総合福祉部会 第17回 H23.8.9 資料1 障害者総合福祉法(仮称)骨格提言素案 (平成23年8月9日追加提案)2011-08-09

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総合福祉部会 第17回 H23.8.9 資料1
障害者総合福祉法(仮称)骨格提言素案 (平成23年8月9日追加提案)

●  はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

  I.総合福祉法(仮称)の骨格提言
●  1.法の理念、目的、範囲 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
7/26 2.障害(者)の範囲
7/26 3.選択と決定(支給決定)
7/26 4.相談支援
7/26 5.権利擁護
7/26 6.支援(サービス)体系
7/26 7.利用者負担
7/26 8.報酬と人材確保
7/26 9.地域生活の資源整備
7/26 10.地域移行

   II.新法制定と実現への道程
●  1.旧法から自立支援法の事業体系への移行について ・・・・・・15
●  2.障害者総合福祉法と基金事業について ・・・・・・・・・・・16
●  3.新法準備に当たってのその他の課題 ・・・・・・・・・・・・18
   4.財政のあり方
●  (1)障害福祉への支出をOECDの平均水準以上に ・・・・・・・・21
◎  (2)個別ニーズ評価自治体の財政分析結果
●  (3)長時間介護などの地域生活支援のための財源措置 ・・・・・22
   
   III.関連する他の法律や分野との関係
●  1.医療 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25
●  2.障害児 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31
●  3.労働と雇用 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37
●  4.その他 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43

● おわりに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・47
◎ 資料(委員名簿等)


● ~ 今回(第17回総合福祉部会にて)提案している項目
◎ ~ 現在、検討中の項目
7/26~ 7月26日の第16回総合福祉部会にて提案済の項目

はじめに

◆総合福祉部会の背景と経過
  障害者権利条約の締結に必要な国内法の整備を始めとする障害者に係る制
 度の集中的な改革を目的として、2009年12月「障がい者制度改革推進本部」
 が設置され、この下で、障害者施策の推進に関する意見をまとめる「障がい
 者制度改革推進会議」(以下「推進会議」)が発足しました。障害者権利条
 約の基本精神である「私たち抜きに私たちのことを決めるな!」(NothIng
 about us wIthout us)をふまえた政策立案作業の開始を意味します。この推
 進会議の下に2010年4月、障害者、障害者の家族、事業者、自治体首長、学
 識経験者等、55名からなる「障がい者制度改革推進会議総合福祉部会」(以
 下「部会」)が設けられました。
  推進会議の「第一次意見」を受けた政府は2010年6月29日の閣議決定で制
 度改革の基本方向を定め、とくに「『障害者総合福祉法』(仮称)の制定」
 に関しては、「応益負担を原則とする現行の障害者自立支援法(平成17年法
 律第123 号)を廃止し、制度の谷間のない支援の提供、個々のニーズに基づ
 いた地域生活支援体系の整備等を内容とする「障害者総合福祉法」(仮称)
 の制定に向け、第一次意見に沿って必要な検討を行い、平成24年常会への法
 案提出、25年8月までの施行を目指す。」と定めました。
  こうして部会は「障害者総合福祉法」(仮称)の制定に向けた検討という
 使命を背負って18回の検討を重ねてきました。
  第1~3回(2010年4~6月)では、「障がい者総合福祉法(仮称)制定
 までの間において当面必要な対策について」の議論を行い、「利用者負担の
 見直し」などを含む「当面の課題」の要望書をまとめました。
  第4~7回(6~9月)では、9分野30項目91点の「論点」を整理し、そ
 れに沿って議論し共通理解を図りました。
  第8~15回(10月~2011年5月)は複数の作業チームに分かれて議論
 ・検討を行いました(末尾の「資料」参照)。
  これらの作業チームに参加した構成員の精力的な検討の成果は、「部会作
 業チーム報告・合同作業チーム報告」としてまとめられています。なお各チ
 ーム報告に対して、厚生労働省からのコメントが出されています。

◆骨格提言の基礎となった2つの指針
  部会の55人の立場や意見は多様ですが、次の2つの文書を前提として検
 討作業を行ってきました。それは、2006年に国連が採択した「障害者権利条
 約」、そして2010年1月に国(厚生労働省)と障害者自立支援法訴訟原告ら
 (71名)との間で結ばれた「基本合意文書」です。部会は、これらをふまえ
 て新法の骨格をまとめることを重要な役割としてきました。

(1)障害者権利条約
  この条約は、すべての障害者によるあらゆる人権及び基本的自由の完全か
 つ平等な享有を促進し、保護し、及び確保すること等を目的としています。
  とくに、第19条では、「障害のあるすべての人に対し、他の者と平等の選
 択の自由をもって地域社会で生活する平等の権利を認める」とし、
  「(a) 障害のある人が、他の者との平等を基礎として、居住地及びどこで
 誰と生活するかを選択する機会を有すること、並びに特定の生活様式で生活
 するよう義務づけられないこと」、
  「(b) 障害のある人が、・・・・・必要な在宅サービス、居住サービスそ
 の他の地域社会支援サービス(パーソナル・アシスタンスを含む。)にアクセ
 スすること」を締約国は確保するとしています。
  このように条約は、保護の客体とされた障害者を権利の主体へと転換し、
 インクルーシブな共生社会を創造することをめざしています。

(2)「基本合意文書」
  この文書では、
  「国(厚生労働省)は、・・・・遅くとも平成25年8月までに、障害者自
 立支援法を廃止し新たな総合的な福祉法制を実施する」、
  「今後の障害福祉施策を、障害のある当事者が社会の対等な一員として安
 心して暮らすことのできるものとするために最善を尽くす」、
  「(障害者自立支援法、とくにその応益負担制度などが)障害者の人間と
 しての尊厳を深く傷つけたことに対し、・・・・心から反省の意を表明する」
  「障害福祉施策の充実は、憲法等に基づく障害者の基本的人権の行使を支
 援するものであることを基本とする」、
  「現行の介護保険制度との統合を前提とはせず(新制度の構築に当たる)」、
 などと述べ、利用者負担、支給決定、報酬支払い方式、「障害」の範囲、予算
 増などについて原告らの指摘をふまえてしっかり検討するとしています。

◆障害者総合福祉法がめざすべき6つのポイント
 本「骨格提言」は以上の経過と指針の下、次の6つの目標を障害者総合福
祉法に求めました。

【1】障害のない市民との平等と公平
  障害のある人とない人の生活水準や暮らしぶりを比べるとき、そこには大
 きな隔たりがあります。障害があっても市民として尊重され、誇りを持って
 社会に参加するためには、平等性と公平性の確保が何よりの条件となります。
 新法がこれを裏打ちし、障害者にとって新たな社会の到来を実感(もしくは
 予感)できるものとします。

【2】谷間や空白の解消
  障害の種類によっては、障害者福祉施策を受けられない人がたくさんいま
 す。いわゆる制度の谷間に置かれている人たちです。また制度間の空白は、
 学齢期での学校生活と放課後、卒業後と就労、退院後と地域での生活、働く
 場と住まいなど、いろいろな場面で発生しています。障害の種別間の谷間や
 制度間の空白の解消を図っていきます。

【3】格差の是正
  地方自治体の財政事情などによって、障害者のための住まいや働く場、人
 による支えの条件は、質量ともに大きく異なっています。どこに暮らしを築
 いても一定の水準の支援が受けられなければなりません。また、障害種別間
 の制度水準についても大きな隔たりがあります。限度を超えるような、合理
 性を欠くような格差についての是正をめざします。

【4】放置できない社会問題の解決
  世界でノーマライゼイションが進むなか、わが国では依然として多くの精
 神障害者が「社会的入院」を続け、知的障害者等が地域での支援不足による
 長期施設入所を余儀なくされています。また、公的サービスの一定の広がり
 にもかかわらず障害者への介護の大部分を家族に依存している状況が続いて
 います。これらを解決するために地域での支援体制を確立するとともに、効
 果的な地域移行プログラムを実施します。

【5】本人のニーズにあった支援サービス
  障害の種類や程度、年齢、性別などによって、個々のニーズや支援の水準
 は一様ではありません。個々の障害とニーズが尊重されるような新たな支援
 サービスの決定システムを開発していきます。また、支援サービスを決定す
 るときに、本人の希望や意思が表明でき、それが尊重される仕組みにします。

【6】安定した予算の確保
  制度を実質化させていくためには財政面の裏打ちが絶対的な条件となりま
 す。障害者福祉予算の水準を考えていくうえでの重要な指標となるのが、国
 際的な比較です。当面の目標としては、OECD加盟国(工業先進国のグループ)
 における平均以上を確保することです。これによって、現状と比べてはるか
 に安定した財政基盤の確立が見込まれます。

◆改革の一歩として
  わが国の障害者福祉もすでに長い歴史を有しておりますが、障害者を同じ
 人格を有する人と捉えるよりも、保護が必要な無力な存在、社会のお荷物、
 治安の対象とすべき危険な存在などと受けとめる考え方が依然として根強
 く残っています。わが国の社会が、障害の有無にかかわらず、個人として尊
 重され、真の意味で社会の一員として暮らせる共生社会に至るには、まだま
 だ遠い道のりであるかもしれません。
  そのような中で総合福祉部会に参集した私たちは、障害者当事者であった
 り、障害者にかかかわる様々な立場から、違いを認めあいながらも、それで
 も共通する思いをここにまとめました。
  ここに示された改革の完成には時間を要するかも知れません。協議・調整
 による支給決定や就労系事業など、試行事業の必要な事項もあります。
 しかし、私たちのこうした思いが、政治を突き動かし、障害者として生き
 ることに不幸を感じず、様々な人と共に支えあいながら生きていくことの喜
 びを分かち合える社会へ一歩になることを信じて、ここに骨格提言をまとめ
 ました。
  今、新法への一歩を踏み出すことが必要です。

I-1 法の理念・目的・範囲
 
【表題】前文
【結論】
○障害者総合福祉法には、下記の通り、本法制定の経緯、この法に求められる
精神等を内容とする前文を設けるべきである。

【説明】
 全国1000万人を超えると思われる障害者と、その家族、支援者、一般国
民、全ての人にとって、今回の改革の経緯と理念が伝わり、新法の意義を関係
者が共有し、個別規定の解釈指針とするためにも、前文でこの法の精神を高ら
かに謳うことが不可欠である。盛り込むべき前文の内容は以下のとおりである。

