域との連携を十分に図り、例えば乳幼児健診の結果を必要
に応じ共有するなどして幼児の状況把握に努めるほか、把握した後には関係機
関と連携し、可能な限り早期に十分な支援を行うことが大切である。

・現在、自治体において様々な相談支援のための手帳やファイル等を作成して
教育相談に活用している例があり、有効な取組であると考える。このような教
育相談・支援に活用する手帳やファイル、個別の(教育)支援計画等について
は、障害のある子どもにかかわる個人情報が含まれており、また、関係機関や
関係者がその情報を共有化することを目的とするものであることから、これら
の意義を教育委員会担当者が十分に理解した上で保護者に対して、それらを作
成することの意義や活用の目的等について十分な説明を行い、理解と協力を得
ることが必要である。

・また、個人情報を保有する機関や関係者においては、個人情報が漏えいした
り滅失したりすることがないよう、適切な取扱いに万全を期すことが肝要であ
る。

○障害のある子どもを支える家族に対する支援

・早期からの教育相談には、子どもの障害の受容にかかわる保護者への支援、
保護者が障害のある子どもとのかかわり方を学ぶことにより良好な親子関係を
形成するための支援、乳幼児の発達を促すようなかかわり方についての支援、
障害による困難の改善に関する保護者の理解への支援、特別支援教育に関する
情報提供等の意義があり、教育委員会においても、障害のある子どもを支える
家族に対する支援に積極的に取り組む必要がある。

・また、早期における教育相談を行うに当たっては、多くの保護者は我が子の
障害に戸惑いを感じ、就学先の決定に対しても不安を抱いている時期であるこ
とから、このような保護者の気持ちを十分にくみ取り、保護者にとって身近な
利用しやすい場所で安心して相談を受けられるよう工夫するなど、保護者の気
持ちを大切にした教育相談を行うことが大切である。

・その際、例えば発達障害等があることが想定されても、障害があると明確に
は判断できない場合や、障害があるが、保護者がそれに気付き適切に対応でき
にくい場合など、「気になる」、「子育てに対して不安である」という段階から、
その子どもだけに限らず、その保護者に対しても支援を行う必要がある。

(2)幼稚園等における早期支援の充実

○幼稚園における特別支援教育の現状

・学校教育法の改正(平成18年6月公布、平成19年4月施行)により、幼
稚園は、その在籍する障害のある幼児に対して障害による学習上又は生活上の
困難を克服するための教育を行うことが規定された。また、平成20年3月に
告示された新しい幼稚園教育要領においても、障害のある幼児について個別の
指導計画や個別の教育支援計画を必要に応じて作成するなど、個々の幼児の障
害の状態などに応じた指導内容や指導方法の工夫を計画的、組織的に行うこと
が示された。

・一方で、文部科学省の調査によると、幼稚園における校内委員会の設置、特
別支援教育コーディネーターの指名、教職員研修の実施などの特別支援教育体
制整備については、取組が十分ではない状況にあることが指摘されている。

○幼稚園の特別支援教育体制の充実

・幼稚園については、障害のある幼児の実態把握や校内委員会の設置、特別支
援教育コーディネーターの指名などの基本的な体制整備を早急に図っていくこ
とが必要である。また、それとともに、特別支援学校のセンター的機能による
支援を積極的に活用すること等を通じて、教員の特別支援教育に対する理解や
幼児の実態把握を進め、障害のある幼児に対する指導・支援の充実を図ること
が必要である。

・国においては、平成19年度から実施している「発達障害早期総合支援モデ
ル事業」の成果をとりまとめ、関係者に対してその成果を普及していくことが
必要である。

○幼稚園における個別の教育支援計画等の作成推進

・幼稚園における特別支援教育を推進するためには、1.(2)の基本的方向を
踏まえ、個別の指導計画や個別の教育支援計画を作成・活用するなどして、一
人一人の教育的ニーズに応じた支援の充実を図ることが必要である。

