文部科学大臣宛「マルチメディアデイジー教科書提供についての要望」2016-01-29

                            平成28年1月26日

文部科学大臣 馳 浩 様

        マルチメディアデイジー教科書製作ネットワーク参加団体一同

 マルチメディアデイジー教科書提供についての要望

 平素より文部科学省におかれましては、マルチメディアデイジー教科書(以下
デイジー教科書)製作に係る施策の充実にご尽力いただいておりますことに、感
謝を申しあげます。とりわけ平成26年度からは、文部科学省の調査研究事業から
の助成により、私どものボランティアによる活動を支えていただいておりますこ
とに、重ねて感謝を申しあげます。

 LD(学習障害)等の発達障害、弱視等の視覚障害、その他の障害のある児童生
徒の中には、通常の紙の教科書での学習が困難な者が少なからず存在し、紙の教
科書に代わるものとしてデイジー教科書が広く活用されております。(公財)日
本障害者リハビリテーション協会によると、利用者数は平成27年12月現在で約
3,000名であり、今後も増え続けるものと予想されます。デイジー教科書製作の
要望タイトル数の増加に対し、すべてに対応しきれていないという問題が生じて
おります。本来ならば年度当初に1タイトルのデイジー教科書として提供すべき
ところ、やむを得ず完成した単元から逐次提供せざるを得ないケース、また実際
の授業の進度に間に合わないケース、諸般の事情によりデイジー教科書そのもの
が提供できないケースなどが、残念ながら生じております。なかにはデイジー教
科書の利用が円滑にできないことから、授業についていけず不登校状態に至った
という、看過できない事例もあります。

 平成28年4月施行の「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」によ
り、公立学校では「合理的配慮」の提供義務が制度化され、国や各自治体に対し
そのための「基礎的環境整備」が求められることとなります。「基礎的環境整備」
としての「教材の確保」の観点から、とりわけ「教科用図書」すなわち教科書に
ついては、国の責務において確保されるものと理解しております。また文部科学
省の「『デジタル教科書』の位置付けに関する検討会議」での最近の議論では、
検定制度や無償給与制度などとの関係から、これまでの「学習者用デジタル教科
書」のうち、「教科書として位置付けることが適当である」ものを、新たに「デ
ジタル版教科書」として整理し、今後の検討をすすめるとのことです。この「デ
ジタル版教科書」の検討によってアクセシビリティ確保について、さらに進展す
るものと期待しているところです。

 拡大教科書や点字教科書については国の財政措置により提供されていますが、
デイジー教科書については、まだそのような措置はありません。文部科学省の調
査研究事業からの助成による支援をいただき、ボランティア製作団体としても自
助努力をしているところではありますが、前述のようにすべての要望に対応しき
れていないのが現状であります。 文部科学省では学校での使用実態等を踏まえ、
「検定教科用図書等に代えて使用する図書」として、無償給付対象とするか否か
の判断をしていくとのことですが、すでにデイジー教科書については前述のよう
に約3,000名の使用実績があり、その効果についても多数の報告がなされている
ところです。ちなみにこの3,000名という使用実績は、「拡大教科書」を超える
数字であります。

欧米諸国などでは毎年数十億円規模の予算が、デイジー教科書・教材の製作や提
供のための費用として拠出され、障害のある児童生徒にアクセシブルな教科書・
教材が提供されているとのことです。障害のある児童生徒の学習権を確保し、将
来の社会参加につなげていくことは、「みんなが包摂され活躍できる社会(一億
総活躍社会)」を実現するための基盤整備に寄与するものと考えます。以上のよ
うな理由から、国の責務においてデイジー教科書の安定的な提供ができるよう、
今後とも引き続き施策を講じていただきたく下記のとおり要望いたします。

    記

1.文部科学省におかれましては、通常の紙の教科書での学習が困難なすべての
児童生徒が、必要とするフォーマット(形式)で、他の生徒と同時に追加的費用
負担なく、確実に入手し使用できるための施策を、財政措置も含めて早急に講じ
てください。

2.併せて前項目の目的達成のため、発達障害などの読むことに困難を持つ児童
生徒のニーズにも対応が可能な、デイジー教科書(EPUB3版含む)や教材の確保
について、文部科学省におかれましては、各教科書出版社に対しあらゆる機会を
とらえて指導・助言や奨励をしてください。