                 記
 わが国及び世界の障害者福祉施策は「完全参加と平等」を目的とした198
1年の国際障害者年とその後の国連障害者の10年により一定の進展を遂げた
が、依然として多くの障害者は他の者と平等な立場にあるとは言いがたい。こ
のような現状を前提に2006年国連総会にて「障害のある人の権利に関する
条約」(以下「権利条約」)が採択され、わが国も2007年に署名したが、
批准のためには、同条約の趣旨を反映した法制度の整備が求められている。
 障害者権利条約が謳うインクルージョンは、障害者が社会の中で当然に存在
し、障害の有無にかかわらず誰もが排除されず、分離・隔離されずに共に生き
ていく社会こそが自然な姿であり、誰にとっても生きやすい社会であるとの考
え方を基本としている。そして、それは、障害による不利益の責任が個人や家
族に帰せされることなく、障害に基づく様々な不利益が一部の人に偏在してい
る不平等を解消し、平等な社会を実現することを求めるものである。
 とりわけ人生の長期にわたって施設、精神科病院等に入所、入院している障
害者が多数存在している現状を直視し、地域で自己決定の尊重された普通の暮
らしが営めるよう支援し、地域生活への移行を推進するための総合的な取り組
みを推進することが強く求められる。
 そのうえで、障害者の自立が経済的な面に限らず、誰もが主体性をもって生
き生きと生活し社会に参加することであり、障害者が必要な支援を活用しなが
ら地域で自立した生活を営み生涯を通じて固有の尊厳が尊重されるよう、社会
生活を支援することが共生社会として求められるこの国の姿であることが、国
の法制度において、確認されるべきである。
 この法律は、これらの基本的な考え方に基づき、障害の種別、軽重に関わら
ず、尊厳のある生存、移動の自由、コミュニケーション、就労等の支援を保障
し、障害者各自が、障害のない人と平等に社会生活上の権利が行使できるため
に、あらゆる障害者が制度の谷間にこぼれ落ちないように必要な支援を法的権
利として総合的に保障し、差異と多様性が尊重され、誰もが排除されず、それ
ぞれをありのままに人として認め合う共生社会の実現をめざして制定されるも
のである。

【表題】法の名称
【結論】
○この法律は『障害者総合福祉法』と称する。
【説明】
 「障害者総合福祉法」の名称は、障害者・関係者の中ですでに一定の共通理
解の下で使われて定着してきた。2010年6月29日の閣議決定でも「仮称」付き
ではあるがこの名称の法律を2012年の国会で制定するとされている。したがっ
て、この名称を使用すべきである。
 なお、法の名称について、作業チーム報告では「障害者の社会生活の支援を
権利とし総合的に保障する法律」という案が示されている。これは、社会福祉
分野の法律であるか否かがわかりにくいという難点はあるが、恩恵的な意味で
理解される恐れのある「福祉」の用語を避け、「社会生活」、「権利の保障」、
「総合的」などを用いて新法の性格を示したものであり、この案を含めて検討
してもよいと考える。

【表題】法の目的
【結論】
○この法律の目的として、以下の内容を盛り込むべきである。
・ この法律が、憲法第13条、第14条、第22条、第25条等の基本的人
 権諸規定、障害者基本法等に基づき、全ての障害者が、等しく基本的人権を
 享有する個人として尊重され、他の者との平等が保障されるものであるとの
 理念に立脚するものであること。

・ この法律が、障害者の基本的人権の行使やその自立及び社会参加の支援の
 ための施策に関し、どこで誰と生活するかについての選択の機会が保障され、
 あらゆる分野の活動に参加する機会が保障されるために必要な支援を受ける
 ことを障害者の基本的権利として、障害の種類、軽重、年齢等に関わりなく
 必要な支援を保障するものであること。

・ 国及び地方公共団体が、障害に基づく社会的不利益を解消すべき責務を負
 うことを明らかにするとともに、障害者の自立及び社会参加に必要な支援の
 ための施策を定め、その施策を総合的かつ計画的に実施すべき義務を負って
 いること。

・ これらにより、この法律が、全ての国民が、障害の有無によって分け隔て
 られることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現
 するものであること

【説明】
 今回、障害者自立支援法にかわる新たな法律を必要とするに至った大きな要
因は、障害者権利条約の批准に当たって現行法を抜本的に改革する必要がある
こと及び障害者自立支援法違憲訴訟原告らと厚生労働省との間に障害者自立支
援法の廃止を含む基本合意が成立したことに存する。
 まず、障害者自立支援法違憲訴訟原告らと厚生労働省との間で交わされた基
本合意文書の一項では、障害者自立支援法を廃止することを前提に新たな総合
的な福祉法制においては、「障害福祉施策の充実は、憲法等に基づく障害者の
基本的人権の行使を支援するものであることを基本とする。」とされている。
 日本国憲法13条の幸福追求権及び22条の居住・移転の自由は、支援選択
権を保障すると解すべきであり、25条の生存権は、地域間格差を是正するナ
ショナルミニマムとしての支援請求権を保障するものであるので、以上の合意
の趣旨を踏まえ、目的条項において、憲法の基本的人権に関する規定を盛り込
むことは必須と考えた。
 また、新法に関連する障害者権利条約の中心的課題は、同条約第19条の
a項、「障害者が、他の者との平等を基礎として、どこで誰と生活するのかを
選択する機会を有すること、並びに特定の生活様式で生活する義務を
負わないこと。」
b項、「地域社会における生活及び地域社会への受入れを支援し、並びに地域
社会からの孤立及び隔離を防止するために必要な在宅サービス、居住サービス
その他の地域社会支援サービス(パーソナル・アシスタンスを含む。)を障害
者が利用することができること。」
c項、 「一般住民向けの地域社会サービス及び施設が、障害者にとって他の
者と平等に利用可能であり、かつ、障害者のニーズに対応しているこ
と。」
 である。
 作業チーム報告では、そのことを、支援選択権と支援請求権と表現している。
条約19条a項の「どこで誰と暮らすかの選択権」は、b項の「必要な支援を請
求する権利」が無ければ成立しないだけでなく、c項の「一般市民と平等の選択
肢」が無ければ、特定の生活様式以外の選択肢が成立しないからである。
 さらに、同条約のこの趣旨について、障害者制度改革の推進のための基本的
な方向(6月7日第1次意見書)においても「地域で暮らす権利の保障とインク
ルーシブな社会の構築」が大きな課題とされ、障害者制度改革の推進のための
基本的な方向について(6月29日閣議決定)においても「地域生活の実現とイ
ンクルーシブな社会の構築・・・障害者が自ら選択する地域への移行支援や移
行後の生活支援の充実、及び平等な社会参加、参画を柱に据えた施策の展開」
が求められている。
 とくに、これらの制度改革推進の中で改正された障害者基本法(以下、改正
基本法という)を踏まえる必要がある。すなわち、改正基本法第1条は、障害
の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いなが
ら共生することができる社会の実現を目的としている。そこで、新法の目的に
おいても、このことは、基調に据えなければならない。
 また、改正基本法第3条が、あらゆる分野の活動に参加する機会の確保やど
こで誰と生活するかについての選択の機会の確保などを規定していることに鑑
みると、上記目的においてこれらを明記することは必須であり、それらの機会
が保障されるために必要な支援を受けることを障害者の基本的権利とするとと
もに、支援の選択権と支援の請求権を財政面で裏付ける公的な責務・保障とし
て「国及び地方公共団体等の責務を明らかに」する規定を盛り込む必要がある。
 なお、必要な支援を受けることを障害者の基本的権利とした規定は、たとえ
ばカリフォルニア州の発達障害者支援サービスがエンタイトルメント(支援サ
ービス選択・請求権)であるとされていることを踏まえて規定している。すなわ
ち、「地域支援センターの適格基準に合致するすべての障害者に、その本人支援
計画の目標に見合った支援サービスを提供しなければならないことを意味する。
法的に、待機者リストはあってはならず、もしそのサービスが無ければ、それ
は創出されねばならない。」(Federal fundIng In CalIfornIa’s DSS ARCA
March 2011 p.54)
 つまりは、法に該当する障害者本人が選択した希望・目標に見合った支援サ
ービスを提供することが、待機リストに入れられることなく、義務づけられて
いることが、エンタイトルメント(支援サービス選択・受給権)ということにな
る。そのことも踏まえて、「・・どこで誰と生活するかについての選択の機会
が保障され、あらゆる分野の活動に参加する機会が保障されること・・」とい
う表記とした。
 さらに、谷間の障害者をなくすことについては、本部会の総意であることは
論を待たないところであるので、障害の種類、軽重、年齢等に関わりなくとい
う文言に、その趣旨を込めている。これは、法の下の平等を実現するためにと
りわけ重要な要素である。
 なお、それらの障害者は除外されてきたために必要な支援内容の開発が十分
ではない。そのため、発達障害、高次脳機能障害、難病、軽度知的障害などの
ある人たちなどのニーズを当事者参画のもと明らかにし、必要な人が必要な支
援を得られるようにサービス内容の拡充を行う必要がある。
 
