文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会(第2回)2014-10-20

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文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会(第2回)議事次第
日時:平成26年10月20日(月曜日)
    10時 ~12時
場所:文部科学省東館 15階 特別会議室
議事次第

1 開会
2 議事
(1)視覚障害者等の発行された著作物へのアクセスを促進するためのマラケシュ条約(仮称)への対応等について
(2)著作物等のアーカイブ化の促進について
(3)その他
3 閉会
配布資料一覧

資料1
視覚障害者等の発行された著作物へのアクセスを促進するためのマラケシュ条約(仮称)(概要)PDFファイルが別ウィンドウで開きます(PDF形式(95KB))
資料2-1
障害者放送協議会提出資料PDFファイルが別ウィンドウで開きます(PDF形式(334KB))
資料2-2
日本盲人会連合提出資料PDFファイルが別ウィンドウで開きます(PDF形式(104KB))
資料3
今村委員提出資料PDFファイルが別ウィンドウで開きます(PDF形式(235KB))
資料4-1
井奈波委員提出資料PDFファイルが別ウィンドウで開きます(PDF形式(203KB))
資料4-2
井奈波委員提出資料(別紙)PDFファイルが別ウィンドウで開きます(PDF形式(234KB))
資料5
潮海氏提出資料PDFファイルが別ウィンドウで開きます(PDF形式(210KB))
資料6
小嶋氏提出資料PDFファイルが別ウィンドウで開きます(PDF形式(328KB))
参考資料1
視覚障害者等の発行された著作物へのアクセスを促進するためのマラケシュ条約(仮称)(本文)PDFファイルが別ウィンドウで開きます(PDF形式(103KB))
参考資料2
視覚障害者等の発行された著作物へのアクセスを促進するためのマラケシュ条約(仮称)(参考和訳)PDFファイルが別ウィンドウで開きます(PDF形式(203KB))
参考資料3
障害者のための複製等に関する著作権法上の主な規定PDFファイルが別ウィンドウで開きます(PDF形式(85KB))
参考資料4
アーカイブに関する著作権法上の主な規定PDFファイルが別ウィンドウで開きます(PDF形式(88KB))

【土肥主査】  定刻でございますので,ただいまから文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会の第2回を開催させていただきます。本日はお忙しい中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。
 議事に入ります前に,本日の会議の公開について,予定されている議事内容を参照いたしますと,特段,非公開とするには及ばないと思われますので,既に傍聴者の方には入場していただいておるところでございますけれども,特に御異議はございませんでしょうか。
(「異議なし」の声あり)
【土肥主査】  それでは,本日の議事は公開ということで,傍聴者の方にはそのまま傍聴いただくことといたします。
 まず,前回は御欠席でしたけれども,今回より上野達弘委員に御出席をいただいておりますので,御紹介させていただきます。
【上野委員】  上野でございます。よろしくお願いいたします。
【土肥主査】  続きまして,事務局から配付資料の確認をお願いいたします。
【秋山著作権課課長補佐】  配付資料の確認をいたします。お手元の議事次第の下半分のところを御覧ください。
 配付資料としまして,資料1及び資料2-1から2-2まで障害者関係の資料を次第記載のとおり御用意しております。資料3から資料6につきましては,各委員からのアーカイブに関する御発表資料となっております。それから,参考資料1から4まで,それぞれ記載のとおりの資料を御用意しております。落丁等がございましたら事務局までお願いいたします。
 なお,資料2-2につきましては,本日,資料2-1に関しては障害者放送協議会からの御発表資料ですけれども,資料2-2に関しては日本盲人会連合様からの提出資料ということで,こちらは参考に配付させていただくことになります。
 以上でございます。
【土肥主査】  ありがとうございました。
 それでは,議事に入りますけれども,初めに,議事の進め方について確認をしておきたいと存じます。
 本日の議事は,1,視覚障害者等の発行された著作物へのアクセスを促進するためのマラケシュ条約(仮称)への対応等について,2,著作物等のアーカイブ化の促進について,3,その他の3点となります。