3.私どもデイジー教科書製作ネットワークでは、これまでのデイジー教科書提
供の経験を活かし、読むことに困難がある児童生徒の多様なニーズに応えられる
「デイジー教科書アクセシビリティ・ガイドライン」を策定し、今後教科書出版
社が製作される「デジタル版教科書」のアクセシビリティ確保に関する、あらゆ
る情報提供を惜しむものではございません。文部科学省におかれましては、各教
科書出版社と私ども製作ネットワーク参加団体とが協議できる機会を設けてくだ
さい。

                                  以上

文科大臣宛「マルチメディアデイジー教科書提供」関連要望書添付資料2016-01-29

資料1--------------

マルチメディアデイジー教科書利用者の声

●日本教育工学会第25回全国大会ワークショップでの講演より

利用者「4年生のときにはじめて、ごんぎつねのデイジーを使った。
そうしたら、学校の先生が言っていることが分かって、びっくりした。
それから、たくさんデイジーで本を読んで、どんどん国語の授業が好きになっ
て、本を読むのが好きになった。
この、本を好きになったという気持ちは、ぼくの言葉では表せないくらいだ。
今困っていることは、学校にデイジーを持っていけないことで、そのことをぼ
くは悲しく思う。」
親「この子たちにとって、デイジーは教科書なのです。授業が始まるときに、
この子たちに教科書がないような状態です。こんなことはあってはならない。
国の責任として、きちんと保証してほしい。」

●平成26年度マルチメディアデイジー教科書アンケートより(利用者の保護者

・先生から)
( )内は使用者
・授業中、とても不安(当てられると読めない)な表情でしたが,デイジー使
用後は,穏やかな表情で授業に参加するようになりました。(小学2年 男子)
・学習の際、親がつきっきりで関わらなければいけなかったが、デイジーを使
用することで、一人で見ながら聞くことが可能になりました。子どもが学習し
ていくうえで、一人でできるということも大切な要素だと思いました。(小学
3年 男子)
・高学年になって、教科書、板書の文字が中心となって授業が進むようになり、
授業に参加しづらくなっていたが、デイジー教科書を授業中に使うことにより、
参加率が上がりました。(小学5年 男子)
・自分で読ませて内容を聞くとあまり答えられないが、聞いてから入ると割と
理解できていました。(中学1年 女子)
・脳性麻痺による肢体不自由のため、自分で本を読むことはほとんどなかった
子が、自分から積極的に「読みたい」というようになりました。
(小学3年 女子)
・自分から教科書を読むようになり、紙の教科書では、さーっとよんですぐ飽
きてしまう様子でしたが、デイジー教科書では、ゆっくりきちんと読み、最後
まで集中力をきらさずにいました。 集中できる時間も長くなったと思います。
(小学4年 女子)
・とても憂鬱だった授業が、デイジーのおかげで楽しくなったと感じているよ
うです。自分に合った手段を選ぶことで、教科書が読めるようになるとは!!
デイジーに出会って本当に良かったと思っています。人から読んでもらうので
はなく、読みたいときに読みたい箇所を何度でも・・・というところが良いで
すね。自分で出来た!!という達成感もあるようです。(小学4年 男子)
・音読恐怖症(宿題)だったが、理解を優先するなら優位の耳からでよい(聞
くだけ)と、理解と読む作業を分けてデイジーを利用しています。耳からで理
解してから音読に進むと以前よりスムーズに音読もできるようになりました。
(小学3年 男子)

資料2--------------

デイジー教科書ネットワーク参加団体

・公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
・特定非営利活動法人 NaD (ナディー 旧奈良DAISYの会)
・特定非営利活動法人 デジタル編集協議会ひなぎく
・森田研究室
・えどベリスの会
・特定非営利活動法人 支援技術開発機構(ATDO)
・特定非営利活動法人 かかわり教室
・特定非営利活動法人 こみこみドットコム
・社会福祉法人 日本ライトハウス情報文化センター
・朗読奉仕グループ「Qの会」
・特定非営利活動法人 やまゆり
・調布デイジー
・あおもりDAISY研究会
・特定非営利活動法人 サイエンス・アクセシビリティ・ネット
・広島国際大学マルチメディアDAISY研究会
・社会福祉法人 日本点字図書館
・所沢マルチメディアデイジー
・赤十字語学奉仕団
・いちえ会

資料3--------------

これまでの経緯

平成20年9月施行の「教科用特定図書普及促進法(教科書バリアフリー法)」と
「著作権法第33条の2」の改正により、LD(学習障害)等の発達障害や弱視等
の視覚障害、その他の障害のある児童・生徒のための「拡大教科書」や、デジタ
ル化された「マルチメディアデイジー教科書」等が、製作できるようになりまし
た。