○教育委員会等による支援

・私立幼稚園を含む各幼稚園において、上記の取組を推進するためには、教育
委員会が首長部局と連携しつつ、幼稚園に対する支援を行うことが重要である。
また、教育委員会等がこれまで以上に幼稚園や小学校等との連携を深めること
は、障害のある子ども一人一人に対する指導や支援の連続性を確保し、幼児教
育から義務教育へのスムーズな移行に資するものである。

・このため、教育委員会は、国の「発達障害等支援・特別支援教育総合推進事
業」を十分に活用して、幼稚園に対する専門家チームの派遣、定期的な巡回教
育相談、小学校の教員を対象とした研修への参加や幼稚園教員を対象とした研
修の実施など研修の機会の提供、特別支援学校のセンター的機能による支援を
積極的に行うことが必要である。これらの施策を通じて、私立幼稚園を含む各
幼稚園における障害のある幼児に対する指導力の向上や支援の充実等、幼稚園
における特別支援教育を推進していくことが強く求められる。

○保育所等における早期支援の充実

・すべての障害のある子どもに対し教育上必要な支援を行うためには、幼稚園
以外の小学校就学前施設における早期支援の充実も重要である。保育所につい
ては、平成20年3月に告示された保育所保育指針において、個別の指導計画
や個別の支援計画を作成するなど、障害のある子どもに対して、適切な対応を
図ることが示された。また、認定こども園についても、各都道府県において認
定基準を定める際に参酌すべきとされている、国が定める施設の設備及び運営
に関する基準において、教育及び保育内容は幼稚園教育要領及び保育所保育指
針に基づくこととされているとともに、障害のある子どもの受入れに適切に配
慮すべきことが示されている。

・保育所や認定こども園においては、保健・療育機関及び特別支援学校等の助
言又は援助を活用しつつ、障害のある子どもに対する適切な支援の充実を図る
とともに、教育委員会は、首長部局とも連携しつつ、これらの施設に対しても
必要な支援を行っていく必要がある。

3.就学指導の在り方について
(1)就学指導の現状と課題

[1]就学に係る現行の制度

・障害のある子どもの就学先については、制度上、その障害の程度が就学基準
(学校教育法施行令第22条の3)に該当する場合は、市町村教育委員会にお
いて保護者及び教育学、医学、心理学その他の障害のある児童生徒等の就学に
関する専門的知識を有する者の意見を聴いた上で、特別支援学校への就学を、
障害の程度が就学基準に該当していない場合には、小・中学校への就学を決定
することとされている。また、障害の程度が就学基準に該当する場合であって
も、小・中学校において適切な教育を受けることができる特別の事情があると
市町村教育委員会が認める場合は、小・中学校への就学を決定する(認定就学
制度)こととされている。

・なお、実際の就学指導に当たっては、市町村教育委員会は、保護者や専門家
の意見を聴いた上で総合的な見地から判断することとなっている(「障害のある
児童生徒の就学について」(平成14年文部科学省初等中等教育局長通知))。

・現在の就学指導の手続きについて、法令上は、就学する前年度の10月31
日までに学齢簿が作成され、原則として11月30日までに就学時健康診断を
実施し、その結果に基づき保護者や専門家からの意見聴取を行った上で、保護
者に対して翌年1月31日までに就学先を決定・通知することとされている。
しかし、実際には、多くの市町村において、入学の1年ほど前から就学相談や
体験入学等を行うなど、就学に向けての取組を早期から実施するようになって
きている。

[2]近年の就学指導等の改善に関する取組

就学指導に関し、国は、近年、以下の通り、就学基準や就学手続きの弾力化等
の見直し、市町村教育委員会が就学先を決定する際の専門家や保護者の意見聴取
の義務付けなどの改善を行っている。

○平成14年学校教育法施行令(政令)の改正
・医学や科学技術の進歩等を踏まえ、教育学、医学の観点から、盲・聾・養護学
校(当時)に就学すべき障害の程度(就学基準)を改正。

・就学基準に該当する児童生徒については、その障害の状態に照らし、就学に係
る諸事情を踏まえて、小・中学校において適切な教育を受けることができる特別
の事情があると市町村教育委員会が認める場合には、小・中学校に就学させるこ
とができるよう就学手続きを弾力化(認定就学の制度化)。