 1の議題に入りたいと思います。本日は視覚障害者等の発行された著作物へのアクセスを促進するためのマラケシュ条約(仮称)について,その概要等について事務局から説明をいただいた上で,関係団体から意見聴取を行いたいと考えております。
 初めに,本条約の概要について事務局から説明をいただければと存じます。
【保坂国際課専門官】  それでは,視覚障害者等の発行された著作物へのアクセスを促進するためのマラケシュ条約(仮称)について,本委員会での審議に資するという観点から御説明をさせていただきます。
 資料としては,資料1に両面で概要の資料,参考資料として参考資料1,マラケシュ条約の採択されました条約の原文,及び,参考資料2として参考和訳をつけております。この参考和訳については,(注)にございますとおり,文化庁において作成したものであって日本国政府の正式な訳ではございません。今後,変更があり得ますこと,現時点での参考の和訳であるということをあらかじめ御了承いただきたいと思います。
 それでは,資料1に沿って御説明をさせていただきます。1.目的ですが,「視覚障害者・読むことに障害のある者のための著作権の制限及び例外等について国際的な法的枠組みを構築し,各締約国の著作権法において当該制限及び例外に関する規定が整備されること等により,視覚障害者等による発行された著作物のアクセスを促進すること」というふうにされています。
 2つ目,経緯ですが,2005年より,世界知的所有権機関(WIPO)において著作権の制限及び例外に関する議論が開始され,各国間で継続的に議論が行われてきました。何年か継続的に議論を行ったのですが,結果として2012年12月に開催されましたWIPOの臨時総会において条約採択のための外交会議が開催されることがまず決定され,その翌年,2013年6月にモロッコのマラケシュにおいて開催された外交会議において本条約が採択されております。
 次に,3.の主な規定の内容について御説明をいたします。条文自体は全体で22条ございますけれども,今回,小委員会の審議に資するという観点から特に重要な項目を抜粋して御説明をさせていただきます。(1)本条約の対象となる著作物です。これは,「発行されているか,又は何らかの媒体において公に利用可能なものとされているものであって,書籍等のテキスト形式のものとされている」というふうになっています。特に重要なのは,公に利用可能なものである,発行されているということで,流通しているようなものについて対象としており,あとは,テキスト形式であり,音楽等の著作物については対象とされていないということです。
 (2)本条約の受益者,どういった方々を対象として権利の制限,例外を設定することとされているかということです。大きく3つございます。マル1,視覚障害者,これは目が見えない方,あるいは,非常に視力が弱い方を対象としております。マル2,知覚的,又は読字に関する障害のある者とあります。これは,視覚には障害がない,目は見えるものの,文字の認識に何らかの障害があって,うまく通常のテキスト形式の著作物を読むことができないといった障害を持つ方が対象とされています。3番目は,身体障害により,書籍を保持する,操作する,目の焦点を合わせる,又は目を動かすことができない者。これは,字のとおりですが,マル1,マル2と違い,身体障害で,目も見えるし,認識もすることはできるのだけれども,身体障害によって通常の書籍を読むことに困難である方が対象になっていると,大きくこの3つの方々を対象として設定されています。
 裏に行っていただきまして,(3),(4)は,締約国に,こういった受益者の方々を対象としてどういったことを義務として課しているかという部分の御説明になります。(3)締約国における著作権の制限及び例外に関する規定の整備。まず,読み上げます。「本条約の締約国は,受益者を対象として,国内の著作権法において,著作権に関する世界知的所有権機関条約(WCT)に定める複製権,譲渡権及び利用可能化権の制限又は例外に関する規定を定め,利用しやすい形式の複製物の著作物の利用可能性を促進する。国内法令に定められる制限又は例外は,著作物を代替的な形式で利用しやすくするために必要な変更を許容するものとする」と。条約を和訳で直訳しているような部分もあって,このままでは分かりづらいところがあるかもしれません。
 前段は,まず,どういった権利について権利制限を設けることが義務とされているかということですが,これはWCTに定める複製権,譲渡権及び利用可能化権を対象として権利制限を設けることが義務として締約国に課せられることになっております。「利用しやすい形式の複製物」というふうにありまして,下に,点字やDAISYの形,例えば,テキストと音声がリンクして,例えば,パソコンで画面を見ながら音声を聞き,どこを読んでいるのかがマーカーのような形で示されることで,弱視の方々や認識に障害のある方々でも,そういうものを併せて見ることで非常に理解がしやすくなるというような形式のものがありますけれども,そういった形にするということができるようにすることになっています。「国内法令」以下の部分ですが,これはそういう利用しやすい形式にテキスト形式の著作物を変更することを許容するような権利制限の内容をきちんと規定するということが義務として課せられています。これが大きく1点目です。