【表題】法の理念
【結論】
○ 以下の基本的視点を理念規定に盛り込むべきである。
 ・保護の対象から権利の主体への転換を確認する旨の規定
 ・医学モデルから社会モデルへの転換を確認する旨の規定
【説明】
 従来、障害者は、障害者対策実施の対象・保護の対象とされ、当事者として
は扱われてこない面があったが、この法律においては、障害者が権利の主体、
当事者であることを明確にする必要性がある。また、障害の本質とは、機能障
害、疾病を有する市民の様々な社会への参加を妨げている社会的障壁にほかな
らないことをここに確認し、機能障害、疾病を持つ市民を排除しないようにす
る義務が社会、公共にあることが今後の障害者福祉、支援の基本理念であるこ
とをここに確認する必要がある。
 なおこのことは、障害者の支援を自己責任・家族責任として、これまで一貫
して採用されてきた政策の基本スタンスを、社会的・公的な責任に切り替える
ということを意味することを確認するものである。
 医学モデルの視点からいえば、障害者の問題は、障害者自身が自己責任によ
り訓練と努力で克服するべきものということになるが、かかる古い考え方から
脱却し、むしろ、障害者の社会参加を排除して、適切な支援を実施しない社会
の側が障害の原因であるという障害把握の転換を明確化しない限り、この国の
障害者施策のあり方は旧態依然として変わらない。
 身体障害者児・者実態調査や知的障害児者基礎調査などによれば、社会的支
援が進んできた今日においてもなお、障害者の介助・支援のほとんどを家族が
担っているという事態に大きな変化は見られない。介護保険制度の制定過程で
も「介護の社会化」が目標とされたが、いまだ実現の見通しは立っていない。
 障害者総合福祉法は、すべての人が尊重され、安心でき、そうした尊重と安
心を与えてくれる社会のために自ら参加し・貢献しようという気持ちを育てる
法律、家族責任から社会責任への転換、家族依存からの脱却を図る法律である。

【表題】地域で自立した生活を営む基本的権利
【結論】
○ 地域で自立した生活を営む権利として、以下の諸権利を本法において確認
すべきである。
1 障害者は、障害ゆえに命の危険にさらされない権利を有し、そのための支
 援を受ける権利が保障される旨の規定。
2 障害者は、自らの意思に基づきどこで誰と住むかを決める権利、どのよう
 に暮らしていくかを決める権利、特定の様式での生活を強制されない権利を
 有し、そのための支援を受ける権利が保障される旨の規定。
3 障害者は、自ら選択する言語(手話など非音声言語を含む)及びコミュニ
 ケーション手段を使用して、市民として平等に生活を営む権利を有し、その
 ための情報・コミュニケーション支援を受ける権利が保障される旨の規定。
4 障害者は、自らの意思で移動する権利を有し、そのための外出介護、ガイ
 ドヘルパー等の支援を受ける権利が保障される旨の規定。
5 以上の支援を受ける権利は、障害者の個別の事情に最も相応しい内容でな
 ければならない旨の規定。
6 国及び地方公共団体は、これらの施策実施の義務を負う旨の規定。
【説明】
上記の法の目的で確認された中核的権利を確認するものである。
  障害者の完全参加を実現するためには、一人ひとりの支援を必要とする個
別事情に沿ったものである必要があり、本法の支援のあり方も、個別事情に
ふさわしいものであることが必要であるという障害者支援の基本的なあり方
を規定することは重要である。
  情報・コミュニケーションの保障は到底裁量的に実施されれば足るような
ものでなく、民主社会を成立させる前提としての基本的人権保障としての意
義があることを明記しておかなくては、基本法において、手話が言語と確認
された意義等も没却される。
  障害者自立支援法は移動支援を裁量的事業と位置付けたが、移動の自由の
保障は基本的人権に基づく重要な施策であることは判例等でも確認されてい
ることであり、本法でしっかり明記することが肝要である。

【表題】国の義務
【結論】
○ 国の義務として、以下の規定を設けるべきである。
1 国は、障害の有無・種別・軽重に関わらず障害者がどの地域に居住しても
 等しく安心して生活することができる権利を保障する義務を有すること。
2 国は、障害種別による制度の谷間や空白及び制度上の格差が生じないよう
 に制度設計を行う責務を有すること。
3 国は、地域間に支援の格差が発生することを防止し、又は発生した格差を
 解消することができる制度設計を行う責務を有するとともに、市町村への支
 援施策に関し必要な財政上の措置を行うこと。
4 国は、都道府県と共に、市町村が実施する支援施策の実態を把握し、この
 法の基本的権利に基づいて、それが実施されるように、広くその実施状況を
 国民に明らかにし、法の実施を監視し、推し進める責務を有すること。
【説明】
 憲法に示された基本的人権を保障する義務は第一義的には国にあることから、
障害者支援の最終責任は国にあることを確認した上で、障害種別による制度の
谷間、制度上の格差の防止に関する義務、地域間格差の防止と財政的支援等の
諸支援、実施状況に関する監視や情報開示等について、規定を設ける必要があ
る。

【表題】都道府県の義務
【結論】
○ 都道府県の義務として、以下の規定を設けるべきである。
1 市町村の行う支援施策の実態を把握すると共に、この法の基本的権利に基
 づいて、それが実施されるように、広くその実施状況を都道府県民に明らか
 にし、法の実施を推し進めること
2 市町村の支援施策に対して、必要な財政的補助を行うと共に、特定の市町
 村に集中する実態等があればそのことを勘案して、財政的調整権能を行使す
 ること。
3 市町村の行う支援施策に対する不服申し立てを受理し、法の基本的権利に
 基づいて審査する等、必要な措置を講じること 
【説明】
 都道府県の義務に関しても、特に市町村間の格差是正の向けた情報公開と財
政調整権能が法の基本的権利をふまえて行われるよう明記すると共に、不服申
し立てに関する責務をも明記した。

【表題】市町村の義務
【結論】
○ 市町村の義務として、以下の規定を設けるべきである。
1 この法の基本的権利に基づいて、当該市町村の区域における障害児・者等
 の生活の現状及び障害者がどこで誰と生活し、どのような分野で社会参加を
 希望・選択するか等を把握した上で、関係機関との緊密な連携を図りつつ、
 必要な支援施策を総合的かつ計画的に実施すること。
2 この法の基本的権利に基づいて、障害児・者の支援施策の提供に関し、必
 要な情報の提供及び適切な説明を尽くし、並びに相談に応じ、必要な調査及
 び指導を行うと共に、そのサービス利用計画等を勘案して必要な支援施策を
 提供すること。
【説明】
 市町村の義務については、新法で明記された基本的権利としての「どこで誰
と生活するかについての選択の機会が確保され、あらゆる分野の活動に参加す
る機会が確保されることを前提とした義務を規定した。また、公的支援からこ
ぼれる人がいないように行政の説明責任は重要である。

【表題】基盤整備義務
【結論】
○ 次のように、国、地方公共団体の基盤整備義務を規定すべきである。
国、地方公共団体は、支援を実施する事業者が地域に偏在しないよう事業者
への財政援助、育成を含めた基盤整備義務を有する。
【説明】
 原則として契約制度により実施されている障害者施策において地域で暮らす
権利が保障される前提条件は、支援を実施する事業者が地域に十分に存在して
いることであり、地域での自立生活の保障をいくら謳ったところで、当該地域
に事業所が存在しなければ絵に描いた餅である。本来障害者福祉施策の履行責
任者は国・地方公共団体であることから、事業所任せは許されず、基盤整備義
務を規定しておくことは絶対不可欠である。

【表題】所管省庁を横断した総合的支援
【結論】
○ 国、地方公共団体の所管省庁を横断した総合的支援の必要性に関する規定
が必要である。
【説明】
 制度の谷間を生まない支援を実現するためには、縦割り行政の弊害の是正を
法文に書きこまなければならない。制度の谷間のない支援という本法の目的を
実現し、ライフステージや場所、分野に分断されない継続的な支援を実現する
ため、この法律は、国において、内閣府、厚生労働省はもとより、文部科学省、
国土交通省、総務省、財務省、経済産業省、法務省等全ての官庁により横断的
かつ有機的な連携が取られながら実施されることに特に留意が必要であり、都
道府県や市町村レベルでも同様である。

【表題】国民の責務
【結論】
○ 国民の責務として『すべての国民は、その障害の有無にかかわらず、相互
にその人格と個性を尊重しあいながら共生することのできる社会の実現に協
力するものとする。』との規定を設けるべきである。
【説明】
 国民の責務については、障害者権利条約のインクルーシブ社会の構築の理念
を踏まえたものとして規定した。


*(担当室からのコメント)
 以下の介護保険法との関係は、理論的に言えば、他法との関係であるので、
IIIの部分で書くべきものと思われる。また、新法骨格の総則部分に当たるとこ
ろで、なぜこれが書かれているのか、すわりが悪いようにも思えます。どこに
書くべきか、部会で議論をお願いできればと思います。

【表題】介護保険との関係及び65歳時点での具体的措置について
【結論】
○ 障害者総合福祉法は介護保険からの決別を基本的な視点とする。
○ 介護保険対象年齢(65歳、一部40歳)になった後は、障害者総合福祉
法のサービスと介護保険のサービスを選択・併用できるようにする。
○ 介護保険対象年齢の障害者の国庫負担基準額を下げる現行制度を廃止す
る。
○ 現行の施設入所支援+生活介護の利用者が希望する場合には、地域移行等
に際しての介護保険サービスを選択・併用できるようにする。
【説明】
 障害者自立支援法は介護保険と障害者福祉の統合を予定して策定され、その
ために応益負担、障害程度区分、日額制、常勤換算などが障害者福祉に持ち込
まれた。その結果、障害者の人間としての尊厳を深く傷つけることとなり、こ
の反省から政府は障害者自立支援法の廃止と新たな総合的な福祉法制の実施を
約束した。憲法等に基づく障害者の基本的人権の行使を支援するものとして新
たな障害者福祉を策定することとされたのである。
 こうした経過から、新たな障害者総合福祉法は介護保険からの決別を基本的
な視点とするべきである。なお、高齢福祉と障害福祉と関係については、国民
的な議論によってその本来のあり方を検討する必要がある。
 具体的な運用面では、第1に、障害者が介護保険対象年齢となった後は、障
害者の地域生活の継続が保障されるよう、現行の介護保険優先原則を見直し、
障害者総合福祉法のサービスと介護保険のサービスを選択・併用できるように
する。特に、現行の重度訪問介護や行動援護などは介護保険には「相当する」
サービスがないものであることなども明確にすべきである。なお、この点は、
若いときからの障害者の特性の重視や、生活の継続性の確保をすることを主眼
においた提言であるが、一方で65歳以上で要介護状態となった高齢者にも平
等な選択権が保障されるべきであるとの意見も見られた。
 第2に、訪問系サービスの国庫負担基準額は介護保険対象者の場合には通常
の3分の1以下に抑えられているが、65歳以上の障害者を介護保険に移行さ
せるために市町村を財政的に追いつめるものであり、直ちに廃止すべきであ
る。
 第3に、現行自立支援法の下では、施設入所支援+生活介護の利用者は介護
保険の被保険者になれない制度となっているが、こうした人たちも希望すれば
地域移行等に際しての介護保険サービスを選択・併用できるようにすることも
検討すべきである。(例、退所しないと被保険者になれなく要介護認定も受け
られない。施設入所支援を受けていても、移行計画が作成されている場合、要
介護認定を受けられるようにすべきである。)


