特別支援教育特別委員会合理的配慮等環境整備検討WG(第3回)議事録1 平成23年8月18日2011-08-10

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/046/gijiroku/1312423.htm

特別支援教育の在り方に関する特別委員会
合理的配慮等環境整備検討ワーキンググループ(第3回) 議事録

1.日 時 平成23年8月18日(木曜日)13時30分~16時30分

2.場 所 三田共用会議所講堂

3.議 題
  1.障害者本人及び保護者からのヒアリング
  2.その他

4.議事録

【市川氏】 それでは、私は、自閉症のある子どもの保護者の立場からというこ
とで話をさせていただきたいと思います。
 皆さんのお手元に、意見表明については一応書いてありますので、自分の子ど
ものことをお話しさせていただきたいと思います。
 特別支援教育について、私自身、様々な立場で関わらせていただいております
が、自閉症の親として、ちょっと違う視点で話をさせていただきたいと思います。
 私の子どもは1歳までおとなしく、全く手がかかりませんでした。1歳半から引
っ越しを契機に、視線が合わず、呼びかけに反応が鈍くなり、幾つか出ていた言
葉もなくなりました。これは医療的には折れ線型と言われる自閉症の特徴です。
私が自閉症と診断しましたが、有意味語はありませんし、知的障害児の通所施設
に通いましたが、あまり大きな変化はございませんでした。
 知的障害児を受け入れてくれる保育園に入りましたが、おとなしく、ほとんど
お客さん状態でした。ある日、体の様々なところに歯形がついて帰ってきまして、
おたくのお子さんは自傷行為が出ましたという説明がありました。家では全くそ
ういう状況がありませんので、自宅で見たことはありませんと申し上げたのです
が、きちんとお子さんの観察をしてくださいと逆にしかられました。その後、し
ばらくして園から済みませんでしたと電話がかかってきました。背中の真ん中に
歯形ができたので、これは絶対違うということがわかったからだと思います。本
人は自分から説明できませんし、逃げることもできませんから、こういうことが
起きるのだろうと思います。多分、自閉症には、臨床的に積極・奇異型、孤立型、
受け身型がありますが、私の子どもはこの最後の型であったからだと思います。
 心障学級に入学しましたが、小2の頃には何回かおしりに大きなあざを作って
帰ってくることがありました。介助の先生が理解力がない子どもに腹を立ててた
たいていたということが後で分かりました。学校ではほとんど問題を起こしませ
んから、いつもほうっておかれるタイプです。身辺自立は一応できておりますし、
みんなの集団の中に後からついていくような立場でした。もっと手のかかるお子
さんがいますから、当然、先生方にとってはやむを得ないのですが、こういう子
どもを持ちますと、保護者から、うちの子の面倒を見てくれれば良いのにという
台詞がよく出ることになります。
 また、音に対しては過敏ですので、私はどこかに書いてありますが、運動会が
来ると大体調子が悪くなりました。これは非常にがんがん音をかけて予行演習を
やるからでありまして、私はこれを運動会症候群と名付けているんですが、その
あたりをもう少し配慮していただきたいと思います。あるいは、運動会のときに
ピストルの音がすると具合が悪くなってしまう場合もあります。そのときだけホ
イッスルを鳴らしていただければいいのですが、先生によっては絶対譲らないと
頑張ってくださる先生もいらっしゃるというのが現状です。
 それから、音に対しても過敏なところがあります。また、大体、卒業式の頃は
暖房を入れますので、どうも暑いようで、調子が悪くなります。卒業式だから頑
張りなさいというよりは、上着を1枚脱がしていただければそれですべて解決と
いうことになります。
 小5の頃は養護学校に転校しました。担任の先生が毎日のようにうちの妻に、
おたくの子どもはうちの学校にいるはずではないと言われ、あるいはほっとかれ
ているのに、ついに切れてしまったということで転校させたということだと思い
ます。
 小5、6は、本人の水準に合わせて、無理をしない先生でしたので、比較的安定
して過ごしておりました。別に会話もないし、特に何かするわけでもありません
が、好きな先生がいるようで、その先生が研修でいない日は、自分のかさぶたを
はがしてしまうという自傷行為が見られました。
 中学部に進学しましたが、小学部からの情報はほとんど伝わっていないようで
した。これは、私が外来をやっておりまして、大体4月になると多くの保護者が、
今年は当たりでしたとか、外れでしたという話をするのは、この先生はうちの子
をわかってくれそうか、わかってくれなさそうかということを伝えているのだろ
うと思います。
 また、このときには、非常に熱心な、もちろん括弧つきですが、ベテランの先
生が担任になって張り切られておりました。夏休みに自閉症の講習会をその先生
は受けられまして、括弧つきの自閉症の専門家になったようです。2学期になり
ますと、自閉症児のためのドリルが配付されました。うちの子は字も書けないし、
理解もできませんからとお断りしましたが、先生は胸を張って、私は自閉症の講
習会を受けてきたんです、何を言うんです、自閉症ならできないわけがありませ
んと頑張ってらっしゃいました。妻が困りまして、どうしようかと相談に来たの
で、仕方がないからおまえが書いておけといったら、つたない線や字でドリルに
記入して提出しておりました。2カ月ほどしまして、先生から、大分良くなって