 2点目の(4)ですが,利用しやすい形式の複製物の輸出入。こちらも読み上げます。「本条約の締約国は,受益者にとって利用しやすい形式の複製物について,締約国間で輸出入が円滑に行われるための制度を整備する」。マル1,「輸出国に関する義務。輸出国の国内法に基づいて作成された利用しやすい形式の複製物を,当該輸出国のAuthorized Entityが他国,各輸入国の受益者,又はAuthorized Entityに対して譲渡又は利用可能化することを認める」。Authorized Entityというのは,これは条約に定義が設けられており,ある機関についての規定ですが,下のコメ印にございますが,情報にアクセスする手段等を受益者に非営利で提供することを政府によって認められている機関ということで,一定程度,受益者の方々のために読みやすい,利用しやすい形式の複製物の提供を行っているような機関を念頭において,そういった機関をAuthorized Entityというふうに条約上では規定しております。
 マル1は,輸出国に関する義務ということで,例えば,A国が他国のAuthorized Entityや受益者の方々に国内の権利制限に基づいて作成された複製物を輸出する際に,それがきちんと国外にも輸出できるように譲渡する,あるいは利用可能化するということを許容するような体制を整備するということが締約国に対して義務として課せられています。
 マル2,輸入国に関する義務です。輸入国の国内法が利用しやすい形式の複製物の作成を認める範囲において,受益者,Authorized Entity等が受益者のために利用しやすい形式の複製物を輸入することを認める。これはどういうことかと申しますと,輸入国で,ある国において権利制限,この条約を締結しますと権利制限によって利用しやすい形式の複製物がつくられることになりますが,それの作成が認められるのと同様に,他国において作成されている複製物については,条約の趣旨であります締約国間での著作物の流通を促進するというところから,他国からきちんと輸入して自国で活用することもできるような体制を整備するということが求められているということで,そのために必要な措置をとるということを,締約国に義務づけるという内容になっています。これが輸出入に関する,要は,自国でつくったものを他国に輸出するようなこともできるし,他国でつくられたものをきちんと自国に持ってくることもできる,そういったことができるような措置を講じなさいということが条約に規定されております。
 最後,4.発効要件ですが,本条約は20か国の批准又は加入により発効いたします。2014年10月現在ですが,インドとエルサルバドル共和国が既に締結しております。
 条約の概要については以上でございます。
【土肥主査】  ありがとうございました。
 続きまして,本条約に関連する現行法の規定の内容につき,事務局より説明をいただければと存じます。
【秋山著作権課課長補佐】  それでは御説明申し上げます。
 参考資料3を御覧いただきたいと思います。こちらでは,「障害者のための複製等に関する著作権法上の主な規定」としまして,関連の条文を整理させていただいております。
 それでは,マラケシュ条約の関係の部分について御紹介したいと思います。
 まず,第37条,「視覚障害者等のための複製等」という規定であります。ここでは,3項について御紹介したいと思います。長くなっておりますので分解して御紹介したいと思います。まず,この権利制限規定の適用が認められる主体は,視覚障害者その他視覚による表現の認識に障害のある者の福祉に関する事業を行う者で政令に定める者,とされております。対象となる著作物につきましては,2行目の後ろからですけれども,「公表された著作物であって,視覚によりその表現が認識される方式により公衆に提供され,又は提示されているもの」となっております。
 それから,権利制限が認められる目的に関しては,専ら視覚障害者等で,当該方式によっては当該視覚著作物を利用することが困難な者の用に供するという目的がございます。著作物の利用の方法としては,「当該視覚著作物に係る文字を音声にすることその他当該視覚障害者等が利用するために必要な方式により」となっており,制限される権利の範囲に関しては,複製,それから自動公衆送信,送信可能化を含めて制限されているということになっております。
 また,ただし書では,著作権者又はその許諾を得た者によって,そういった障害者の方向けの著作物の提供がなされている場合は,この権利制限規定が適用されないという例外もございます。