・障害のある児童の就学生徒に当たり、専門家の意見聴取を市町村教育委員会に
義務付け。

○平成19年学校教育法施行令(政令)の改正

・障害のある児童の就学に際して、日常生活上の状況等をよく把握している保護
者の意見を聴取することにより、当該児童の教育的ニーズを的確に把握できるこ
とが期待されること等から、保護者からの意見聴取を市町村教育委員会に義務付
け。

(2)今後の就学指導の在り方について
[1]基本的な方向

・1.(2)の基本的方向で述べたように、本協力者会議としては、障害のある
子どもたちの将来の自立や社会参加を見通し一人一人の教育的ニーズに応じた
適切な指導や必要な支援を行う観点から、個別の教育支援計画の作成・活用を
図り、一貫した教育支援体制を構築していく必要があると考える。

・このように個別の教育支援計画を作成していくことにより、当該幼児児童に
対する長期的な展望に立った指導や支援の方針や方向性について、保護者も含
めた関係者の間で共通理解が醸成されていくことが期待される。

・就学指導については、このような教育支援の一環であり、単に就学先を決定
するだけでなく、長期的な展望に立った指導や支援の方針を含めたものととら
え、その改善・充実を図る必要があると考える。

・そして、幼稚園だけでなく保育所、認定こども園、医療、福祉、保健等の多
様な関係機関が主体となって障害のある幼児にかかわる就学前の段階から義務
教育段階への移行期(以下「就学移行期」という。)においては、関係者間の情
報や認識の共有化、就学先の学校での教育支援への円滑な移行を図るため、市
町村の教育委員会が中心となって就学移行期の個別の教育支援計画*4 を作成・
活用し、それを就学後は就学先の学校に引き継いでいくことが適当である。

・これにより、私立幼稚園を含む幼稚園等と教育委員会との連携強化、教育委
員会から幼稚園等への支援の充実につながることが期待できる。

・就学移行期に作成される個別の教育支援計画には、幼稚園等において個別の
教育支援計画や個別の支援計画等が作成されている場合は、それらとの整合性
や一貫性をもって作成するよう努めることが必要である。また、就学移行期に
作成される個別の教育支援計画は、幼稚園等における幼児の状況等を踏まえ、
就学先の学校及び就学先の学校における教育支援の内容(通級による指導や通
常の学級での配慮の内容、特別支援学校や小・中学校の特別支援学級での指導
・支援内容など)等が含まれるものであり、その作成手続の中で、専門機関等
の関係者や保護者の参加を得て、当該児童に最もふさわしい教育支援の内容や、
それを実現できる就学先等を決定していくべきである。

・これらにより、就学移行期に作成される個別の教育支援計画は、保護者を含
め関係者の間で、当該幼児児童に対する長期的な展望に立った指導や支援の方
針や方向性に対する共通理解を得ながら作成されるものとなり、当該児童にふ
さわしい就学先の学校や教育支援の内容についても、早い時期から共通認識が
醸成されていくことが期待される。

・また、このような就学指導を適切に行うための前提として、就学先の小・中
学校や特別支援学校において必要な教育支援を行うための体制整備が求められ
るが、特別支援学校の設置管理や小・中学校の教職員配置に関し、権限と責任
を有する都道府県教育委員会においても特別支援学校の整備も含め適切な体制
整備を図るとともに、市町村教育委員会の取組を積極的に支援していくことが
必要である。

・自治体によっては、既に幼稚園、保育所、認定こども園、医療、福祉、保健
等の関係機関と保護者が協力して類似の計画(就学支援シートなど)を作成し、
就学先の学校に引き継ぐ取組を行っている例も見受けられる。また、これまで
も、市町村教育委員会では、就学指導のため、子どもの状況や必要とされる教
育支援の内容等について資料を作成してきており、このような既存の取組を活
用し、その充実を図ることにより、着実に取り組むことが必要である。