デイジー教科書ネットワークでは、平成20年9月より通常の教科書では読むこと
が困難な児童、生徒に、デイジー教科書の提供を始め、平成27年現在、ボランテ
ィア19団体(資料2参照)が協力しています。

現在、全国の教科書センターへのサンプルの設置や、文部科学省初等中等教育局
教科書課による「音声教材普及推進会議」の開催等、国による普及が進んでいま
す。平成28年4月に、国連障害者権利条約を根拠とした国内法である「障害を理
由とする差別の解消の推進に関する法律」(障害者差別解消法)が施行される予
定です。その中で「合理的配慮を必要とする障害者が多数見込まれる場合、障害
者との関係性が長期にわたる場合等には、その都度の合理的配慮の提供ではなく、
後述する環境の整備を考慮に入れることにより、中・長期的なコストの削減・効
率化につながる点は重要である。」と明記されており、教科書はこれらの場合に
該当していると言えます。著作権法の改正や、教科書バリアフリー法と合わせて、
デイジー教科書の提供の必要性を根拠づける法律の整備も進んでいます。一刻も
早く、デイジー教科書が他の教科書と並んで、国から提供されるようになること
を期待しています。

子どもの読みたい本は教科書だけでなく、物語や趣味に関するもの等多岐にわた
り、教科書以外のデイジー化の要望も後を絶たないため、これらへの対応は、ボ
ランティアとして続けていきたいと考えています。

「DAISY/EPUBで実現するアクセシブルなデジタル教科書」 第2回 報告2016-01-29

「DAISY/EPUBで実現するアクセシブルなデジタル教科書」(第2回)

2015年12月12日(土)13時から17時まで、ウェスタ川越(埼玉県川越市)におい
て、日本デジタル教科書学会主催により表記研究会が開催され、45名の参加者が
ありました。これは同年1月に開催された同趣旨の研究会に引き続き、第2回目と
いうことになります。

冒頭に本研究会の企画者であり、本学会役員の井上より開催趣旨説明がありまし
た。文科省「デジタル教科書の位置付けに関する検討会議」での検討経過の概要
や今後の見通しなど、そして来年4月施行の「障害者差別解消法」による、「合
理的配慮」提供の制度化との関係などについても説明がされました。

最初の登壇者である河村宏氏(日本DAISYコンソーシアム)からは、文科省の検
討会議における「デジタル版教科書」をめぐる最近の議論に関して、DAISY/EPUB
の最新動向とからめて、次のような説明と見解が示されました。

「学習者用デジタル教科書のうち教科書として位置付けることが適当である」と
して、新たに検討される「デジタル版教科書」は、「紙の検定教科書のコンテン
ツをデジタル化したもの」という前提ですすめられることになるだろう。オープ
ンスタンダートであるEPUBが、電子書籍や「デジタル版教科書」の標準フォーマ
ットとして採用されることについては、すでに大方の同意が得られたと考える。
EPUBのアクセシビリティ仕様がDAISYによって担保されているという事実や、す
でに3,000名に達したマルチメディアDAISY教科書のユーザ数などからみても、正
式にEPUBに準拠することでアクセシビリティが確保された「デジタル版教科書」
の実現に向け、まさに「機が熟した」といえるだろう。今後は各教科書出版社が、
一定のベースラインでアクセシビリティ確保をしたうえで製作をし、さらにボラ
ンティア製作団体などが各ユーザへの細かな個別対応をするといったすすめ方が
望ましいと考える。

今回の参加者の約半数程度の方たちが、マルチメディアDAISY教科書の実物を見
たことがないとのことで、途中デモンストレーションを挟みながらの説明でした。
W3Cの規格でもあり「肉声とテキストハイライトとの同期」という、DAISYの特長
である機能実現のため開発された、SMIL(Synchronized Multimedia Integration
Language)についての解説と、最新情報として現在改訂作業中の最新バージョ
ンであるEPUB3.1の目玉ともいえる、"Multiple-Rendition"の実装で実現される
機能の概要や、来年10月に予定される改訂作業の見通しなどについても説明がさ
れました。

二番目の登壇者である近藤武夫氏(東京大学先端科学技術研究センター)からは、
近藤氏自身も委員として参加している文科省の検討会議での議論の概要について、
次のような説明と、「個人的なもの」との前置きで見解が示されました。