II 新法制定と実現への道程

II-1.旧法から自立支援法の事業体系への移行について

【表題】旧法から自立支援法の事業体系への移行について
【結論】
○自立支援法に基づく事業への移行期限終了後も、一定の要件のもと従前の運
営費の10割を保障するなどの支援策を継続する。
【説明】
 自立支援法に基づく事業に移行することで、経営努力にもかかわらず大きく
減収となる事業所は移行期限である平成24年3月まで移行できない上に、移行
後の運営に大きな不安を抱えている。また、東日本大震災や福島原子力発電所
事故の影響で、期限内の移行が不可能になったところもある。
 こうしたことを踏まえ、現行の事業運営安定化事業による10割保障を、移行
期間終了後も継続する。


II-2.障害者総合福祉法と基金事業について

【表題】[1]障害者総合福祉法を補完する基金事業について
【結論】
○障害者総合福祉法を円滑に推進し、その実効性を高めるために必要な事業で
あって、報酬体系に組み込むことが困難なものについては、基金事業として実
施する。
○基金事業は、都道府県が実施するものと市町村が実施するものに分かれる。
【説明】
 現行の基金事業の成果を検証するとともにその位置付けを見直し、障害者総
合福祉法を補完する上で有効な事業は、継続あるいは創設する。
 例えば、施設、病院からの地域生活移行や、親元からの地域生活移行を推進
するための基盤整備事業は重要である。具体的には、入所施設定員や精神科病
院の病床数の削減を伴って地域生活への定着を支援する事業や、入所施設を閉
鎖して地域生活を支援する先駆的な事業所への支援などが考えられる。利用者
個人に対しては、現行の「地域移行支度経費支援事業」(入所、精神科病院か
ら地域生活への移行を促進するため、地域での生活において必要となる物品の
購入について支援―一人当たり3万円)のような事業が考えられる。
 
【表題】[2]障害者総合福祉法の体系への移行を支援するための基金事業に
 ついて
【結論】
○自立支援法に基づく事業体系から新法に基づく支援体系への移行を円滑に推
進するために、利用者と事業者双方を支援する基金事業を設ける。
○都道府県が実施する基金事業と市町村が実施する基金事業を設ける。
○基金事業の期間は2段階とする。
   [1]法施行時から平成25年7月まで
   [2]平成25年8月から平成31年3月まで
【説明】
 自立支援法への移行に関しては様々な基金事業が実施され一定の成果があっ
たが、基金事業のメニューの選択は都道府県に任せたため、都道府県格差が生
じた。こうした点を踏まえ、総合福祉法の支援体系への移行に当たっては、基
盤整備のような全国共通の事業は格差が出ないようにする。
 この基金事業は、都道府県、市町村及び事業所が新法への移行を円滑に行う
ことを支援するためのものであり、その領域は就労支援、相談支援、権利擁護、
人材養成・研修等の幅広い分野にわたる。
 この基金事業は[1]法施行時から平成25年7月まで、[2]平成25年8月から平
成31年3月までの二期に分けて実施する。

II-3.新法準備に当たってのその他の課題
「障がい者総合福祉法(仮称)の制定以前に早急に対応を要する課題の整理(当
面の課題) 平成23年6月7日」に関わって等

【表題】[1]利用者負担
【結論】
○応能負担でも低所得者には軽減策をとり、利用者負担を0円にする。
○障害福祉サービス、補装具、自立支援医療、地域生活支援事業、介護保険の
利用者負担を合算し過大な負担とならないようにする。
○所得区分の認定においては利用者本人を基本とし配偶者を含めないこと。
【説明】
 所得保障がなされない中で低所得者には過度な利用者負担を課すべきでない。
つなぎ法では応能負担になるが、新法ができるまで、応能負担の軽減策を低所
得者に現在のように0円になるような配慮が必要。
 利用者負担の合算では地域生活支援事業、自立支援医療、介護保険の利用者
負担を合算し、軽減できるようにする。

【表題】[2]地域での自立した暮らしのための支援の充実
【結論】
○障害程度区分に連動する国庫負担基準を支給決定量の上限としてはならない
ことについて自治体に徹底させる。国庫負担基準を超える分の国から市町村
への財政支援を行う。
○地域生活支援事業の地域格差の解消に為に予算を確保する。
○移送支援の個別給付化、重度訪問介護の知的・精神障害者、障害児への対象
拡大を行う。
【説明】
 新法移行に向けて、平成24年4月1日から可能な施策は実施する。必要な支
援の量が障害程度区分に連動する国庫負担基準を超える場合、相談支援とケア
プランを検証した上で支給できるように、国が市町村に財政支援を行う。
 移動支援、日中一時支援などは地域生活支援事業ではなく、個別給付にする。

【表題】[3]報酬構造の見直し、加算の整理と報酬改訂、
【結論】
○各種の加算を整理し、可能なものは基本報酬に組み入れていく。
【説明】
 複雑な加算制度を基本報酬に組み入れることで、事務処理を簡素化していく
事が必要である。但し、人的な支援を手厚く実施していく場合や看護師、理学
療法士、作業療法士、臨床心理士、等の専門職を加配した場合などの配置加算
は考慮する。

【表題】[4]介護職員処遇改善交付金に関して
【結論】
○介護職員処遇改善交付金は基本報酬に組み込む。
【説明】
 介護職員処遇改善交付金は、介護職員の処遇改善に取り組む事業者に対して、
平成23年度末までの間、介護職員(常勤換算)1人当たり月額平均1.5万円を
交付するものであるが、対象職員が限定されている、諸手続きが複雑であるな
どの問題点がある。こうした点を解消する観点から、基本報酬に組み入れて事
業所全体の賃金の底上げを図る。なお、現政権のマニフェストでは、「介護労
働者の賃金を月4万円程度引き上げます」としており、引き続き、取り組みを強
める。

【表題】[5]通所サービス等利用促進事業の交付金に関して
【結論】
○通所サービス等利用促進事業の交付金は報酬に組み込む。
【説明】
 日中活動支援を利用するには送迎は必要である。また、医療的ケアを必要と
する人の送迎には看護師の添乗も必要になる。現行の生活介護には送迎経費も
含まれているとの解釈があるが、他の通所事業には送迎経費は含まれていない。
送迎を行う事業所への通所サービス等利用促進事業の交付金は、実績に応じて
報酬に含まれるようにする。

【表題】[6]総合福祉法の策定及び実施のための調査等について
【結論】
○地域生活移行に向けた施設入所者、入院患者への実態調査等を実施する。
○新たな支給決定の仕組みのための試行事業や研究等を実施する。
【説明】
 既に厚生労働科学研究費、総合福祉推進事業等で先行研究や試行調査が行わ
れているが、加えて総合福祉法の策定及び実施に関する調査等のための予算確
保を行う。
 障害程度区分に代わる新たな支給決定の仕組みの開発及び実施に関しては、
試行事業による検証等、十分な準備を経るべきであり、またその過程は当事者、
家族、事業者に的確に情報提供されなければならない。国は、そのために必要
な予算を確保する。
 総合福祉法の骨格や内容について、当事者向けの分かりやすい資料を作成す
る必要がある。作成に当たっては、当事者の意見・助言を受ける。

II-4-(1) 障害者福祉予算をOECD諸国の平均水準以上に
【表題】障害者福祉予算をOECD諸国の平均水準以上に
【結論】
○障害者への現物給付の水準をOECDの平均水準以上に引き上げる。
【説明】
 障害者福祉の予算水準のあり方を考える上で、参考になるのがOECD諸国との比
較である。
 そこで地域生活をささえる支援サービスの予算規模(障害者に対する現物給
付。ほぼ障害者自立支援法によるサービス費用に相当)のOECD諸国の対GDP比平
均を計算したところ、0.392%(小数点第4位を四捨五入)であった。(OECD
SOCX2010。2007年データ。34カ国のうち、データなしのアメリカ・カナダを除
く32カ国を集計。)
 日本は0.198%(1兆1138億円に相当)でOECD諸国第18位であった。これを平
均並み(GDPの0.392%)に引きあげるには、GDP比0.193%(約1兆857億円)の
増額が必要であり、総計で現在の約2倍に当たる2兆2051億円となる。また10位
(0.520%)以内では約2.6倍に当たる2兆9251億円となる。(2007年の日本の
GDP総額は562兆5200億円)。

II-4-(3)長時間介護などの地域生活支援のための財源措置
【表題】長時間介護などの地域生活支援のための財源措置
【結論】
○国は、長時間介護に必要な財源を確保する。
○地域移行者や地域生活をする重度者に関する支援サービスに関して、他の支
援サービスの場合における負担と支給決定のあり方とは、異なる仕組みを導入
する。
○国は、地方自治体が、国庫負担基準を事実上のサービスの上限としない仕組
みを財源的に担保する。