 このような形で,対象となる障害者の種類に関しては,マラケシュ条約との関連では,少なくとも,身体障害によって書籍を保持するといったことが難しいという方は現時点では明示的に対象とはされていないものと考えております。
 それから,このほか,第43条におきまして,先ほどの視覚障害者向けの第37条3項に関連して翻訳,変形又は翻案による利用が認められております。
 次のページですが,同じく37条3項の規定の適用により作成された複製物について譲渡権の制限も併せて行われております。
 説明は以上でございます。
【土肥主査】  ありがとうございました。
 それでは,続きまして,関係団体からのヒアリングを行いたいと思います。本条約に関係する障害者団体を代表いたしまして,障害者放送協議会から御意見を頂戴したいと考えております。本日は同協議会著作権委員会委員長の河村様にお越しいただいております。それでは,河村様,どうぞよろしくお願いいたします。
【河村様】  河村です。よろしくお願いいたします。
 障害者放送協議会の資料は,お手元の資料2-1ということでございますので,御覧いただきたいと思います。
 障害者放送協議会は,1998年に発足いたしましてからこれまで何度か著作権法,特に通信に関わる著作物の流通が障害者の情報アクセスに極めて重要であり,ICTの活用が紙の出版物にアクセスできない障害者にとって不可欠であるという観点から,特に著作権問題を広くこれまで取り組んでまいりました。そして,本日の1番目の議題でありますマラケシュ条約に関しましては,お手元の資料2-1の3枚目にありますように,障害者放送協議会としては,この条約の成立以前からずっと取組を進めており,提言も行ってきております。そういった障害者放送協議会としての取組を代表いたしまして,本日はマラケシュ条約について主に意見を述べさせていただき,その他の2番目,3番目についても若干申し添えたいと思っておりますので,よろしくお願いいたします。
 まず,マラケシュ条約を私ども放送協議会としてどのように受け止めているかということです。まず,本日,事務局より御説明にありましたように,マラケシュ条約は世界人権宣言及び本年,日本政府が批准いたしました国連障害者の権利条約に沿って,それを具体化するものである,そういう人権条約の一つであるというふうに私どもは理解しております。したがいまして,これは一連の国際的な人権条約の積み重ねの中の一つのものという理解でございます。その際に,特にマラケシュ条約におきましては,先ほどから対象者の範囲について御説明がありましたが,私どもは,これを障害者権利条約が対象とする全ての対象者の中で,特に読むことに困難を抱えている障害のある人々が該当するというふうに考えております。そして,当然,このマラケシュ条約の対象になる出版物の範囲につきましては,事務局側の考えと違うところは全くございません。
 私どもは,まず,マラケシュ条約に関わる意見の大前提として,資料の2ページの2,マラケシュ条約に関わる意見の丸の1番目のところですが,「社会的障壁の除去」というふうに考えております。つまり,障害のある人々は,社会的な様々な障壁があることによって社会生活上の困難を抱えている。その障壁を除去することによって社会参加ができるようになるという考えに基づいて,この条約を受け止めております。それが,日本政府が今,2016年4月実施を目指しております差別解消法の考え方と一致するというふうに理解しております。
 そこからどういうことになるかと申し上げますと,障害者は,多様な著作物の利用のニーズを持っている。本来,このニーズは,普通の出版ですと市場として捉えられて,そこに出版者が出版物を販売する。公的な出版物の場合には販売ではありませんが,商業的な出版物であれば,そこに販売をする市場になる,それがニーズであるというふうに私どもは理解しております。今回のマラケシュ条約の考え方は,本来,出版物がこの多様な著作物利用のニーズを市場として捉えて埋めてくれれば,特に権利を制限して何か特別のものを作る必要はなくなる。そして,障害者の著作物の円滑な利用は確保される,それが本来あるべき姿であると私どもは考えております。
 そして,残念ながら,経済的理由等々によりまして,著作権者が自らこのニーズを満たしてくれていないとき,そのときに障害者も社会参加のためには著作物の活用が必要ですので,その穴を非営利活動として埋める活動については,これを支援する。そのために著作権も一部制限し,同時に国際的な交換もそれを促進する。特に途上国に80%以上の障害のある人々が暮らしているという現実を考えますと,そのような形で世界中の障害のある人々が社会参加の機会を保障される,そして,それぞれの国と地域におきまして,積極的な社会の一員として開発,あるいは社会の発展に寄与していく,そういう公益につながっていくというふうに考えております。