文科省の検討会議でカバーされる範囲は相当に広く、多岐にわたっている。デジ
タル教科書の効果・影響の観点から、アクセシビリティに関しても議論はされて
おり、基本的には障害のある児童生徒の学習のための必要性は確認されている。
私自身は法律や制度上の位置づけがもっとも重要と認識しており、アクセシビリ
ティの課題のすべてを、「デジタル版教科書」で解決させるということではなく、
現行の教科書バリアフリー法での考え方をさらに発展拡大させる取り組みも大切
だと考える。検討会議では「無償給与」や「著作権法」などとの関係での位置づ
けなど、まだ議論が深められていない重要な論点も多い。

さらに、「合理的配慮」の課題と関係して、近藤氏が継続して取り組まれている
「DO-IT Japan プロジェクト」での、障害のある児童生徒に向けたテクノロジー
を活用して、通常の教育カリキュラムへ参加させる移行支援プログラムの概要に
ついても紹介がありました。

三番目の登壇者である工藤智行氏(サイパック)からは、DAISY教科書・図書の
定番リーダーともいえる「ボイス オブ デイジー」(iOS/Android版)の最新バ
ージョンの機能説明が行われ、日本語の縦書き表記などに関わる課題と解決方策
についても概説がされました。完全な日本語対応のための抜本的な解決手段とし
ては、今後EPUB3で対応していくことが現実的との指摘があり、現状の紙教科書
に特有な表現や紙面構成などについて、実際に紙教科書コンテンツをデジタル化
する際の「ルビ振り」などの問題点の指摘と、その解決策についても提案がされ
ました。なお「ボイス オブ デイジー」での本格的なEPUB3及びメディアオーバ
レイ対応は、来春を予定しているとのことで、現在開発中のデモ版を使用した実
演による紹介もされました。

四番目の登壇者である西澤達夫氏(シナノケンシ)からは、文科省の「学習上の
支援機器等教材研究開発支援事業」の助成によりその開発の一部と実証研究がす
すめられている、「PLEXTALK Producer」の説明と実演がされました。これはマ
ルチメディアDAISY/EPUBの半自動製作ソフトウェアで、テキストデータの取り込
みと合成音声での読み上げと修正、画像ファイル埋め込み、漢字への自動ルビ振
り、肉声録音とテキストとの同期などの設定が可能で、EPUB3メディアオーバレ
イや従来のDAISY形式での出力をします。ボランティア製作者などの工数低減や、
学校現場などでの紙ベース教材のデジタル化による、アクセシビリティ確保への
寄与が期待できます。また、近日リリース予定のiOSで動作するEPUB3リーダーの
紹介もありました。

最後の登壇者である石橋穂隆氏(ACCESS)からは、教育分野に特化したデジタル
教科書・教材のソリューションである"Lentrance"について、実機を使用しなが
ら、次のような紹介がなされました。

"Lentrance"はEPUB3準拠のデジタル教科書・教材の製作及びビューア機能を持つ
ソリューションであり、ビューアはリフローと固定レイアウト表示のハイブリッ
ド機能を備え、文字サイズ・フォント・文字色・背景色等の変更や、音声の埋め
込みやテキスト読み上げ(TTS、SSML)にも対応しアクセシビリティ機能が強化
されている。アクセシビリティに配慮されたデジタル教科書・教材は、障害のな
い児童生徒にも使いやすいと考えている。大手教科書出版社の学習者用「デジタ
ル教科書」にも採用されている。

なお、同社はEPUBの標準化団体である、IDPFのレファレンスビューアである
"Readium"にエンジンを提供しており、今後も独自拡張とはせずに忠実にEPUB準
拠で展開予定とのことでした。

すべての登壇者の発表後、当初の予定にはありませんでしたが、野村美佐子氏
(日本障害者リハビリテーション協会・情報センター長)より、マルチメデイア
DAISY教科書の簡単な紹介と、利用者向け相談会や製作者向け講習会のご案内を
いただきました。

プログラムの最後として、質問紙による質疑応答がありました。この日の参加者
は学校教育関係、図書館関係、大学などの研究者、技術開発関係、出版関係、製
作ボランティアの方々など多方面にわたりました。残念ながら時間の関係でほぼ
質疑応答のみに終わり、討論までには深められませんでしたが、以下にその要旨
を紹介いたします。