【説明】
 どんなに重い障害がある人でも、障害者権利条約第19条の「他の者と平等な
選択の自由を有しつつ地域社会で生活する平等な権利」を実現することが求め
られる。長時間介護も、その人の障害特性やニーズ、医療的ケアの必要度等に
応じて、日中の介護のみが必要な人から、24時間のパーソナル・アシスタン
スが必要な人まで、必要とされる介護内容は様々である。ただ、どんなに重い
障害がある人でも、またどこに住んでいても、地域社会で暮らす権利が満たさ
れる為に必要な支援量は提供されるべきである。上記を満たし、各人のニーズ
に応じた支援が適切に届けられるために、財源を確保して支援することが必要
である。
 地域移行者と地域生活をする重度者では、負担と支給決定のあり方を変える
べきである。地域移行者の中には、出身自治体と居住自治体が分かれているケ
ースが少なくない。住民票がある住所では地域生活が出来なかったため、入所
施設や精神病院に長期間、社会的に入院・入所している、という住民票住所と
実際の居住地が異なるケースなどである。こういう人が地域移行した場合、移
行先が住所地となるため、施設や病院に近い自治体、あるいは重度者の地域移
行を先進的に進めてきた自治体は、過剰な負担を強いられる可能性がある。こ
れが、地域移行を阻害する要因の一つでもある。
 そこで、施設・病院から地域移行する人や親元から独立して別市町村で暮ら
す障害者については、出身自治体が一定年度の財政負担(恒久的かどうかは検
討)をした上で、居住自治体での支給決定をすることも検討してはどうか。
 現状では国庫負担基準という形で実質的な予算上限を設定しているため、少
なからぬ自治体が、国庫負担基準を事実上のサービス上限としている。
 はじめに予算ありき、ではなく、まずは障害者のニーズを中心に検討すべき
である。そのニーズを積み上げる形で、必要な支給決定がなされる必要がある。
 総合福祉法においては、障害者の実態とニーズに合わせ、「地域で暮らす権
利」を保障するための財源を確保すべきである。
 従って、国庫負担基準については、次のような考え方が考慮されるべきであ
る。
(1)地域生活する重度者について、現行の国庫負担率以上は国負担を原則とす
る。ただ、そのことが無理な場合、例えば都道府県での基金化も含め市町
村負担を大幅に引き下げる対応を考えるべきである。
(2)ホームヘルプについては、8時間を超える支給決定をする場合は、8時間
を超える部分の市町村負担は5%程度に下げ、都道府県が45%を負担し、8
時間以内の支給決定をする場合および8時間以上の支給決定の場合の8時間分
については、市町村負担を26%とし、都道府県負担の1%を確保して使うよ
うにする案を提示した。(図参照)
  なお、ホームヘルプにかかる国の負担割合は現行5割であるが、地域格差
なく、必要とされるサービス提供が保障されるためには、現行以上の国の負担
割合を検討すべきである。

 上記の図で8時間を境にしている理由は、重度訪問介護の区分6の国庫負担
基準が約40万円で、月212時間程度の単価となり、1日当たり7時間超で
あることから、8時間を境にしている。
 また入所施設や精神病院への入院・入所者の地域生活移行等を促進するため、
例えば居住地と出身地で費用を分担するような方式が考えられないか。(下図
参照)

III 関連する他の法律との関係
【項目】
III-1 医療

 医療・合同作業チームでは、障害者の医療をめぐる現状を踏まえつつ、障害
者は保護の対象ではなく権利の主体であるとの考えに立ち、障害当事者の経験
に即した視点から、諸課題への解決策につながるよう、制度の在り方につき検
討を行った。
(第1期(H22.10~12月)には精神医療を中心に、第2期(H23.1~6月)には、
障害の種別を問わず、障害者の生活を支える地域医療を主題として検討。)

【表題】「地域における障害者の生活を支える医療」の実現に向けた理念と制
度基盤の構築
【結論】
○障害者が地域で暮らし社会参加できるようにするためには、適切な医療の提
 供が不可欠である。医療は、福祉サービス及び保健サービスとの有機的連携
 を確保しながら提供される必要があるという、総合福祉法(仮称)の理念は
 医療保健の分野にかかる法律においても確立されるべきである。
○また、包括的なサービス提供の基盤となるものとして、個々の障害者に対す
 る相談支援の際、当該障害者の福祉・保健・医療にわたるニーズに合った総
 合的な相談支援が自己決定への支援と一体的に提供されることが必要であ
 る。このような本人の希望を踏まえた総合的な支援が総合福祉法(仮称)の
 みならず、医療保健の分野にかかる法律においても実施できるよう、基盤整
 備が有機的連携の下になされなければならない。
【説明】
 障害者に対する医療は、疾病に対する治療を提供する医療(医療モデルに基
づく医療)とは在るべき姿を異にする。医療モデルではなく個々の障害者の生
活の状況を基盤として、日常生活を支える不可欠のサービスとして、医療が、
保健、福祉、生活支援のサービスと有機的連携を確保しつつ提供されることが
重要である。このような観点から、障害者に対する地域医療をさらに向上発展
させていくための理念と制度基盤の構築が、総合福祉法(仮称)のみならず医
療法、地域保健法等の関係法令のもとでも必要である。

【表題】障害者の医療費公費負担制度の見直し
【結論】
○障害者の医療費公費負担制度の見直しに際しては、現行の自立支援医療制度
 のみならず、特定疾患治療研究事業、小児慢性特定疾患治療研究事業、高額
 療養費制度、都道府県の重度心身障害児者医療費助成制度等を総合的に検討
 の対象とする必要がある。
【説明】
 地域で生活する障害者は、障害の種類にもよるが、外来等により反復継続し
て医療を受ける必要がある場合が多く、その経済的負担は本人の負担能力に比
して過重となりやすい。また、必要な医療が適時的確に受けられるようにする
ことは障害の重度化を予防する観点からも重要であり、経済的負担の過重感か
らこれが妨げられることがあってはならない。こうした観点から、自立支援医
療のみならず、様々な医療費公費負担制度に基づき講じられている負担軽減の
仕組みを総合的に検討していく必要がある。

【表題】医療的ケアのにない手の確保
【結論】
○重度の障害者の地域生活を支援するため、日常的に必要となる医療的ケアの
 にない手を増やしていく必要があり、介護職員等に関する法令上の規定の整
備や医療関連職種に関する法令との調整が必要である。
○その際、介護職員等が不特定多数の対象者へ当該医療的ケアを行う場合(入
 所施設でのケア等)と、にない手が個別的に特定の対象者へ特定のケアを行
 う場合(学校や在宅でのケア等)を区別し、それぞれに相応しい柔軟な実施
 体制の整備が図られるべき。
【説明】
 平成23年の社会福祉士法、介護福祉士法の改正により、平成24年度から、
たんの吸引と経管栄養について、看護師等だけでなく、一定の研修を受けた介
護職員等も行うことができるようになった。研修受講の便宜を図りつつ、これ
らの医療的ケアをになう介護職員等を増やしていくとともに、医療的ケアを日
常的に必要とするより多くの障害者が地域で円滑に生活を送れるよう介護職員
等が実施できる医療的ケアの範囲をさらに拡大することも検討する必要がある。

【表題】重度身体障害児者、重症心身障害児者の医療と地域生活
【結論】
○重度身体障害児者や重症心身障害児者にとっては、総合福祉法による長時間
 介助サービスと相まって、地域生活を送るうえでのニーズに即した医療サー
 ビスが身近なところで受けられる体制と、日常的な医療的ケアが日頃介助し
 ている介助者によって行いうる体制を構築することが必要である。同時に、
 ショートステイも含めた施設への入院・入所機能の確保も重要である。
【説明】
 障害が重度であっても地域で生活できるよう支援を講じていくことが重要。
このためには、長時間介助サービスの提供と相まって、日常的な医療の提供が
確保されること、また、生命と生活のセーフティネットとしての施設機能が確
保されることが重要であり、そのための関係法令の整備が必要となる。

【表題】難病等のある障害者の医療と地域生活
【結論】
○難病その他の希少疾患等のある障害者にとっては、身近なところで専門性の
 ある医療を受けることができる体制及び医療を受けながら働き続けること
 のできる就労環境が求められ、このための法令の整備が必要である。
【説明】
 難病等にかかる障害者について、概念整理を進める必要があるが、難治性慢
性疾患のある人も含むよう幅広くとらえ、それらの人に対しては総合福祉法(仮
称)にもとづく生活支援が講じられるとともに、医療及び就労分野の法令にお
いて、医療を受けながら地域生活、特に働き続けることができる環境の整備に
ついて規定していくことが必要である。

【表題】精神障害者の医療と地域生活
【結論】
○精神障害者にとっては、総合福祉法において、安心して地域社会で自立した
 生活を送るための生活支援や相談支援が求められるが、医療の分野において
 は福祉サービスと連携しつつ、地域の身近なところで必要な通院医療や訪問
 診療を受けられる体制が求められる。
○精神障害者が調子を崩したとき、家族との関係が一時的に悪化したとき等に、
 入所、入院を防ぐあるいは再発予防のためのドロップインセンターとして、
 必要時にすぐに使えるレスパイトやショートステイが必要である。その際、
 障害程度区分に依らず使える仕組みとすることが必要である。
【説明】
 地域移行、支給決定、相談支援の項におけるセンターの機能は、この項とも
密接に関係する。
(※ なお、人権保障の観点からの社会的入院の解消、地域移行等については、
別項で記述する。)

【表題】発達障害者の医療と地域生活
【結論】
○発達障害者にとって、地域で生活できるためには、総合福祉法に基づく生活
 支援とともに、身近なところで専門的な治療や療育をうけられる体制の整備
 が求められる。
【説明】
 特に、発達障害の診断・治療・療育に係る指針等を普及させ、これらを担う
能力を十分に備えた医師等の医療従事者を増やすことにより、医療の質を上げ
る(不必要な投薬を避け、適切な支援を提供する)ことが求められる。

【表題】精神障害者に係る非自発的入院や入院中の行動制限
【結論】
○関係する法律(精神保健福祉法、医療法等)を抜本的に見直し、以下の事項
 を盛り込むべきである。
・いわゆる社会的入院を解消し、精神障害者が地域社会で自立(自律)した生
 活を営むことができるよう、権利の保障を踏まえた規定を整備すること
・非自発的な入院や入院中の行動制限については、人権制約を伴うものである
 ことから、本人の意に反した又は本人の意思を確認することができない状況
 下での適正な手続に係る規定とともに、人権保障の観点から第三者機関によ
 る監視を含む適切な運用がなされることを担保する規定を整備すること
・その際、第三者機関の必要経費は、国庫が負担すること
【説明】
 関連して、精神疾患の入院ニーズを精査し、国並びに都道府県は精神科病床
の削減計画を立て、入院に代わる地域での医療体制を構築することが必要であ
る。これは、地域移行、資源整備の項における計画とも密接に関連する。
 同時に、医師や看護師等の精神医療に充てる人員の標準を一般医療より少な
く設定している現行の基準を改め、必要最低限の適正な病床数と必要な人員を
配置し、精神医療の質を向上するための根拠となる規定を設ける必要がある。