 このような理解から,私どもは,ポツの2番目になるわけですが,マラケシュ条約が対象とする著作物の円滑な利用が現在,十分に保障されていない障害のある人々の日本における状況を述べてみたいと考えるわけです。
 まず,先ほど事務局から御説明がありました,原文で言いますと,「Print Disabilities」という概念が出てまいります。そのまま訳しますと「出版されたものについて利用に障害のある人々」ということになろうかと思います。当然,視覚障害が該当するわけですが,そのほかに,知的障害,精神障害,精神障害の場合には,集中するのが難しい。特に服薬をしているような場合には集中するのが難しいという症状が一般的にありますので,なかなか読書が難しいということがこれまで確認されております。それから,「ディスレクシア」等と呼ばれます読みの障害,これは主に学習障害,学習上の障害として捉えられていることが多く,なかなか医学的なカテゴリーにはなっていないので,必ずしも医師の証明はないケースが多いです。これは,著作権法33条の中で,「視覚障害,発達障害,その他の障害」という形で広く捉えられているところであります。それから,高次脳機能障害,端的にはバイクで転倒事故を起こした高校生などが途端に学業不振に陥る。そして学校も諦め,進学も諦めるというケースが多発しております。これは,読むことに障害を来しているケースが多々あるということが確認されているところであります。それから,上肢障害,当然,先ほど事務局の御説明がありましたように,読書する姿勢を保ったり,本を持ってページを繰ることが難しいという上肢の姿勢制御の機能障害,それと,ALS(筋萎縮性側索硬化症),これは最近,氷水をかぶるイベントなどで少し知られてきているところですが,日本には全国で約8,000人がおられるというふうに言われております。
 このALSの方の御自身が発表してくださいました読書についての御要望を資料2-1の4枚目の紙に当たりますが,そこに引用してありますので少し触れさせていただきたいと思います。これは,2010年1月1日に施行された著作権法の改正を考えるシンポジウムの参議院議員会館で行われたときに出された意見で,当時,日本ALS協会の副会長の橋本操様の御意見です。橋本様は当日,ベッドそのものに車輪をつけたような移動用具で参議院議員会館までお出(い)でくださり,次の意見を,代読でしたが述べていただきました。資料の最後の方に,「橋本の読書環境」というふうに書いてあります。そこに御注目いただきたいと思います。「現在は,障害者用のパソコンで電子図書を読む」,この一言に御注目いただきたいのですが,先ほどDAISYという御紹介がありましたが,DAISYも電子図書,そして障害のある方々のためにアクセスしやすいように設計された電子図書の国際標準規格でございます。
 それで,きょうの発表のために橋本様に御意見を求めましたところ,今はかなり病状が進んでしまって,それまでは足の指先で制御できていたものが今はちょっと難しくなり読書も難しくなっているという御連絡がございました。ALSは進行性ですので,本当に一瞬一瞬が大事,そのときに読むことがだんだんできなくなっていく,そういう病状を持つALSの方々は,先ほどの定義で行きますと,電子図書であればアクセスができる。そして,視覚を使って本を見て読むことができるけれども,操作が難しいという範囲に当たります。現在の著作権法37条の文言ですと,言葉どおりに受け取りますと,視覚的著作物を視覚を使って読んでいくということであると,場合によっては適用が難しいという解釈も成り立つ危険性もあるということで,是非ここは,マラケシュ条約の趣旨に沿って,現在の37条の視覚的著作物という概念については,このような方々もカバーできるように改めていただきたいところでございます。
 それから,先ほどの2の丸の2のところに戻りまして,もう少しほかの方々のニーズについて申し上げたいと思います。紙のアレルギーというものがございます。これは小学生などにも見られまして,本に触れられないというアレルギーです。DAISY教科書を使わせてほしいということで,今,DAISY教科書で学習している生徒さんもおります。ほかに化学物質のアレルギーも当然あるかと思います。聴覚障害が意外と忘れられているのでありますが,ここに関しましては,私ども,マラケシュ条約の採択に関わる内閣総理大臣宛ての要望書をお手元の3枚目ですが,2013年6月24日に提出させていただきました。この中の真ん中の「記」の1,「受益者には『手話を必要とする人』が含まれること」という一言に御注目いただきたいと思います。
