「姉刺殺大阪地裁判決」についての談話 大阪弁護士会会長 藪野恒明 2012/08/072012-08-07

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「姉刺殺大阪地裁判決」についての会長談話

2012年(平成24年)7月30日、大阪地方裁判所(第2刑事部)は、発達
障害を有する男性が実姉を刺殺した殺人被告事件において、検察官の求刑(懲役
16年)を上回る懲役20年の判決を言い渡した。

同判決は、検察官の求刑を超える量刑をした理由として、被告人が十分に反省す
る態度を示すことができないことにはアスペルガー症候群の影響があり、通常人
と同様の倫理的非難を加えることはできないとしながら、十分な反省のないまま
被告人が社会に復帰すれば同様の犯行に及ぶことが心配され、社会内でアスペル
ガー症候群という障害に対応できる受け皿が何ら用意されていないし、その見込
みもないという現状の下では更に強く心配されるとした。そのうえで、被告人に
対しては、許される限り長期間刑務所に収容することで内省を深めさせる必要が
あり、そうすることが、社会秩序の維持にも資するとして、検察官の求刑を超え
る上記の量刑を行った。

同判決には、少なくとも看過することのできない2つの重大な問題点がある。

第1に、刑法の責任主義の原則に反する点である。

発達障害を有することは何ら本人の責めに帰すべきことではなく、これに対応で
きる支援体制を整備することは国及び地方自治体の責務である。にもかかわらず、
これらの事由をもって再犯のおそれを強調し、刑を加重することは、まさに刑法
の責任主義に反するものである。しかも、被告人に対しては、許される限り長期
間刑務所に収容することで内省を深めさせる必要があり、そうすることが、社会
秩序の維持にも資するというのは、まさに保安処分の理念に基づいて量刑判断が
なされたものと言わざるを得ない。

第2に、発達障害の障害特性及び発達障害者支援法の趣旨への無理解に基づき、
発達障害者に対する偏見、差別を助長するおそれがある点である。

同法は、発達障害を早期に発見し、発達障害者の自立及び社会参加に資するよう
その生活全般にわたる支援を図ることを目的とし、その実現のために、国及び地
方公共団体の責務として、支援センターの設置など必要な措置を講じるものとし
ている。大阪府及び大阪市においても発達障害者支援センターが設置されている。
また、矯正施設(刑務所等)から退所してくる障害者や高齢者の社会復帰を支援
するための地域生活定着支援センターも設置されるなど、必ずしも十分であると
はいえないものの支援体制は年々拡充されてきている。ところが、同判決は、社
会内でアスペルガー症候群という障害に対応できる受け皿が何ら用意されていな
いし、その見込みもないという誤った認識をし、国及び地方自治体の責務にもふ
れず、その必要性すら言及していない。また、発達障害の特性として、収容して
内省を深めることが困難であるにもかかわらず、収容することで内省を深めさせ
る必要があるとする。発達障害の障害特性及び発達障害者支援の現状にあまりに
も無理解である。のみならず、意に沿わない者に対して同様の犯行に及ぶおそれ
があるなどと再犯のおそれを強調するあまり、あたかも発達障害と犯罪が関連性
を有するかのような誤解と偏見を与えるおそれがある。そして、明らかに、障害
を有することを不利益に斟酌しているのであって、障害を理由とした差別的判決
であると言わねばならない。

当会は、同判決の有する重大な問題点を指摘することによって、各方面において
発達障害の正しい理解を深めることを求め、また、発達障害者が社会経済活動に
参加することに協力することは国、地方自治体のみならず国民の責務でもあるこ
とを確認し、さらに、発達障害者が「自分は大切にされている」と思える社会の
形成に寄与していくことを決意して本談話を発表するものである。

     2012年(平成24年)8月7日 大阪弁護士会 会長 藪野恒明

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