きましたとお褒めの言葉をいただきまして、おまえも自閉症だったのかという話
になりました。
 自閉症には機能による違いがあるということを御存じなかったようです。しば
らくして、私の子どもだけドリルが来なくなりました。どうも父親が自閉症の専
門家らしいとうわさが飛んだからです。このときだけ妻から感謝されました。熱
心な先生に当たりますと、うちの子は学校では問題を起こしませんが、自宅に帰
って夜中になるとパニック状態を毎日起こします。嫌なことを思い出して多分騒
ぐのだろうと思います。学校が休みの日は何事もないので、多分そうだったのだ
ろうと推測しました。
 高等部に入ってからは、10数名のクラスに入って、担任はほかのお子さんに手
をかけるため、ほとんどほうっておかれましたので、かえって落ちついたかなと
思いました。担任の先生も正直な方で、おたくのお子さんがいるということをす
ぐに忘れてしまうと言っておりました。
 今は33歳になりましたので、現在は大分事情が違っていると思われますけれど、
うちの子が在籍している頃はこんな状況でした。
 それからもう1点、私は約30年間、医学問診という形で就学相談に関わってお
りましたので、この点から保護者のことを見ましたので、お話しさせていただき
たいと思います。
 30年ほど前の就学指導は、保護者にとって極めて評判の悪いものでした。障害
のある子どもをふるい落とすという色彩が強かったからだろうと思います。どん
なに障害の重い子でも、うちの子はある日、急に良くなるのではないかという希
望を保護者は持っております。この気持ちがあるからこそ、保護者は子どもにエ
ネルギーを注げるわけです。この気持ちを大切にしなければ、この子はほうって
おいて、ほかの、もう1人の子にエネルギーを注ごうということになってしまう
かもしれません。子どもの成長とともに、障害についての理解が進んでいくと思
います。
 一方的に就学指導を当時は拒否される保護者や、判定を不服として委員会の事
務職員を責め続ける方もいました。以前も文部科学省の会議で申し上げましたが、
就学指導というのは、あれほど人と時間とお金をかけて、あれほど保護者に恨ま
れる仕事はないと思ったものです。私の仕事は、親に責められて疲弊し切った事
務職員の精神療法だったような気がしております。
 子どもが大きくなればなるほど、保護者は、早く子どもの障害を知れば良かっ
た、早く教えてくれれば良かったとおっしゃいます。一方で、お子さんの年齢が
小さいほど、子どもを特別扱いしたくない、子どもにレッテルを張りたくないと
保護者は思うものだと思います。
 保護者が子どもの障害に気づき、理解することを手伝うことはできますが、一
方的に障害を認めさせようとする姿勢は慎むべきだと私は思っております。まだ
障害受容ができてない保護者などという台詞は、上から目線以外の何ものでもな
いと私は思います。
 教育にとって都合の良い論理を展開するのではなく、保護者目線を注視するべ
きだと思います。
 最近も就学相談をやっておりますが、そこまでの保護者にお会いすることはあ
まりなくなりました。行政単位にもよりますが、年少の頃から何らかの気づきを
もとに療育を行っている例が増えているからではないかと思っております。
 また、通常学級、特別支援学級、特別支援学校の垣根が低くなったと感じるよ
うに思います。このことも保護者の意識の変化には大きいと思います。特別支援
教育をハード、ソフトの両面でより充実させていただくということは、保護者の
要望にも応えるものではないかと思っております。
 このような視点に立ちますと、平成19年に始まった特別支援教育は、確実に良
い方向に向かっていると私は思っております。もちろん、地域による温度差はあ
りますが、着実にこの歩みを進めていただければと思います。
 それから、皆さんに出しました意見表明につきましては、お読みいただければ
よろしいと思いますが、幾つか気になるところだけをお話しします。
 1つは、7ポツの3番目のところに書いておきましたが、義務教育を修了した特
別支援学級等の生徒の受け皿の確立ということで、これにつきましては、高等学
校に特別支援学級がないということで、高機能自閉症等の生徒の受け皿が明確に
はないと思います。東京や埼玉では高等特別支援学校も今作っておりますが、私
が関係している高等特別支援学校は、約3分の2の生徒は通常学級の中学を卒業し
ておりますし、残り3分の1の生徒は心障学級の中学を卒業している方です。その
中に1人か2人、特別支援学級の中等部を卒業した方がいるというのが現状かもし
れません。
 いずれにせよ、知的障害の存在が前提になっております。したがって、厳密に
言えば、高機能自閉症等の方は入れないのかもしれません。また、民間では、サ
ポート校が東京などでは随分ありますが、やはり経済的な余裕がないと通うこと
はなかなか厳しいという現実もあります。
 最後に、その他の配慮事項の2番目に書いたのですが、自閉症について、やは
り私の印象としては、学校の先生はまじめですから、一生懸命自閉症の特性を直
そうとされるのではないかと思います。このことは、その人の存在そのものを否
定していることになってしまいますので、私は先ほどから何回か申し上げていま
すが、社会不適応の部分だけを直していただき、そこをうまくフォローしていた
だければ、それは非常にありがたいことだと思っております。
 もちろん、国によって考え方は違いますが、彼らの持つ異能性は重要であって、
これを何とか生かせないかと考えている国もあります。そういう点を指摘させて
いただきたいと思います。
 以上で私のお話にさせていただきます。

