平成21年度文部科学白書 2010/06/182010-08-01

http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpab200901/1295628_012.pdf

4 拡大教科書等の普及充実

 いわゆる「拡大教科書」は,文部科学省の検定を経た教科書の文字や図形を拡
大して複製したもので,弱視の児童生徒が使用する教科書です。教科書の文字な
どを拡大するため分量が増えて,一冊の検定済教科書が数冊の分冊になることも
あります。「拡大教科書」は,これまでも特別支援学校や特別支援学級において,
いわゆる「一般図書* 5」として無償給与されてきました。また,平成16年度か
らは通常の学級に在籍する弱視の児童生徒にも無償給与されるようになり,20年
度には,全国で約640名の児童生徒に,約13,000冊の「拡大教科書」が無償給与
されています。この「拡大教科書」は,個人によって見え方の異なる弱視の児童
生徒の一人一人のニーズに応じた様々な工夫を行うことが必要なため,その多く
がボランティア団体などによって製作されており,「拡大教科書」を必要とする
児童生徒に行き渡るようにすることが課題となっています。
 こうした背景から,平成20年6月に「障害のある児童及び生徒のための教科用
特定図書等の普及の促進等に関する法律」(20年9月17日施行)が制定され,
「障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等* 6 の発行の促進を図る
とともに,その使用の支援について必要な措置をすることなどにより,教科用特
定図書等の普及の促進等を図る」ことが明記されました。
 弱視の児童生徒が「拡大教科書」を使用できるようにすることは,教育の機会
均等の観点からも重要であり,文部科学省では,必要とする児童生徒に「拡大教
科書」が速やかに,かつ,確実に給与されるよう,法律の施行や有識者会議の報
告を受け,「拡大教科書」の標準的な規格を定め,教科書発行者による「拡大教
科書」の発行を促しています。また,「拡大教科書」などを製作するボランティ
ア団体などを支援するため,ボランティア団体などが希望する教科書デジタルデ
ータの提供を行っています。
 これらの具体的な取組を通じて,拡大教科書等を必要とする全ての児童生徒に
対して普及するよう必要な措置を行っています。

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* 5 一般図書
 学校教育法附則第9条では,特別支援学校や特別支援学級などにおいて,文部
科学省の検定済教科書,文部科学省の著作教科書以外の教科書を使用することが
できるとされている。

* 6 教科用特定図書等
 視覚障害のある児童及び生徒の学習の用に供するため文字,図形等を拡大して
検定教科用図書等を複製した図書(いわゆる「拡大教科書」),点字により検定
教科用図書等を複製した図書その他障害のある児童及び生徒の学習の用に供する
ため作成した教材であって検定教科用図書等に代えて使用し得るものとされてい
る。

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http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpab200901/1295628_013.pdf

第10節 障害のある子どもたちの可能性を最大限に伸ばす特別支援教育

1 特別支援教育をめぐる現状

 障害のある子どもについては,その能力や可能性を最大限に伸ばし,自立し,
社会参加するために必要な力を培うため,一人一人の障害の状態などに応じ,特
別な配慮の下に,適切な教育を行う必要があります。このため,障害の状態など
に応じ,特別支援学校や小・中学校の特別支援学級* 10 において,特別の教育
課程や少人数の学級編制のもと,特別な配慮をもって作成された教科書,専門的
な知識・経験のある教職員,障害に配慮した施設・設備などを活用して指導が行
われています。また,通常の学級においては,通級による指導* 11 のほか,習
熟度別指導や少人数指導などの障害に配慮した指導方法,特別支援教育支援員の
活用など一人一人の教育的ニーズに応じた教育が行われています。
 平成21年5月1日現在,特別支援学校に在籍している幼児児童生徒と,小・中
学校の特別支援学級及び通級による指導を受けている児童生徒の総数は約
30万6,000人です。このうち義務教育段階の児童生徒は約25万1,000人であり,こ
れは同じ年齢段階にある児童生徒全体の約2.3%に当たります。特別支援教育の対
象となる幼児児童生徒は,過去10年間で約12万1,000人増加しており,増加傾向に
あります。
 近年,障害のある児童生徒をめぐっては,障害の重度・重複化や多様化,学習
障害(LD)* 12,注意欠陥多動性障害(ADHD)* 13,高機能自閉症* 14 など
の発達障害のある児童生徒への対応や早期からの教育的対応に関する要望の高ま
り,高等部への進学率の上昇,卒業後の進路の多様化,社会のノーマライゼーシ
ョン* 15 の進展などの状況も見られます。こうした状況にかんがみ,平成18年
6月に学校教育法等の改正が行われ,19年4月から障害のある児童生徒などの教
育の充実を図るため,従来の盲・聾・養護学校の制度は,障害の重複化に対応す
るため,複数の障害種別を受け入れることができる「特別支援学校」の制度に転
換され,特別支援学校については,これまでに蓄積してきた専門的な知識・技能
を生かし,地域における特別支援教育のセンターとしての機能・役割(これを
「センター的機能」という)を果たすために,小・中学校などの要請に基づき,
これらの学校に在籍する障害のある児童生徒などの教育に関し,助言・援助を行
うよう努めることとされました。また,小・中学校などにおいても,発達障害を
含む障害のある児童生徒等に対する特別支援教育を推進することが法律上明確に
規定されました。