・また、就学相談・指導は、市町村教育委員会のみならず、各学校も重要な役
割を担うものである。各学校において、特別支援教育コーディネーターを中心
として、体験入学や就学相談等に積極的に取り組んでいる例があり、このよう
な取組についてより一層の充実が求められる。

・さらに、市町村教育委員会と居住地に近い学校が連携して就学移行期におけ
る個別の教育支援計画を作成することも有効な方法であるが、その場合、就学
移行期における個別の教育支援計画は、あくまで市町村教育委員会において責
任をもって作成するものであり、すべてを学校に任せることのないように留意
すべきである。

・このような就学移行期における個別の教育支援計画は、単に就学の場を決定
するための資料ではなく、障害のある子どもの可能性を最大限に伸ばし、自立
し、社会参加するために必要な力を培うために、長期的な見通しを含めてどの
ような指導や支援が必要か、という観点から作成することが重要であり、この
ことについて保護者等に十分に説明し、理解を得ることが必要である。

[2]市町村教育委員会が作成する個別の教育支援計画

・就学移行期において市町村教育委員会が作成する個別の教育支援計画の具体
的内容は、以下の通りとすることが適当である。

○位置付け
・市町村教育委員会が原則として翌年度の就学予定者を対象に、保護者や
幼稚園、保育所、認定こども園、医療、福祉、保健等の関係機関と連携し
て個別の教育支援計画を作成し、就学後は学校が作成する個別の教育支援
計画の基となるものとして就学先の学校に引き継ぐものとする。

・その際、幼稚園、保育所、認定こども園、医療、福祉、保健等の関係機
関が個別の支援計画やそれに類似した計画を作成・活用している場合は、
それらとの一貫性や整合性をもって作成するよう努めるものとする。

○記載内容
・障害の状態、教育的ニーズ、保護者の意見、就学先の学校で受ける指導
や支援の内容、就学先の学校、関係機関が実施している支援の内容等につ
いて記載することとする。

○作成する範囲
・小学校に就学する障害のある子どもを含め、障害に応じた教育支援を必
要とする者について、必要に応じて就学移行期における個別の教育支援計
画を作成することを目指しつつ、当面は、就学基準に該当する程度の障害
がある場合に原則として作成することとする。

[3]一人一人の教育的ニーズに応じた就学先決定手続き

○就学する学校の決定
・就学する学校の決定手続について、現行制度では、法令上、就学基準に示
された障害の種類及び程度に該当する子どもについては、原則として特別支
援学校に就学し、小・中学校において適切な教育を受けることのできる特別
の事情がある場合は認定就学により小・中学校に就学することとされている。

・障害のある子どもの就学先については、個別の教育支援計画の作成・活用
を通じて、一人一人の教育的ニーズをきめ細かく把握した上で決定するべき
であり、上記の現行制度については、今後、就学基準に該当するか否かに加
えて、障害の状態から必要とされる教育的ニーズ、保護者の意見や教育、医
学、心理学等専門的見地からの意見、学校や地域の状況等を市町村教育委員
会が総合的に判断して、本人の教育的ニーズに最も適切に対応できる学校を
就学先として決定するようその手続きを改めることが適当である。

・そして、障害のある児童の就学に際して、当該児童の教育的ニーズを的確
に把握するためには、生育歴や日常生活上の状況等をよく把握している保護
者の意見を聴取することが大切である。また、就学以前の早い時期から、幼
稚園、保育所、認定こども園、医療、福祉、保健等の関係機関が個別の支援
計画等の作成・活用を図ることにより、本人の将来の自立と社会参加という
視点に立った長期的な展望の下で、当該幼児児童に対する支援方法等につい
て、保護者や関係者間で共通認識が醸成されていくことが期待できることか
ら、就学指導は単に就学先を決定するためのものではなく、当該幼児児童の
支援計画の一環として行われることになる。

・また、基本的には、保護者が子どもの成長を願い、最適な教育機会を子ど
もに与えたいという思いと、将来の自立と社会参加を目指し一人一人のニー
ズに合わせた教育支援を提供しようとする市町村教育委員会の判断とは、同
じ方向を目指したものと考えるが、実際の児童生徒の就学先の決定に際し、
保護者の意見と市町村教育委員会の判断が異なる場合がある。