 聾者と呼ばれる手話を第一言語とする方々は,手話は,いわゆる日本語の書かれた文章とは文法が違いますので,日本語の文章は,いわば外国語のようなものと言われています。そういう環境で書かれた日本語を学びます。私どもは普通教育で英語の学習が義務づけられておりますので,英語を習っているのだから,書かれた英語の読み書きができるのは当たり前,話せて当たり前と言われても,第一言語ではありませんので,そういうふうに言われてもちょっと困るということが多いかと思います。したがいまして,複雑なことを筆談にすれば分かるだろうというふうな誤解が非常に多くございまして,やはり,複雑な文章を書かれて提示されることについては非常な困難を伴う。もちろん,非常に頑張って学習を積んですらすらと読み書きできる方もおられます。しかしながら,それは教育のレベルという問題がございまして,これは日本聾唖(ろうあ)連盟からの訴えですが,今現在の様々な障壁により,そのように自由に読み書きすることは難しいので,当然,難しい文章であればそれを手話で十分に理解したいというニーズがあるわけです。つまり,文字で書かれた出版物を手話に訳して読みたいというニーズがあるということです。
 先ほど,最初に申し上げました電子技術の進歩の中で,手話を,普通のテキストと,先ほど事務局からDAISYの機能について御説明がありましたように,今ここのテキストを手話で表現しているよということをハイライトで示しながら手話を表現するということもできるようになっております。つまり,そのような技術の進歩を生かして,そして社会参加をするための読書の確保ということに妨げにならない条文であってほしいというのが聴覚障害者からの要望でございます。
 続きまして,一般的には「障害」というのは,治療が難しい,治療を続けるのではなくて,もうリハビリテーションをして,そして,その状態を受け入れながら社会参加をしていく,そういうふうな,ある程度状態が固定したものという理解が一般的です。例えば,何かが原因で失明したといたします。そうすると,一般的には半年,1年と治療を続けて,そしてその後に,やはりこれを受け入れてリハビリテーションをした方がいいだろうという状況になります。この治療をするときに,情報アクセスが極めて重要でございます。つまり,インフォームド・コンセントと言いながら十分な情報のアクセスが保証されないのでは自分の判断のしようがない,インフォームド・コンセントが成り立たないわけです。
 その場合に,当然その治療者が責任を持って情報提供をするということもそうですが,当然,セカンドオピニオン,サードオピニオン,あるいは自分で様々な角度から情報を集め,自分で判断をするという機会が必要でございます。そういった場合に,まだ障害が固定していない,治療中であっても,当然,そういった人々も読書を保証するということであってほしいというふうに考えるところであります。
 高齢者の場合は,本当にどれと言って特定できないような複合的な,全体になかなか気力が出ないとかの独自の課題がございます。そういう中でも,スポーツもできないし,旅行も難しいけれども,読書だったらできる。つまり,最後に残された人生を豊かにするための自分の積極的な活動としての読書というものは極めて重要になっていくと思います。したがいまして,このマラケシュ条約のところでは,前文に「特に教育,研究及び情報へのアクセス」というふうになっているのですけれども,これは「特に」というところに注目していただきまして,ここに限定されているわけではないという理解を,是非,お願いしたいと思います。
 と申しますのは,障害者権利条約は,その中の条文にそれぞれ,研究・教育情報のアクセス等も言っておりますが,同時に,社会参加の中に,いわゆる,人生を豊かにするための読書に相当するものも明確にうたっております。そして,著作権の保護がこれらの妨げにならないということを明確に第30条の3で求めておりますので,それとの適合性を持った法整備をお願いしたいと考えるところであります。
 その際に,当然,技術という問題も日進月歩で,今,私が申し上げた以外の方で,こういうことで本当に読書に困っているという方がまだいるのではないかと私どもは考えております。そのような意味で,障害者放送協議会は,加盟団体だけではなく,幅広く障害者全体の円滑な著作物の利用ということを考えて活動しているわけですが,そのような立場から,この対象者の範囲の規定に当たりましては,個別的に挙げていくという形ではなく,著作権法33条の規定が視覚障害,それから発達障害,その他の障害というふうに並べており,その他の障害というものを広く捉えられるように規定している。ただ,33条の場合は教科書に限定されますし,33条は公衆送信権の制限を規定しておりませんので,こちらも是非整備をお願いしたいところではございますけれども,この対象者の範囲の捉え方におきましては,33条のように,その他の障害ということで広く捉えていただくようお願いしたいところでございます。
 これは,障害者権利条約の,特に第2条の障害に関わるコミュニケーションの定義がございますが,そこに様々なコミュニケーションを例示してございまして,それらのコミュニケーションを必要とする人々に,そのコミュニケーション手段によるアクセスの保障をうたっておりますので,少し幅の広い,一般的な障害のある方々という形で規定をしていただければよろしいのではないかと思います。
