「基本合意」に基づく、障害者自立支援法「改正」案についての疑問/障害者自立支援法訴訟の基本合意の完全実現をめざす会 障害者自立支援法訴訟全国弁護団 2010/08/022010-08-02

http://www.normanet.ne.jp/~ictjd/suit/data/2010/20100802gimon.doc

「私たち抜きで私たちのことを決めないで」
「基本合意」に基づく、障害者自立支援法「改正」案についての疑問

                             2010年8月2日

           障害者自立支援法訴訟の基本合意の完全実現をめざす会
                     障害者自立支援法訴訟全国弁護団

1.「基本合意」で確約した反省を踏まえない立法過程への不信

 基本合意では、「立法過程において…、障害者の意見を十分踏まえることなく、
拙速に制度を施行する…、…ことにより、…尊厳を深く傷つけたことに対し、…
心から反省の意を表明」し、「この反省を踏まえ、今後の施策の立案・実施に当
たる」ことが確約されています。

 ところが、先の第174通常国会において廃案となった障害者自立支援法等の「改
正」案(以下、「改正」案)は、私たちに説明されることも一切なく、政府機関
である「障がい者制度改革推進会議」、その専門部会である「総合福祉部会」に
も何らの情報提供もなく、国会に上程されました。その立法過程では、ほとんど
審議もなく「衆議院厚生労働委員長案」が同院で可決され、参議院厚生労働委員
会でも可決されました。

 こうしたことは、基本合意で反省が表明された、障害のある人の意見を十分に
踏まえなかった障害者自立支援法の過ちを、ふたたび繰り返しているものとして、
障害のある人とその家族を、深く傷つけ、今後の障害施策の立案・実施について
も、大いなる疑問を抱かせるものです。

2.「改正」案の疑問・危惧

(1)廃止する法律をなぜ改正するのか

 まず、「廃止」することを決めた法律を、「改正」すること自体がおかしいと
いう素朴な疑問です。

 基本合意で「遅くとも平成25年8月までに、…新たな…福祉法制を実施する」
として基本合意で約束しているにもかかわらず、この「改正」案は、明確な時限
立法とされていないばかりか、「障害者自立支援法を廃止」する文言がありませ
ん。

 新法までの「つなぎ法」であるとの説明がされていましたが、「つなぎ」では
なく「延命」であり、障害者自立支援法を廃止する方向に逆行するのではないか
?という疑問を払拭できずにいます。

(2)応益負担は残されてしまうのではないか

 そして、「改正」案は、基本合意で約束された「速やかに応益負担制度を廃止」
するものではなく、応益負担を残存、存続させるものではないかという強い疑問
です。

 つまり、「改正」案は、支援(障害の重さ)と支払を結びつける応益負担であ
る1割負担原則を法文に明記しており、基本は応益負担の仕組みを残すものと読
めます。「家計の負担能力その他の事情をしん酌して政令で定める」行政裁量に
より、1割負担(応益負担)が機能する体裁の法文です。

 この条文での、「『家計』の負担能力」という文言は、基本合意で指摘した
「収入認定は、配偶者を含む家族の収入を除外し、障害児者本人だけで認定する
こと。」についての問題意識に疑問があります。

(3)危惧される介護保険との統合

 また、介護保険との統合についての危惧があります。「改正」案には、現行の
介護保険法と同様の条文が新たに規定されており、酷似した仕組みが含まれてい
るように読めます。「改正」案の最終施行期日とされる平成24年4月1日が、介護
保険法の定時改正の時期と符合することも危惧しています。

3.「改正」案が再び上程することのないように

 私たち訴訟団は、今後、臨時国会などにおいて、こうした疑問の多い「改正」
案が再び上程がされないことを強く望むとともに、真に、障害のある人とその家
族が安心して暮らせる新たな法制度の実現を希望し、ここに表明する次第です。

                                 以 上