・もとより、国や自治体は、小・中学校において適切に特別支援教育が行わ
れることを目指して着実な努力を積み重ねるべきであるが、障害の状態に
よっては特別支援学校における、より専門的な指導や手厚い支援が必要な子
どももいる。また、様々な理由により、地域の小・中学校に就学させること
を強く希望する保護者もいれば、就学先の学校について思い悩み、判断に時
間が必要な保護者もいる。

・市町村教育委員会は、保護者への情報提供や相談を十分に行うとともに、
保護者の意見を十分に踏まえた上で、子どもにとって最も適切な就学先を判
断することが必要である。また、就学移行期の個別の教育支援計画の作成・
活用を通じ保護者との共通認識を醸成しておくことや、後述する継続的な就
学相談・指導を実施することなどにより、適切かつ柔軟できめ細かな対応を
行っていくことが求められる。

・そのような対応を十分に行うことを前提とした上で、制度としては義務教
育を実施する責任を有する教育委員会において最終的に就学先を決定するこ
とが適当であると考える。

・また、就学先の決定について、就学移行期における個別の教育支援計画の
作成・活用を通じて総合的に判断する上記の仕組みへの転換を図った場合は、
人的・物的環境が適切に整備されている等の特別な事情があると市町村教育
委員会が認める場合に小・中学校に就学させることができる現在の認定就学
制度は、その趣旨を更に進める形で、新しい仕組みに組み込んでいくことが
適当である。

○就学後の継続的なフォローアップ

・市町村教育委員会及び都道府県教育委員会は、相互に連携しつつ、障害の
ある児童生徒に適切な指導及び必要な支援を行うという観点から、就学後の
継続的なフォローアップを行うことが大切である。そのため、必要に応じて
就学先の学校が作成する個別の教育支援計画の見直しに参画するなどにより、
定期的に就学先での状況を把握しつつ、状況により就学先の学校についての
再検討を行うことが必要である。また、就学後の継続的なフォローアップの
ためには、首長部局との連携のほか、各学校種間の連携も求められる。

[4]今後の就学指導の流れ
・1(2)で述べたように、本協力者会議としては、今後の特別支援教育の更
なる推進に向けた基本的な考え方として、障害のある子どもに対する多様な支
援全体を一貫した「教育支援」ととらえ、個別の教育支援計画の作成・活用を
通じて、特別支援教育の理念の実現を図ろうとするものであり、キーワードは
「個別の教育支援計画の作成・活用」であると考えるが、その流れを整理すれ
ば以下のようになる。

・就学前の段階では、幼稚園等における個別の教育支援計画や医療、福祉、保
健等の関係機関における個別の支援計画の作成・活用等を通じて、一人一人の
教育的ニーズに応じた支援の充実を図ることが重要である。

・そして、就学予定者に対しては、市町村教育委員会において、関係機関や専
門家、保護者との十分な連携を図りながら、幼稚園等における個別の教育支援
計画、子どもの障害の状態や相談・支援にかかわる情報を記載した相談・支援
手帳(ファイル)等を活用しつつ、就学移行期における個別の教育支援計画を
作成・活用し、長期的な見通しを含めてどのような指導や支援が必要かを十分
に踏まえた上で、その子にとって最もふさわしい教育支援の内容や就学先を決
定することが重要である。

・さらに、就学移行期における個別の教育支援計画は、就学先の学校に引き継
ぐものとし、就学後は各学校において、これを基にして個別の教育支援計画を
作成し、活用することが求められる。また、教育委員会は、就学後の継続的な
フォローアップを行い、状況により就学先の学校についての再検討を行うこと
が必要である。

・なお、個別の教育支援計画等について、関係機関との連携・協力により作成
・活用することにより、医療、福祉、保健等の各分野の連携強化を図ることが
必要があり、そのためには、文部科学省と厚生労働省との連携も必要である。
・このような取組を通じて、特別支援教育の理念の実現を図ろうとするもので
ある。