【表題】保護者制度
【結論】
○保護者制度は廃止し、これに代わる公的制度を確立するべきである。
【説明】
 医療保護入院に係る同意を含む「保護者制度」の問題点を解消するために、
自らの判断と選択による医療の利用が保障されるべきことを確認するとともに、
非自発的な入院等の際に公的機関がその責任を果たす制度を構築し、その導入
に伴い保護者制度は廃止する。

【表題】精神障害者の入院に係る病室の規定の見直し
【結論】
○精神病患者を精神病室でない病室に入院させないこととしている医療法施
行規則第10条三項を廃止する。
【説明】
 精神障害者が精神疾患を持ちながら地域で生活するには、一般病院を含め身
近なところで通院や往診などを受診できることが重要となる。精神疾患の治療
の場を他疾患と同様に一般医療の中に組み込み精神科医療へのアクセスをよく
することは、再発予防や早期発見につながる。また、医療従事者や市民が抱く
精神科医療への抵抗感や偏見をなくし、ひいては地域移行の推進にもつながる。
その障壁となっている当該規定は廃止すべき。

【表題】障害者に対する歯科保健・歯科医療の充実
【結論】
○障害者、特にアテトーゼや行動障害を伴う障害者に対し、身近なところで歯
科保健サービス及び歯科医療を提供する体制の整備・充実のため、院内で治
療できるよう、物的設備の整備支援、医師等に対する障害に関する研修、訪
問治療等につき、医療法等の関連法令の規定の見直しが必要である。
【説明】
 障害者にとって歯科治療を円滑に受けることが困難な状況が依然として存在
する。歯科医療及び予防は、障害者にとって、健康保持、学習発達(特に障害
児)、生活機能の回復向上に重要であり、現状の改善が不可欠である。

【項目】
III-2 障害児
 「障害者制度改革の推進のための基本的な方向性について」(平成22年6月
29日閣議決定)で示された次の2点について、平成23年内に結論を得るべ
く論点を整理するよう、障害児支援合同作業チームが設置された。
・地域の身近なところで提供される障害児やその保護者に対する相談支援と療
 育等の在り方について
・障害児への支援が、利用しやすい形で提供されるための具体的方策について

1.児童福祉法関係
【表題】権利擁護
【結論】
○障害児を含むすべての子どもの基本的権利を保障する仕組みの創設が望まれ
ることから、児童福祉法でオンブズパーソンを制度化するべきである。その
ために、社会保障審議会児童部会に検討の場を設け、検討を進めること。
【説明】
 障害の有無や程度にかかわらずすべての子どものための権利擁護の仕組みを
市町村に設けるために、オンブズパーソンを、国連の子どもの権利委員会の勧
告(CRC/C/JPN/CO/3, 2010.6.)を踏まえ、児童福祉法で制度化するべきである。
特に、障害児は契約当事者が保護者であるため、子どもの視点から最善の利益
を保障できる権利擁護の仕組みが必要である。既に自治体で取組まれている先
行事例等もあることから、社会保障審議会児童部会で検討を進め、オンブズパ
ーソンの制度化を図るべきである。

【表題】早期支援
【結論】
○母子保健法に基づく障害の早期発見を、保健指導や医療の保障にとどまらず、
障害児が地域の子どもとしての育ちを保障されるよう、児童福祉法の子育て
支援事業と連携し実施すること。
○健康診査等による要支援児に対しては、家庭への訪問・巡回等、家庭での育
児支援を基本的な在り方とし、児童及び保護者の意思に基づいて、児童発達
支援センター、医療機関、入所施設等を活用できるようにすること。
【説明】
 母子保健法は、学校保健安全法、児童福祉法等に基づく事業と協調するよう
規定されているが、現状は、障害の発見から療育、特別支援教育へと「特別な
支援過程」につながるだけのことが多い。障害の発見を地域の子育て支援、さ
らに地域の学校への就学につなぐことの出来る制度設計が必要である。
 
【表題】一般児童施策の利用が障害を理由に制限されないこと
【結論】
○児童福祉法の保育所の入所要件には、障害を理由に利用を制限する規定がな
 いことを踏まえ、今後の「子ども園」(仮称)の制度化において、障害児の
 入園が拒否されないように応諾義務を課すこと。また、必要な支援を確保す
 るよう、必要な規定を児童福祉法もしくは「子ども園」に係る新法に設ける
 こ と。
○障害児が、放課後児童クラブへの参加を希望する場合には、障害を理由に拒
 否されないこと。また、指導員の加配や医療的ケアを必要とする子には看護
 師を配置する等、必要な支援を講じること。
【説明】
 児童一般施策と障害児施策の両方があることによって、障害児が児童一般施
策を利用しにくい、あるいは利用できないということがないようにするべきで
ある。
 子ども・子育て新システムの「子ども・子育て会議(仮称)」や「新システム
事業計画(仮称)」等も、上記の理念の下に検討が進められるよう障害児、家族
及び支援者が参画し、障害を理由に利用が拒否されないよう、かつ、必要な支
援が確保されるよう「子ども園」(仮称)が制度化されるべきである。放課後
児童クラブについても、同様に整備されるべきである。

【表題】療育
【結論】
○地域社会の身近な場所において専門性の高い療育(障害児に対する発達支
 援・育児支援・相談支援・医療的支援)を利用できるようにすること。
○障害者基本法の「可能な限りその身近な場所において療育その他これに関連
 する支援を受けられるようにするため」の規定を踏まえ、児童福祉法の療育
 の規定を整理すること。
【説明】
 障害児の個々の特性を踏まえた専門性の高い療育を身近な地域で得られるよ
うにすべきである。児童福祉法には「療育の指導等」が規定されているが、規
定の仕方が狭いため、地域社会の身近な場所で療育が利用できるように整理す
べきである。

【表題】通所支援
【結論】
○保育所等訪問支援事業や巡回支援専門員整備事業、障害児等療育支援事業の
 拡充を図るとともに、児童発達支援センターもその対象に加えること。
○児童発達支援センターは、様々なニーズのある障害児に対応できる職員配置
 基準が必要であるため、保育士及び児童指導員に加え、看護師や療法士等の
 専門職を適正に配置できるようにすること。
【説明】
 障害児通園施設が障害種別に分かれて培ってきた「専門性」を、他の児童発
達支援センターや放課後等デイサービス事業所等に提供して相互のレベルアッ
プを図ることに加え、福祉型センターには看護師や療法士等、医療型センター
には保育士等の必要な職員を確保して発達支援機能を向上させ、真の意味の
「一元化」を目指すことが必要である。

【表題】障害児入所施設
【結論】
○障害児の自立生活にむけて、「自立支援計画」の策定を障害児入所施設に義
 務付けること。その根拠規定を児童福祉法、児童福祉施設最低基準に設け、
 運 営ガイドラインを整備すること。
○入所決定、入所後であっても、地域の子どもとして意識されるよう、児童相
 談所等に加え、市町村が関与できるようにすること。
○入所支援から地域生活に移行にあたっては、在宅生活が可能となるよう地域
 資源を整備し、家庭に帰れない場合でも、障害児専門の里親制度の拡充や障
 害児を対象とするファミリーホームなど、できるだけ家庭に近い養育環境を
 整備すること。また障害児入所施設の小規模化、ユニット化を促進するため、
 加算措置をすること。
○NICU(新生児集中治療室)から在宅生活に移行するに当たり、その移行準備
 や障害が発見された直後の親に対するカウンセリング、養育指導においては、
 医療型障害児入所施設の母子入園での支援が有効であることから、これを拡
 充すること。
○入所施設は、社会資源の一つとして、保育所を含む地域機関や家庭への訪問、
 巡回型の支援が行えるようにし、すべての障害児入所施設にショートステイ
 枠を増設すること。
【説明】
 児童養護施設等に義務付けられている自立支援計画は、障害児入所施設には
義務付けられていない。障害児入所施設に、児童相談所等との協議にもとづき
将来の自立生活に向けた「自立支援計画」の策定を義務化するべきである。地
域の子どもとして育つことができるよう、市町村が入所決定等で関与し、長期
休暇等の自宅で過ごす際に、措置で入所した子どもであっても居宅サービス等、
必要なサービスを利用できるようにすべきである。入所施設は、小規模化し、
できるだけ家庭に近い環境で養育できるよう整備し、地域移行が可能となるよ
うショートステイ枠の創設やファミリーホーム等の環境整備が必要である。

【表題】地域の身近な場所での相談支援体制
【結論】
○相談支援は、障害が特定されない時期から、身近な地域の通いやすい場で提
 供されること。相談支援事業者でのサービス利用の手続を簡素化し、本人・
 保護者の同意に基づいて利用する事業の代理申請を可能にすること。
○地域子育て支援拠点事業に、障害児子育ての相談対応者を職員として配置す
 ること。障害児相談支援事業所と連携を図ること。
【説明】
 相談支援は、地域の身近な場所においてワンストップ型で提供されなければ
ならない。そのために、相談支援事業者でのサービス利用の手続の簡素化が必
要である。また、障害児の相談に対応できる職員の養成が必要である。

【表題】ケアマネジメントと「個別支援計画」
【結論】
○「個別支援計画」は、障害児・家族にとって身近な地域における支援を利用
 しやすくするため、福祉、教育、医療等の利用するサービスを一つの計画と
 して策定されること。6カ月程度の適当な期間で見直され、支援の調整、改
 善が図られるようケアマネジメントすること。
○障害児が支援を受けつつ意思を表明し、その意向に沿った計画を策定できる
 ように、計画に意見表明の欄を設けること。保護者の同意なくしては履行で
 きない仕組みにすること。
○乳幼児期の「個別支援計画」は、保護者・きょうだいへの支援を含むものと
 して策定されること。
【説明】
 障害児に対するケアマネジメントは、単にサービス利用計画の策定にとどま
らず福祉、教育、医療等の総合的な計画として策定され、必要な期間で見直さ
れ、サービス調整を障害児及び保護者の同意のもとに行うべきである。その際、
「地域での育ち」を促進するよう、きょうだい支援を含めたものとするととも
に、特に乳幼児期には保護者への「育児支援」を含めるべきである。