 そして,あと,2番目の議題と3番目の議題について簡単に申し上げたいと思いますが,お時間はよろしいでしょうか。
【土肥主査】  どうぞ。
【河村様】  ありがとうございます。まず,2番目の議題のデジタル・アーカイブに関する意見を簡潔に申し上げます。先ほど申し上げましたように,私どもはICTの活用に,障害者のアクセスの上で非常に期待をかけております。したがいまして,アーカイブというときには,当然これからは,それの著作物の利活用のアーカイブであれば,デジタル・アーカイブも前提になると考えております。その場合に,デジタル化されたアーカイブが,最も円滑な利用を保障しうる技術的な要素を持ち得るものだと考えておりますので,その際に,設計の段階から障害者の対等な利活用ということを考慮に入れることによって,いわゆる,ユニバーサルデザインと私どもは主張しておりますけれども,デジタル・アーカイブにおいてもユニバーサルデザインを目標として構築されるべきでありますし,その中で障害者も共にそれを活用することが可能になる。その場合に,もし,アクセシブルになっていないときには,それを何らかの形でまたアクセシブルにするための作業が必要になります。そのための作業を著作権が妨げることがないように,これはマラケシュ条約と同じ趣旨ですけれども,議題が少し違いますので,そのときに著作権がそれを妨げない,そのような法的措置を要望いたします。
 それから,4番目の課題,3ページの4のところですが,防災に関わる著作物の円滑な利用に関する意見を申し上げます。これは,本日の事務局の御説明にもありましたように,この事務局から配付されました参考資料2の一番下のところに,参考和訳のところでもございますけれども,著作物への効果的,かつ適時なアクセスが非常に重要であります。これが最も重要であるということは,災害のときの災害情報,防災情報において最も顕著に表れます。これは,ある意味で,生きるか,死ぬかを決める情報でございます。
 最近になってやっと明らかになりました災害時に障害者は,より多くの被害を被る※状況があります。統計的には,2011年の東北大震災の際の被災による犠牲者ということで,一般人口の2倍以上というふうに多くの自治体で統計が出てまいりました。つまり,現在の被災状況を見ますと,障害者は極めて,より高い犠牲を払っている,つまり,差別的な状況にあると私どもは考えております。これは,政府の様々な報告書においてもこれを指摘しております。もう一方で,地域で消防団等,救援に当たった人々の犠牲も非常に多かったという指摘もございまして,その結論として,一人一人,地域住民が自ら備える,そして,隣同士で協力し合って,必要なときには避難・脱出をする,そういうことが求められているわけです。それで,気象庁が,「重大な災害が来るので,それぞれ身を守る努力をしてください」というふうなことをおっしゃいます。
 では,どうするのか。これは,ふだんから,まずリスクについて理解していなければ,そのときに何が起こり得るのかが分かりません。リスクを理解した上で,ではどうするのかを隣近所と一緒に考えて,自分一人では避難脱出できない人は家族,隣近所と一緒に学んで訓練し,脱出をしなければ助かる命も助からないということでございます。こういう状況に鑑みますと,特に著作物,これは報道資料等の場合が多いかと思いますが,著作物を円滑に適時に利用できる状況を障害者が保障されないと,こういう一人一人が備えることは不可能に近いと私どもは考えております。住民と一緒に避難訓練をするときに,37条を使って,障害者だけのためにつくった資料を一緒に見ることはできません。したがいまして,この防災に資する資料については,是非,家族,あるいは近隣住民と避難訓練などのときに一緒に使えるようにしていただきたいというのが,もう一つの重要な要望でございます。
 もちろん,発災しているときにはいろいろな緊急避難的措置もあり得るかと思います。その際には,災害情報というのはすごく地域的な情報ですので,被災地域に関わる,障害者,聞こえない人も見えない人も理解できる,著作権を制限してそういう形式になっているものを,障害者の利用であることを確認して提供する手続を省いて必要な情報を伝えられるようにする,そのようなことも含めた法整備をお願いいたします。
 最後に,5番目,聴覚障害者団体の要望としてまとめております。これは,通信手段,放送手段が日進月歩で進んでいくので,それへの対応ということで,一般原則として,受信者が障害がある人であるというふうに限定されていて営利を求めない活動であれば,送信手段の選択は自由にさせていただきたいというふうに要望を申し上げます。
 以上,障害者放送協議会としての要望です。御清聴どうもありがとうございました。