4.継続的な就学相談・指導の実施について

○学校が作成する個別の教育支援計画
・現在、ほとんどの特別支援学校において個別の教育支援計画が作成されてい
るほか、小・中学校においても作成が進められている。

・このような学校が作成する個別の教育支援計画については、平成20年3月
に告示された新しい小・中学校の学習指導要領において、個々の児童生徒の障
害の状態等に応じた指導内容や指導方法の工夫を計画的、組織的に行うために、
必要に応じて作成することが示されたところであり、子ども一人一人の教育、
医療、福祉、保健、労働等様々な観点から生じるニーズに対応し、様々な関係
機関、関係者と連携して作成することが大切である。

○個別の教育支援計画の定期的な見直しを通じた継続的な就学相談・指導

・特別支援教育は、児童生徒一人一人の教育的ニーズに応じて適切な指導や必
要な支援を行うことを理念とするものであり、児童生徒の障害の状態の変化等
に応じて適切な教育を行うためには、就学時のみならず就学後も引き続き就学
相談・指導を行う必要がある。

・また、小学校や特別支援学校就学後、障害の状態の変化や適切な指導や支援
を行う場の検討の結果、就学先を変更することが必要な児童生徒もいる。この
ように児童生徒のニーズ等の変化に継続的かつ適切に対応するため、特別支援
学校や小・中学校において個別の教育支援計画の作成・活用を推進し、その内
容の充実を図るとともに、同計画を定期的に見直すことを通じて、継続的な就
学相談・指導を行う必要がある。

・そして、このように就学後も継続的に就学相談・指導を行うことにより、就
学先の変更を含め、児童生徒の一人一人の教育的ニーズに応じた適切な指導や
必要な支援の方法等を定期的に見直すことが必要である。

○継続的な就学相談・指導を行うための体制

・校内委員会等の体制整備状況や、子どもの教育的ニーズを継続的に把握する
ため、教育委員会による専門家チームの派遣や定期的な巡回教育相談等を通じ
た学校への支援が必要であり、そのため、国の「発達障害等支援・特別支援教
育総合推進事業」等の一層の充実を図ることが重要である。

5.居住地の小・中学校とのかかわりについて
○就学前の相談における小学校のかかわり

・早期からの教育相談については、多くの自治体によって取り組まれていると
ころであるが、就学相談を、居住地の小学校が行っている例があり、幼児期か
ら義務教育段階への継続的な教育支援という観点や小学校の管理職をはじめと
した教職員が特別支援教育に関する理解を深める観点から有効な試みであると
考える。

○特別支援学校に就学した場合の居住地の小・中学校のかかわり

・障害のある子どもが特別支援学校に就学する場合、地域とのつながりが希薄
となることを懸念する意見がある。

・障害のある子どもが、居住する地域とのつながりを深めるため、居住地の市
町村教育委員会は、特別支援学校に就学する子どもについても、自らの市町村
の子どもであると認識することが大切であり、このため、特別支援学校に就学
した児童生徒の教育について、居住地の教育委員会や小・中学校がかかわる取
組について検討することが必要である。

・居住地の学校との交流及び共同学習を進める中で、特別支援学校に在籍する
児童生徒が、居住する地域の小・中学校に副次的な籍をもち、小・中学校の学
校行事や学習活動に参加する等の直接的な交流や、学校・学級便りの交換を行
う等の間接的な交流を通じて、居住する地域とのつながりの維持・継続を図る
取組を行っている学校や自治体がある*5

・このような取組は、障害のある子どもの社会性の育成に資すると共に、障害
のない子どもにとっても、障害者への理解を深めるとともに、社会を構成する
様々な人々と共に生きていくことを学ぶ機会になるものである。また、市町村
教育委員会や小・中学校に対しては、特別支援学校に通っている子どもも地域
の子どもであるという意識啓発につながるものである。