【表題】要保護児童対策地域協議会と地域自立支援協議会の連携
【結論】
○要保護児童対策地域協議会と地域自立支援協議会とで検討が重なる子どもに
 ついては、保護者の同意の下に合同で協議会を持つことができるようにする
 こと。
【説明】
 要保護児童対策地域協議会と地域自立支援協議会が、それぞれに障害児の検
討をするのではなく、一元化すべきである。また、要保護児童対策地域協議会
の構成員として、障害児福祉関係者(障害児相談支援事業所や児童発達支援事
業所等)が加わり、検討できる体制を整えるべきである。

【表題】家族支援ときょうだい支援
【結論】
○障害児が家族の一員として、地域の子どもとして成長できるよう、育児支援、
 家族支援を行うこと。保育所等訪問支援事業の対象に「家庭」を加えること。
○きょうだいのグループ活動等を支援し、障害児ときょうだいが一緒に参加で
 きる事業を児童発達支援センター等が実施すること。
【説明】
 障害児の育児支援、家族支援を家庭でできるように、保育所等訪問支援事業
の訪問対象に家庭を加え、外出できない家族への支援を可能とすべきである。
また、きょうだいへの支援は現在のところ事業化されていないことから、活動
支援や一緒に参加できるプログラムを実施できるようにすべきである。

2.学校教育法関係
【表題】寄宿舎
【結論】
○特別支援学校の寄宿舎の本来の目的は通学を保障することにあり、自宅のあ
 る地域社会から分離されないよう運用されること。寄宿舎の実態を調査し、
 地域社会への移行に向けた方策を検討すること。
【説明】
 寄宿舎は本来広域学区である特別支援学校への通学保障のために設置された
ものであるため、学校が休みになる土・日や長期休暇は家庭に戻るように、運
用されるべきである。

【項目】
III-3.労働と雇用
 就労合同作業チームは、従来、障害者自立支援法などで規定されてきた福祉
的就労を総合福祉法(仮称)でどのように規定するかの検討とあわせ、障害者
雇用促進法などを中心としてすすめられてきた一般就労・自営施策のあり方に
ついても検討するため設置された。委員は、障がい者制度改革推進会議構成員4
名と総合福祉部会構成員6名から構成された。
 本作業チームで検討した主な内容は、次のとおりである。
[1]障害者基本法に盛り込むべき就労に関する基本的事項
[2]総合福祉法の守備範囲(労働分野との機能分担など)
[3]福祉と労働及び雇用にまたがる制度と労働者性の確保のあり方
[4]就労移行支援事業、就労継続支援A型・B型事業、生産活動に取り組む生活
  介護事業、地域活動支援センターや小規模作業所のあり方
[5]雇用率制度及び差別禁止と合理的配慮を含む、一般就労・自営のあり方
[6]多様な就業の場としての社会的雇用・社会的事業所・社会支援雇用のあり方

1.障害者雇用促進法に関わる事項
【表題】雇用の質を確保するための法改正
【結論】
○障害者権利条約第27条[労働及び雇用]で求められる労働への権利、障害に基
 づく差別の禁止、職場での合理的配慮の提供を確保するための規定を設ける。
【説明】
 大企業に限らず中小の企業においても、障害者が他の者と平等な雇用条件や
昇給・昇進、希望職種・業務の充足といった雇用の質が確保できるようにする
ために、労働の権利、障害に基づく差別の禁止、職場における合理的配慮の提
供の確保等に関する必要な規定を設けるべきである。

【表題】雇用施策の対象とする障害者に就業上必要な支援を認定する仕組み
【結論】
○障害者雇用率制度に基づく雇用義務の対象を、あらゆる種類の障害者に広げ
ると共に、雇用率達成のため事業主への支援を拡充する必要がある。また障
害者にとって就業上必要な支援を明らかにする総合的なアセスメントを整備
する。
【説明】
 精神障害者については上記結論と併せて、職場で安定的に就業するための配
慮と職場環境の整備が不可欠である。
 個々の障害者が具体的な就業の場においてどのような支援を必要とするかに
ついて、当該障害者の就業にかかわるすべての利害関係者(障害当事者も含む。)
がチームとしてアセスメントを行う仕組みを整備する必要がある。そうしたア
セスメントは、状況の変化に応じた柔軟な見直しが求められる。

【表題】障害者雇用率制度および納付金制度の見直し
【結論】
○障害者雇用率制度の対象者の拡大に関連して、法定雇用率および納付金制度
 は、調査に基づいて課題と限界を検証し、必要な見直しを行うべきである。
【説明】
 法定雇用率については、社会モデルに基づいた障害の範囲の拡大、就労系事
業などへの仕事の発注額などに応じて当該企業の障害者雇用率に算定する見な
し雇用の制度化などを踏まえて、大幅に引き上げる方向での見直しが求められ
る。重度障害者を雇用した場合、1人を2人分として算定するダブルカウントに
ついては、社会モデルに基づいた制度に見直すべきであるとの意見があったが、
障害者の範囲の見直しが先に行われるべきであるとの意見もあった。
 障害者雇用納付金制度は、助成額の引き上げや給付期間の恒久化に加え、助
成申請手続きの簡便化も必要である。また、助成金は事業主の申請により給付
されるため必ずしも障害者の雇用を支えるために有効に活用されていないとの
指摘があり、障害者自身が申請できるようにする必要がある。

【表題】職場における合理的配慮提供の確保
【結論】
○事業主が障害者に合理的配慮を提供するのに必要な経済的・技術的支援を受
 けられるような仕組みとともに、合理的配慮が提供されない場合、苦情の申
 し立てと救済措置が受けられるような仕組みを整備する必要がある。
【説明】
 就労系事業、特例子会社、重度障害者多数雇用事業所等での合理的配慮の実
践例を企業に示すことで、企業の理解を求める。合理的配慮の類型化や事例の
ガイドブックの整備等も企業の取組みを進める上で有効と思われる。それにあ
わせ、合理的配慮に係る費用負担のあり方も整理する必要がある。
 また、合理的配慮が提供されない場合、障害者が苦情を申し立て、救済措置
が受けられるような第三者性を確保した仕組みについては、職場内および労働
審判制度の整備を含めて平成24年度内を目途に得られる差別禁止部会および労
働政策審議会の検討結果等を踏まえ、適切な措置を講じる必要がある。

2.障害者雇用促進法以外の法律にも関わる事項
【表題】就労系事業に関する試行事業(パイロット・スタディ)の実施
【結論】
○安定した雇用・就労に結びついていない障害者に適切な就業の機会を確保す
 るため、試行事業(パイロット・スタディ)として賃金補填等の他、多様な
 働き方の就業系事業を実施する。
【説明】
 全国で80ヵ所程度を指定し、賃金補填(使途に規制がなく、障害従業員の賃
金補填にも充当しうる、柔軟な助成措置を含む。)および官公需や民需の優先発
注等を伴う、多様な就業系事業(社会的雇用・社会的事業所・社会支援雇用な
どを指す。詳細は就労合同作業チーム報告参照。)が障害者就業施策にもたらす
効果を実証的に検証することにより、同制度化に向けた課題を整理する。対象
とするのは、[1]最低賃金の減額特例を受けている就労継続支援A型事業所、
[2]最低賃金の1/4以上の工賃を支払っている就労継続支援B型事業所、
[3]箕面市や滋賀県など、地方公共団体独自の制度として賃金補填を実施して
いる事業所の他、新たに起業する事業所等。これらに対し、障害従業員への賃金
補填を含む事業所への運営費補助及び官公需や民需の優先発注などによる仕事を
確保するための支援を行う。
 検証事項は、主に[1]障害者自身の働く意欲への影響や、ともに働く障害の
ない者の意識の変化、[2]対象とすべき障害者や事業所の要件、[3]事業者が
提示する賃金への影響、[4]障害従業員の心身・労働能力の変化の状況、
[5]収益の配分とその決定の仕組み、[6]事業者の生産性・付加価値引き上げ
の取組み、[7]民間企業と就労系事業が連携する取組み、[8]総合的アセスメ
ントの仕組みなど、新たな就労系事業の制度化にあたって予想される課題の整理
である。 現在の国の制度では、一般就労と福祉的就労しか選択肢がなく、しか
も賃金(工賃)や位置づけ(労働者か利用者か)についても大きな乖離がある。
そのため、両者の間に第三の選択肢をつくることや福祉的就労に労働法規を適用
すること、さらには多様な働き方を保障することなど、種々の検討すべき課題が
ある。

【表題】賃金補填と所得保障制度(障害基礎年金等)の調整
【結論】
○就労系事業に従事する障害者が賃金補填を受ける場合、原則として年金支給
 は一部ないし全額停止することで、年金財源を賃金補填に振り替えうる仕組
 みをつくる。そのためには、賃金補填と所得保障の関係について、障害基礎
 年金の支給調整ラインの検討が必要である。また、賃金補填の対象となる障
 害者の認定の仕組みを検討する必要がある。賃金補填を行う場合の事業者の
 モラルハザードをどうするかについても検討が必要という意見もある。
【説明】
 障害基礎年金における所得制限は、20歳前に障害者となった人の場合につい
て、所得が398万円4,000円を超えると半額支給停止、500万1,000円を超える
と全額支給停止となる。しかし、最低賃金(時給)で働いた場合の年間の所得
は100数十万円程度であり、到底、現行の支給調整ラインには届かない。よっ
て、賃金補填を受けない障害者との公平性を担保するには、支給調整ラインを
さらに低い金額で設定することを検討する必要がある。また、20歳前に障害者
となった人以外の場合は、障害厚生年金や稼働所得と賃金補填との調整をどう
するか等の検討課題がある。 なお、賃金補填の導入によって事業者がモラル
ハザードを起こさないよう、生産性や付加価値を高めるとともに、障害従業員
の能力開発により賃金補填額の縮小、あるいは賃金補填がなくとも最低賃金以
上の賃金を支払うことを目指すような制度設計とすることについても検討する
必要がある。