【土肥主査】  ありがとうございました。ただいまの河村様の発表に関して,今後いかなる対応を本小委として行うべきかについては,今後更に権利者側の意見も併せてヒアリングを受けることも重要であると思いますので,次回の本小委においては,権利者側の団体からも意見を伺い,その上で本件に関する議論を更に深めていかれればというふうに考えております。
 本日は障害者放送協議会から頂いた御意見において御不明な点や,より詳細に伺いたい点が皆様においてございましたら,その点を中心に質疑応答を行えればと考えております。どうぞ。どなたでも結構ですのでお出しください。
 最後の方でおっしゃった防災時の問題なのですけれども,確かに著作権法の問題もあろうと思いますが,地方公共団体とか,様々,そういうところでのバックアップも必要なんでしょうね。
【河村様】  そうですね,はい。
【土肥主査】  ほかに,奥邨委員,どうぞ。
【奥邨委員】  ありがとうございました。最後の御発表資料の4ページのところで1点だけ。駆け足で説明されたので念のために確認しておきたいのですが,送信手段を限定しないということで,括弧書きの例で,「従来の地上波放送,インターネットテレビに加え,IPTV等が登場している」というふうにお書きになっておられるということは,IPTV については自動公衆送信や送信可能化に該当しないという御理解をされていて,それで適用されないのではないかと懸念されているという御趣旨と理解してよろしいのでしょうか。
【河村様】  正直なところを申し上げまして,IPTVは,ITUの方で今,規格化が進んでおりまして,それのアクセシビリティの開発も急ピッチで進んでいるところです。IPTVについて,いわゆる「インターネットテレビ」というふうに呼ばれているものですので,インターネットを通じた放送というふうに理解をしているのですが,それがそのまま現在の法制の中で,この37条の2が適用されるというふうに考えてよろしいのかどうかについての確信がちょっと持てないでいるところから出た意見でございます。
【奥邨委員】  分かりました。ありがとうございました。
【土肥主査】  ほかにはいかがでしょうか。はい。
【前田(哲)委員】  ありがとうございます。先ほど受益者に関しては包括的に規定すべきではないかという御意見を頂いたと思いますが,マラケシュ条約では,対象となる著作物がテキスト形式のものに限定されているということのようなのですが,この対象となる著作物に関して何か御意見はおありでしょうか。
【河村様】  はい,ありがとうございます。対象となる著作物は当然,障害者放送協議会としては,放送,その他動画も含む著作物全てが同様の円滑な活用を保証する法体制整備を望むと考えております。ただし,マラケシュ条約というふうに限定いたしますと,マラケシュ条約の範囲というのは自明ですので,それについては特に異論があるということではございません。
【土肥主査】  はい,ほかにございますか。本日は,どちらかというと,視覚等障害者,聴覚等障害者,障害者の範囲についていろいろと要望を頂戴したように思うのですけれども,それらをサポートする主体については特におっしゃっておられませんでしたけれども,その点については何かございますか。
【河村様】  マラケシュ条約の範囲で行きますと,当然,日本で言いますと何らかの公的な認証を得た団体というふうになろうかと思います。それは,一方で,国際的な交換も含めてマラケシュ条約は設計しておりますので,その内容について一定の保障をするという意味で,一定の技術的水準を要求するというのは当然のことというふうに考えております。ただし,もう一方で,現場のニーズといたしましては,必ずしも文化庁長官の裁定を受けたしっかりした団体でなくても,その場で急に急ぎのものをつくらなければいけないとか,あるいは,特に盲聾者の場合などに顕著なのですが,本当にもうその人に寄り添う形でいろいろなサポートをしないと情報提供できないというケースがございます。そこにまた新しい技術等がいろいろ入ってきますと,当然,そこにはこれまで想定しなかったような,急にスキャンして何かコピーして変形して提供するとか,そういう複製行為,あるいは,送信行為といったものを含むサポートがきめ細かく必要になるというふうには考えております。
 ただ,マラケシュ条約の範囲と,それを更に超えてという部分とを明確に分けて処理することも重要だと思っておりますので,一方で,そういう障害者の待ったなしのニーズに合うような機敏な対応も含むような柔軟な法制度であってほしいと考えております。
【土肥主査】  はい,ありがとうございました。それでは,本日のヒアリングはここまでにさせていただこうと思っております。次回の本小委においても,この問題を更に権利者側の御意見も伺いながら深めていきたいと思っております。本日はどうもありがとうございました。