【尾崎主査】 ありがとうございました。
 それでは、質疑応答に入りたいと思います。御質問ある委員の方、いらっしゃ
いますでしょうか。
 それでは、ないようですから、私から1つだけよろしいですか。最後に市川さ
んがおっしゃられた自閉症の特性は残して、社会不適応の部分を改善するという
話は、そのような教育を求めるという意味で受け取ってよろしいでしょうか。

【市川氏】 私はそのようにしていただくとありがたいと思っております。

【尾崎主査】 教育の内容ではなく、対応の部分でということでしょうか。

【市川氏】 そうですね。もちろんハードの部分も重要ですが、まだまだソフト
でいろいろできる部分があると私は考えておりますので、今日お話しした中では、
その点を強調したつもりです。

【尾崎主査】 石川委員、お願いいたします。

【石川オブザーバー】 オブザーバーですが、質問させていただきます。
 レジュメを拝見しまして、自閉症を中心とする発達障害という書き方が複数さ
れていて、意識的というか自覚的にお使いだと思いますが、一方でミスリードす
る可能性もあるかなという感じがしましたので、どのような意味においてこの表
現をあえてお使いなのかお聞きできればと思います。

【市川氏】 分かりました。私がなぜそういう書き方をしているかと申し上げま
すと、発達障害者支援法の中に発達障害が定義されておりまして、その中に広汎
性発達障害、ADHD、学習障害等ということになっておりまして、数の上で多いの
はやはり広汎性発達障害と思うので、そういう書き方をしておりますし、おそら
く現在、厚生労働行政ではそのような使い方が一般の言葉だと考えております。

【尾崎主査】 よろしいですか。

【石川オブザーバー】 はい。

【市川氏】 先ほどの石川委員の御質問に対する答えですが、私、医療、福祉の
考え方で発達障害があって、それが一番、今、数も多いですし、対応が難しいも
のは自閉症という意識で申し上げましたが、ここは教育の場であって、文部科学
省の場ですので、数が一番多いというのは少なくとも間違いですので、その点に
ついては訂正させていただきたいと思います。