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* 10 特別支援学級
 障害の比較的軽い子どものために小・中学校に障害の種別ごとに置かれる少人
数の学級。知的障害,肢体不自由,病弱・身体虚弱,弱視,難聴,言語障害,自
閉症・情緒障害(「「情緒障害者」を対象とする特別支援学級の名称について」
(平成21年2月3日,文部科学省初等中等教育局長通知)により改称。)の学級
がある。

* 11 通級による指導
 小・中学校の通常の学級に在籍し,比較的軽度の言語障害,情緒障害,弱視,
難聴などのある児童生徒を対象として,主として各教科などの指導を通常の学級
で行いながら,障害に基づく種々の困難の改善・克服に必要な特別の指導を特別
の場で行う教育形態であり,平成5年度から行われている。18年度からは,LD・
ADHDの児童生徒についてもその対象に位置付けられた。

* 12 学習障害(LD:Learning Disabilities)
 基本的には全般的な知的発達に遅れはないが,聞く,話す,読む,書く,計算
する,推論する能力のうち,特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な
状態を指すものである。その原因としては,中枢神経系に何らかの機能障害があ
ると推定されるが,視覚障害,聴覚障害,知的障害,情緒障害などの障害や,環
境的な要因が直接の原因となるものではない。

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2 特別支援教育を推進するための取組

(1) 特別支援教育の一層の充実と推進のための教育課程の見直し

 特別支援学校や小・中学校などの特別支援教育に関する教育課程については,
平成20年1月17日の中央教育審議会答申を踏まえた検討を行い,21年3月9日に
新しい特別支援学校学習指導要領等を公示しました。特別支援学校については,
○1幼稚園,小学校,中学校及び高等学校の教育課程の基準の改善に準じた改善,
○2社会の変化や幼児児童生徒の障害の重度・重複化,多様化などに対応した改
善という二つの観点から改訂を行いました。また,高等学校における特別支援教
育については,必要に応じて個別の指導計画や個別の教育支援計画を作成するな
ど生徒の障害の状態等に応じた指導を行うことを明記しました。

(2) 特別支援教育の更なる推進のための検討

 文部科学省では,平成19年4月より新たな制度としてスタートした特別支援教
育の実施状況を評価しつつ,特別支援教育の具体的な推進方策について検討を行
うため,「特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議」を開催し,21年2
月には早期からの教育支援の在り方に係る審議の中間取りまとめを公表しました。
 また,高等学校における特別支援教育の充実について検討を行うため,「特別
支援教育の推進に関する調査研究協力者会議」の下で高等学校ワーキング・グル
ープを開催し,平成21年8月に高等学校における特別支援教育の充実を図るため,
入試における配慮・支援,体制の充実強化と指導・支援の充実,キャリア教育・
就労支援等を主な内容とする報告を公表しました。
(参照:http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/054_2/gaiyou/1283724.htm
 さらに,「特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議」においては,平
成22年3月に,特別支援教育の更なる充実を図るための検討の方向性及び課題を
整理した審議経過報告を公表しました。
(参照:http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/054/gaiyou/1292032.htm