・今後、各学校や自治体におけるこれらの取組も参考としつつ、特別支援学校
の児童生徒が居住する地域とのかかわりを深める取組について、校内で必要な
体制整備も含めて、例えば国において指針を示すことや、モデル事業を実施す
ることなどを通じて、促進していくことが必要である。

6.市町村教育委員会等の体制整備について

○適切な教育支援を行うための体制整備

・市町村教育委員会等が障害のある子どもに対し適切な教育支援を行うために
は、教育委員会に特別支援教育の経験豊かな職員を配置したり、退職教員を非
常勤職員等として配置したりするなど障害のある子どもに対する教育支援を行
うための体制整備を図るとともに、就学指導委員会の委員に専門性の高い人材
を配置することが必要である。

・都道府県教育委員会においても、専門家チームの派遣や巡回教育相談等の効
果的な実施や、特別支援学校のセンター的機能の充実などにより、市町村教育
委員会を積極的に支援することが必要である。

・国は、各市町村・都道府県教育委員会や国公私立を通じた各学校において一
定水準以上の体制整備が図られるよう、必要な財政措置について積極的に検討
すべきである。

・また、就学先の決定に際して市町村教育委員会において適切な判断ができる
ようにするため、市町村教育委員会が、早期支援に係る機関(幼稚園、保育所、
認定こども園、医療、福祉、保健等の関係機関)との連携強化による情報の共
有化を推進するための体制整備が必要である。

・さらに、市町村においては、教育委員会と首長部局との連携を密にして、教
育委員会や学校と医療、福祉、保健等の関係機関が情報を共有するなど連携が
円滑に図られるようにする必要がある。

・このほか、小規模であったり、関係機関や専門家等の人材が確保しにくい市
町村においては、例えば、複数の市町村教育委員会が共同で就学指導委員会を
設置するなど、複数の市町村が連携して体制整備を促進することも考えられる。

7.障害者の権利に関する条約について

・障害者の権利に関する条約において、教育については、第24条、インクルー
シブ・エデュケーション・システム(包容する教育制度)の解釈が課題となる。
本条約はインクルーシブ・エデュケーション・システムについて定義規定は示し
ていないが、条文上、障害者が、精神的及び身体的な能力をその可能な最大限度
まで発達させることを目的として、障害のある子どもとない子どもとが可能な限
り同じ場で教育を受けられるようにすることを求めているものと考えられている。
また、条約の制定過程等を踏まえれば、特別支援学校の存在は認められているも
のである。

・本条約が求めるインクルーシブ・エデュケーション・システムは、単なる場の
統合ではなく、子ども達を最大限度まで発達させる教育の質を求めており、その
ような教育が行われることを前提として、可能な限り同じ場で教育を受けられる
ようにすることを求めているものと考えられる。

・「障害のある幼児児童生徒の自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援する
という視点に立ち、幼児児童生徒一人一人の教育的ニーズを把握し、その持てる
力を高め、生活や学習上の困難を改善又は克服するため、適切な指導及び必要な
支援を行う」という特別支援教育の理念を実現するため、障害のある子どもに対
する多様な支援全体を一貫した「教育支援」ととらえ、個別の教育支援計画の作
成・活用を通じて、特別支援教育の一層の充実を図っていくべきことを内容とす
る今回の提言は、本条約の「インクルーシブ・エデュケーション・システム」の
実現にも沿うものと考えられる。

8.今後検討すべき課題について

本協力者会議においては、特別支援教育の理念の実現という観点から、まずは早
期からの教育相談・支援及び就学指導の充実を図ることが最も重要であり、かつ、
優先的に取り組むべき課題であると考え、これまでの検討結果を審議の中間とりま
とめとして今回とりまとめたものである。また、これまでの議論では、特別支援教
室構想を含めた義務教育段階における特別支援教育の在り方、特別支援教育に関す
る教員の専門性向上方策、後期中等教育段階における特別支援教育の充実方策等に
ついて、多くの意見が出されたところである。このため、特別支援教育の充実に向
け、これらの課題を含め、本協力者会議において検討すべき課題について、今後継
続して精力的に検討を行うことが必要である。