【表題】障害者雇用・就労にかかる労働施策と福祉施策を一体的に展開するた
めの体制の整備
【結論】
○障害者の雇用・就労にかかる労働施策と福祉施策を一体的に展開しうるよう、
 関係行政組織を再編成するとともに、地方公共団体レベルで雇用・就労、福祉
 および年金等に係る総合的な相談支援窓口(ワンストップサービス)を置く。
【説明】
 現在、一般就労・自営は労働行政等、また福祉的就労は福祉行政の所管とな
っているが、それらを一体的に展開するには、中央レベルの行政組織を再編成
するとともに、地域レベルで就労・生活支援にかかわる、ハローワーク、福祉
事務所、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センターおよび地方
公共団体が設置する就労支援機関、地域自立支援協議会、発達障害者支援セン
ターならびに特別支援学校などの関係機関のネットワークが有効に機能する仕
組みを整備する。

【表題】就労合同作業チームの検討課題についてフォローし、実現化をめざす
ための検討体制の整備
【結論】
○推進会議のもとに就労部会または就労検討チームを設置して、就労系事業に
 かかる試行事業の検証を含む検討課題についての結論を得る。そのメンバー
 は経済団体、労働団体、学識経験者(労働法、労働経済学、経営学、社会保
 障論などの分野の専門家等)、事業者団体および地方公共団体等から構成す
る。
【説明】
 就労合同作業チームではきわめて広範囲にわたる、一般就労・自営および就
労系事業に係る課題について検討したが、構成員の専門領域が限られていたこ
とや検討期間および時間が短かったため、結論を得るまでには至らなかった。
従って、推進会議のもとに新たにつくられる部会または検討チームには幅広い
専門領域の構成員を加え、十分議論を尽くし、結論をえる。

【表題】全国民のなかでの障害者の生活実態等を明らかにする基礎資料の整備
【結論】
○障害の社会モデルを基礎として雇用・就労施策を検討する基礎資料をえるた
 めに、国の基幹統計調査(全国消費実態調査や国民生活基礎調査等)におい
 て障害の有無を尋ねる設問を入れた全国調査を実施する。
【説明】
 厚生労働省では、身体・知的・精神、3障害の就業実態調査や障害者雇用実態
調査を行ってきているが、いずれも手帳所持者やすでに雇用されている人など、
限定された障害者集団の状況しか明らかにできない。障害ゆえに雇用・就労の
機会を得がたい者は、それらの障害者以外にも数多く存在する。いわゆる制度
の谷間で公的支援を受けることができない人びとを支援してこそ、障害者雇
用・就労の裾野を広げることができる。
 また、障害の社会モデルを基礎とした雇用・就労施策を検討する基礎資料と
して、全国民のなかでの障害者の経済活動や生活実態を明らかにすることが重
要である。そのためには、国の基幹統計調査(全国消費実態調査や国民生活基
礎調査等の全国民を対象とした大規模社会調査)において、少なくとも一時点
で病気や障害によって活動が一定期間以上制限されているかどうかを聞く設問
を追加し、その調査結果を分析する必要がある。

III 関連する他の法律との関係
III-4.その他

I-1 法の理念目的より

【「能力に応じ」という表記について】
○社会福祉法第3条に「能力に応じ」という表記があるが、これは能力主義を
 想起させ「インクルーシブな社会を目指す」という改革の趣旨とは整合しない
 ので、削除する。

I-5 権利擁護より

【苦情解決機関(社会福祉法)について】
○苦情解決制度は、現行の社会福祉法に基づく仕組みを、権利擁護の観点から
 抜本的に見直す。そのポイントは下記の2点である。
 ・都道府県社会福祉協議会に設置されている福祉サービス運営適正化委員会
  の下の苦情解決合議体が、苦情を受ける当事者である事業所との関係で独
  立性を担保されていること。
 ・この合議体によるあっせん、意見具申が苦情解決に当たって有効であった
  かを検証し、その機能を高めること。

【オンブズパーソン制度と虐待防止について】
○今年6月に成立した障害者虐待防止法では、都道府県や市町村は虐待を防止
 するために、オンブズパーソン活動を行う団体など、民間の団体と連携協力
 することとされており、この連携を強化することが重要である。
○障害者虐待防止法では、福祉施設で働く人やオンブズパーソンなどが虐待を
 発見した時には、市町村に通報しなければならないとされている。従って、
 虐待の発見や通報に関しても、市町村とオンブズパーソンの連携が重要にな
 る。
○オンブズパーソンの制度化は、総合福祉法に位置付けるのか虐待防止法に位
置付けるのかを含めて、今後の重要な課題である。

【モニタリング機関について】
○総合福祉法の実施状況に対するモニタリングは、改正障害者基本法で示され
 た国、都道府県、市町村に設置される「審議会その他の合議制の機関(以下、
 モニタリング機関という)」において行う。
○総合福祉法の実施状況については、国、都道府県、市町村に設置されるモニ
 タリング機関においてモニタリングを実施し、その結果に関する勧告を含む
 意見等は、国(所管省庁の大臣)に対して、または、都道府県および市町村
 の関係行政機関や地域の自立支援協議会などに報告される。
○市町村のモニタリング機関は、総合福祉法の当該市町村(広域連合を含む)
 の施策展開状況や障害福祉計画の達成状況について評価・分析・問題点抽
 出(調査・審議)を行い、必要に応じて、当該市町村の関係行政機関をはじ
 め地域自立支援協議会などの関係機関や団体に対して改善の提案を行う。な
 お、市町村のモニタリング機関の必置については、障害者施策の市町村格差
 をなくす観点から今後の課題として引きつづき検討する。
○都道府県のモニタリング機関は、市町村モニタリング機関から集められた全
 県的課題を整理した上で、その評価・分析・問題点抽出(調査・審議)を行
 い、必要に応じて、当該都道府県の関係行政機関や自立支援協議会などの関
 係機関や団体に改善の提案を行う。
○都道府県、市町村のモニタリング機関には、実際にサービスを利用する障害
 当事者の参画も必要不可欠である。 
○都道府県、市町村の地域自立支援協議会では、障害福祉計画の進行管理や次
 期計画の作成などにおいて、モニタリング内容を踏まえた検討行い、整備水
 準を高めることとする。
○個別ケースではない地域課題の問題については、障害当事者や相談支援機関
 がモニタリング機関に課題提起をすることができるようにする。

【権利擁護と差別禁止の普及啓発について】
○障害のある人とない人が地域で共に暮らすためには、障害者理解や権利擁護、
 差別の禁止などの普及啓発に向けた取組みが国と地方自治体の双方で必要で
 ある。これにより、総合福祉法は実質的に機能することになる。
○国においては、情報提供や相談対応等の支給決定プロセスから福祉サービス
 利用における不利益取扱いを禁止し、また権利擁護と差別禁止を普及啓発す
 ること等を法定化した差別禁止法制の制定が求められる。
○市町村、都道府県においても差別禁止の普及啓発と、差別事案が発生したと
 きのあっせん・調整・相手方への勧告等の仕組みを盛り込んだ差別禁止条例
 が必要である。
○普及啓発については、権利の形成や獲得とその支援に関して、鳥取県・島根
 県で進められている「あいサポート運動」(※)のような活動が不可欠であ
 る。(※)「あいサポート運動」とは、地域の理解が不可欠という考え方を
 もとに、障害のある人が地域の一員としていきいきと暮らすため、住民に障
 害の特性や障害のある人への配慮の仕方などを理解・実践してもらう運動で
 ある。
 平成21年より取組まれ、一般市民、障害者団体や県内外の民間企業等が“あ
 いサポーター”として参加協力し、暮らしやすい地域社会づくりのために
 運動を繰り広げている。

I-6 支援体系より

【公営住宅や民間賃貸住宅の活用について】
○公営住宅の障害者優先枠を拡大する。
○民間賃貸住宅の一定割合を公営住宅として借り上げる、一定規模以上の民間
 賃貸住宅には障害者に配慮した住宅の設置を義務付けこれに公的補助を行う
等、民間賃貸住宅への入居を進めるために必要な施策を講じる。
○民間賃貸住宅におけるグループホーム設置を一層促進する。そのために、建
 築基準法を見直し、防火壁などの工事を必要とする等の現在の厳しい基準をな
 くして、グループホームを一般住居として扱うこと。
○事業者に対する税制の優遇(不動産取得税、固定資産税、都市計画税等の減
 額もしくは免除)を設け、住居提供者に対する経済的支援策や優遇策を講じる。

【一般住宅に住む障害者への家賃補助、住宅手当などについて】
○一般住宅に住む障害者への経済的支援について、家賃補助や住宅手当の創設
 等を含め、関係する省庁による連携の下、検討を進める。

I-10 地域移行より

【地域移行・地域生活の資源整備に欠かせない住宅確保の施策について】
○長期入院を余儀なくされ、そのために住居を失うもしくは家族と疎遠になり、
 住む場がない人には、民間賃貸住宅の一定割合を公営住宅として借り上げる
 などの仕組みが急務である。グループホームも含め、多様な居住サービスの
 提供を、年次目標を提示しながら進めるべきである。
○保証人がいないために住居が確保できない入所者・入院者にとって、公的保
 証人制度は必要であり、自治体が保証人となるべきである。

おわりに

 「ある社会がその構成員のいくらかの人々を閉め出すような場合、それは弱
くもろい社会である」。
 これは、1979年の国際障害者年行動計画の一文です。この歴史的課題の解決
がなされないまま、30余年を経た今、社会保障・社会福祉をはじめとする制度
のほころびが各方面から指摘され、「無縁社会」と称されるまでになっています。
 「推進会議」と「部会」は、「障害の有無にかかわらず国民が分け隔てられる
ことのない共生社会」の実現とそのための制度改革を目指しています。それは、
とりもなおさず、「弱くもろい社会」から、誰もが排除されることなく全ての人
が社会的に包摂される社会づくりに寄与するものであると確信しています。

 地震と津波、原発事故によって未曾有の被害がもたらされた東日本大震災は、
障害者を含む被災地の人たちにきわめて大きな困難を与えています。被災され
た皆様に心よりお見舞いを申し上げます。
 今、日本中が協力して災害からの新生・復興をすすめ、すべての人が尊重さ
れ、安心して暮らせる社会を作ろうとしています。本提言がめざす共生社会は、
この新生・復興の日本社会の不可欠の一部となると信じます。障害者が暮らし
やすい社会はすべての人が暮らしやすい社会でもあります。
 そうした点からも、政府が本提言を受け止め、障害者総合福祉法が制定・実
施されることを心より願うものです。