3 諸課題への対応と関連施策

(1) 地域・学校における支援体制の整備-発達障害を含む障害のある児童生徒
  などへの支援-

○1「発達障害等支援・特別支援教育総合推進事業」(平成19年度までは「特別
  支援教育体制推進事業」以下同じ。)を通じた支援体制の整備

 文部科学省では,発達障害を含め障害のある幼児児童生徒への学校における支
援体制を充実するため,平成15年度からすべての都道府県に委嘱して,「発達障
害等支援・特別支援教育総合推進事業」を実施しています。
 事業では,「校内委員会」の設置,「専門家チーム」の設置,「特別支援教育
コーディネーター」の指名,専門家などによる「巡回相談」の実施,学校と福祉
・医療・労働などの関係機関とが連携するための「特別支援連携協議会」の設置,
「個別の教育支援計画」* 16 の作成,特別支援学校による小・中学校等への支
援の実施など,学校や地域における支援体制を強化する取組を行います。
 平成20年度特別支援教育体制整備状況調査によると,公立小・中学校において
は,「校内委員会の設置」,「特別支援教育コーディネーターの指名」といった
基礎的な支援体制はほぼ整備されており,「個別の指導計画の作成」,「個別の
教育支援計画の作成」についても,着実に取組が進んでいます。また,幼稚園・
高等学校における体制整備は,進みつつあるものの,小・中学校に比べ相対的に
遅れが見られます(図表2-2-13)。

図表2-2-13 平成21年度特別支援教育体制整備状況(略)

 この事業は,平成17年4月に「発達障害者支援法」が施行されたことを踏まえ,
17年度からは,乳幼児期から就労に至るまでの一貫した支援体制の整備を図るた
め,事業の対象を小・中学校に加え,幼稚園と高等学校へも拡大して実施してい
ます。また,本事業の実施に当たっては,厚生労働省の発達障害者支援関係事業
と連携しています。さらに,文部科学省では,19年4月1日の改正学校教育法の
施行を踏まえ,体制整備を含む基本的考え方や留意事項などについて同日付けで
「特別支援教育の推進について」(初等中等教育局長通知)を出し,学校や教育
委員会などの取組を促進しています。
 (参照:http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/07050101.htm)。

○2発達障害に関する支援事業

 発達障害のある子どもの学校における支援については,これまで小・中学校の
義務教育段階を中心に施策が推進されてきましたが,幼稚園や高等学校における
支援についても,更に推進していく必要があります。
 文部科学省では,平成19年度から,幼稚園などの幼児期に早期支援を行うため
の実践的研究を行う「発達障害早期総合支援モデル事業」を実施し,21年度は,
全国10地域をモデル地域に指定しました。
 また,同じく社会人になる前の高等学校段階における支援の在り方などについ
て実践的研究を行う「高等学校における発達障害支援モデル事業」を実施し,平
成21年度は,全国の国公私立高等学校25校をモデル校に指定しました。
 これらのモデル地域やモデル校における研究成果は,学校や都道府県教育委員
会などが適切な支援を行う際の参考となるよう,文部科学省ホームページで広く
全国に情報提供しています。
 さらに,平成21年度より,発達障害や弱視のある児童生徒について,障害の状
態などに応じた教材等の在り方及びそれらを利用した効果的な指導方法や教育効
果などについて調査研究を行う「発達障害等に対応した教材等の在り方に関する
調査研究事業」を実施しています。

○3幼稚園,小・中学校における特別支援教育支援員の配置

 小・中学校には学校教育法施行令第5条に定める認定就学者をはじめ,発達障
害を含む様々な障害のある児童生徒が在学していることを踏まえ,学校において
障害のある児童生徒に対する学校生活上の介助や学習活動上の支援などを行う
「特別支援教育支援員」の配置に関する経費が,各市町村に対して平成19年度か
ら地方財政措置されています。21年度からは,発達障害の早期発見・早期支援の
重要性にかんがみ,公立幼稚園まで地方財政措置が拡充されました。文部科学省
では支援員の活用事例など配置促進の参考情報をまとめたパンフレットを各教育
委員会へ配布するなど情報提供を行っています。
 この財政措置などを有効に活用し,全国的に支援員の配置数増加が図られてい
ます(平成21年5月1日現在,全国で公立幼稚園:約3,800人,公立小・中学校:
約3万1,000人が配置)。

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* 16 個別の教育支援計画
 医療,福祉,保健,労働などの関係機関との連携を図りつつ,乳幼児期から学
校卒業後までの長期的な視点に立って,一貫して的確な教育的支援を行うために
障害のある幼児児童生徒一人一人について作成する支援の内容などを示した計画。

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