親学問題に関する私たちの考え方 日本発達障害ネット 2012/09/192012-09-19

親学問題に関する私たちの考え方  2012/09/19
一般社団法人日本発達障害ネットワーク理事長 市川宏伸

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親学問題に関する私たちの考え方
一般社団法人日本発達障害ネットワーク理事長 市川宏伸

○私たちの考える発達障害のある人とその家族への支援の方向性。

・発達障害の有る無しに関わらず子どもにとって家族の存在は大きく、家族が子
どもの発達特性を理解して関わることで、子どもにとっての生きやすさは大きく
変わります。
・私たちは、全国の多くの親子がそれぞれの環境の中で、できるだけ確かな情報
に基づいて発達障害の問題と向かい合ってほしいと考えています。また、その家
族の状況に合った発達障害との付き合い方ができるようになるまで、専門家は分
野や年代で途切れない支援を続けてほしいと考えています。

○専門家の犯した過去の過ちの教訓。

・かつて親の愛情不足で発達障害の一つのタイプである自閉症が生じるという考
え方が広まった時代がありました。その結果、責任を感じた親による親子心中が
いくつも生じました。
・しかし、1960年代に医学的な調査研究がおこなわれ、「自閉症のある子の親と
そうでない子の親の育て方に違いはなかった」という報告や、脳の機能障害の存
在が徐々に確認されてからは、親の愛情不足により発達障害が生じるという考え
方をする専門家はほとんどいなくなりました。
・私たちは、このような専門家の過ちを未来に向かってできる限り少なくするた
めに、現時点で最も確かだと思える情報を集め、ホームページやシンポジウム等
を通して客観性の高い支援方法を共有出来るようにしています。

○発達障害をその人の特性として受け止める考え方の重要性。

・発達障害とは生まれた時から持っているその人の特性のことですから、このこ
と自体には良いも悪いもありません。「発達障害を治す」「発達障害を生じない
ようにする」という考え方はその人の持っている特性を否定する考え方で、発達
障害について根本的に誤った考え方をしていることになります。
・私たちは、「発達障害の特性は人間にとっての多様な可能性を示しているもの
であると考えるべきであって、その可能性をどう引き出していくのかを考え作成
する個別支援計画の普及が重要になる」との考えを、国の施策の検討に対する意
見を述べる機会には重ねて伝えています。

○親の状況も様々であることの理解。

・発達障害のある子の親も様々であって、それ以外の親と同じように熱心に育児
に関わる場合もあれば不熱心の場合もあります。
・専門家は、熱心な親とは良い形で本人の自立を支える仲間としての役割を果た
しますし、不熱心な親には分野や年代で専門家同士が支援を途切れないように引
き継ぐという姿勢が重要になります。
・私たちは、全国のどこに住んでいる親でも、自分の家庭状況に合った専門家に
出会えるようにするために、多様な職能団体が相互に協力・情報交換ができるよ
うな機会、例えば体験博覧会、年次大会の開催等で専門性の研鑽を行っています。

○2012年の状況。

・先日来、わが国では一部の“専門家”と称する人々により、「家族の誤った育
て方により発達障害が生じる」、「昔の伝統的な子育てによって発達障害を治す」、
という過去の専門家と同じ過ちが繰り返されました。
その結果、発達障害という言葉は社会に広く浸透しつつありますが、専門家です
ら未だに誤解している場合があることを、今回あらためて確認することとなりま
した。
・たしかに、発達障害のある人の社会に受け入れられにくい行動や、発達障害の
ある子どもの可能性に関心を持たない親に対して、十分な対応策がとられている
とは言えません。
・しかし、一つずつ積み重ねられてきた確かな土台に立って、発達障害のある子
どもが大人を信頼して社会に受け入れられやすい行動を学ぶ機会の提供、発達障
害のある子どもの可能性に関心を持たない親に対して、支援を希望する気になっ
たときには周囲がいつでもサポートできる体制を、私たちは作りたいと思います。
この点については、上記の一部の“専門家”も同じ思いであると私たちは信じて
います。