質問 : "Lentrance"のリーダーでは分数での数式の読み上げは可能か、また可能
であるとして製作する際にはどのようにデータを作ればよいか。

回答(石橋氏) : 数式の読み上げの指定は基本的にSpeech Synthesis Markup
Language (SSML) で可能。分数式については現状では明確な読み方のルールがな
いので、コンテンツホルダ側で適宜読み方を指定することで対応可能。数式の記
述はMathMLに対応。将来的にはLaTeXへの対応も考えられる。

質問 : EPUBの点字対応、ピンディスプレイへの出力対応はどうなっているか。

回答(河村氏) : 基本的にEPUBやDAISYの仕様では点字対応しているが、プレー
ヤ側の仕様に依存する。DAISYではすでに点字対応のプレーヤを使うことで、ピ
ンディスプレイ出力が可能。ただし分数式の「読み方」と同様な課題が残る。
MathMLに対応しているのでそれで書いてあれば出力できるが、現実的には数式を
日本語方式の点字表記にする際の課題がいくつか残る。

回答(工藤氏) : EPUB3.1の点字表記の標準化に関わっている。例えばテキスト
とMathML表記とを識別し点字出力するための識別子などを定義し、仕様に加える
ことで解決の見通しはあると思う。

補足(会場より) : 日本語の文章は数式にかぎらず、そのまま自動点訳しただ
けでは使えるものになりにくい。DAISYやEPUBメディアオーバレイにおいて肉声
とテキストがシンクロできるように、読みと同期させて正しい点字データを出力
できるような仕組みはまだない。今後の課題だと思う。

質問 : 大学教育では、一般図書や論文、外国語文献など教材や読むべきものの
範囲が格段に広がる。これらのアクセシビリティ確保の取り組みの動向について、
情報があれば教えてほしい。

回答(河村氏) : 結論としてはいわゆる「発生源対策」が最終的な解決策。長
期的にはEPUBにより出版元でアクセシビリティを確保していく。すでに紙で出版
されたものについては、大学図書館などでの選書による計画的な電子化でアクセ
シビリティ確保していく。米国での"Book Share"などの先行事例にならい、日本
でも国家戦略として取り組むべき課題。さらに長期的にはマラケシュ条約による
著作権の権利制限などによって、国際的なアクセシブルな出版物の流通が促進さ
れることに期待したい。

回答(近藤氏) : 日本での高等教育機関でのアクセシビリティ促進の取り組み
としては、AHEAD Japan(全国高等教育障害学生支援協議会)が設立され、大学
の学生支援室関係者などが中心となりすすめている。学生支援室などでの書籍の
テキストデータ化の業務は大きなウェイトを占める。この協議会の事務局は近藤
が担当。来年6月に全国大会を予定しているので、関心のある方は是非ご参加を。

補足(西澤氏) : 文部科学省委託事業により開発をすすめてきた。地元の教育
委員会や学校関係者のご協力をいただき実証研究した成果物。今後も開発をすす
めていくので、ご注目いただきたい。

報告者 : 井上芳郎(埼玉県立狭山清陵高等学校)

【参考】(アクセス 2015年12月20日)
DAISY Consortium
 http://www.daisy.org/
日本DAISYコンソーシアム
 http://www.normanet.ne.jp/~jdc/
特定非営利活動法人 支援技術開発機構 (ATDO)
http://www.normanet.ne.jp/~atdo/
公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会 情報センター
(ENJOY DAISY)
http://www.dinf.ne.jp/doc/daisy/
文部科学省 「デジタル教科書」の位置付けに関する検討会議
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/110/index.htm
DO-IT Japanプロジェクト (東京大学先端科学技術研究センター)
 http://doit-japan.org/2015/
一般社団法人 全国高等教育障害学生支援協議会 (AHEAD Japan)
 http://ahead-japan.org/
障害者のアクセス権と著作権の調和をはかるマラケシュ条約
(DAISY Consortium理事・河村宏)
 http://current.ndl.go.jp/e1455
障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)
 http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai.html
障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律
(教科書バリアフリー法) http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoukasho/kakudai/houritsu/08092210.htm
2009年著作権法改正によって図書館にできるようになったこと
(国立国会図書館・南亮一)
 http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/copyright/minami_jla1007.html
ボイス オブ デイジー (有限会社サイパック)
 http://www.cypac.co.jp/ja/
PLEXTALK (シナノケンシ株式会社)
http://www.plextalk.com/jp/
Lentrance (株式会社ACCESS)
 http://jp.access-company.com/products/dpub/lentrance/