DiTT 第一次提言書(抜粋)デジタル教科書教材協議会 2011/04/252011-04-25

http://ditt.jp/office/DITTVISION.pdf

3.5 学習に困難のある子どもに有効な機能と課題

デジタル教科書・教材を活用することは、学習に遅れがある子どもや、従来の方
法では学習に困難のあった子どもの学習を助けることができる点も、大きな利点
である。
子どもにとっての学習における困難にはどのようなものがあるか、デジタル教科
書・教材を活用することでどのように困難に対応することが可能になるのか、そ
れぞれの困難別にみていくとともに、課題についてもみていく。

3.5.1 読み書きや行動に困難のある子どもに有効な機能

文部科学省が2002 年に行った全国の小中学校41,579 人を対象とした調査19によ

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19 「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する全
国実態調査」, http://www.mext.go.jp/b_menu/public/2002/021004c.htm

ると、通常学級に在籍し、知的発達に遅れはないものの、読み書きなどの学習面
や行動面で著しい困難を持っていると担任教員が回答した子どもの割合は下記の
ようになる。

・ 学習面か行動面で著しい困難を示す 6.3%
・ 学習面で著しい困難を示す 4.5%
・ 行動面で著しい困難を示す 2.9%
・ 学習面と行動面ともに著しい困難を示す 1.2%

学級単位で考えると、学習面か行動面で著しい困難を示す子どもは一学級に2.5
人在籍することになる。
これらの困難がある子どもは、目が見えない、車椅子を利用しているといった目
に見えてわかる身体的障害ではないが、学習障害 (LD=Learning Disability)、
注意欠陥/多動性障害 (ADHD=Attention Deficit / Hyperactivity Disorder) と
いった障害である可能性が高く、障害に応じた配慮や支援が必要である。ただ
「勉強ができない」「落ち着きがない」として、画一的な指導を行うのではなく、
デジタル教科書・教材を活用した柔軟な学習方法で効果をあげている例がある。

◯学習における困難の例
・ 読むことに時間がかかる
・ 文章を正しく読み取ることが難しい
・ 漢字の一部を間違える

◯デジタル教科書・教材の活用例
・ 文字の拡大
・ 単語ごとにスペースを空けたり行間を広げたりするなどのレイアウト変更
・ 読んでいる部分の色を変えるなどの強調表示
・ ルビふり
・ 書かれている文章の読み上げ
・ 文字の一部の色を変更したり、アニメーションをつけたりする

画面の拡大やレイアウト変更が自在なデジタル教科書・教材を用いることで、そ
れぞれの子どもにとって読みやすい画面で学習し、理解を進めることができる例
が認められている。また視覚からの情報だけでなく、人の声であらかじめ録音さ
れた音声や、音声合成エンジンを用いて読み上げられた音声を聞くことによって
文章の内容をより理解でき、学習効果をあげる例も認められている。間違いやす
い部分の色を変えたりアニメーションをつけたりすることで注意をひくことも、
学習に有効であるとされる。

◯学習における困難の例
・ じっとしているのが難しい。気が散りやすい

◯デジタル教科書・教材の活用例
・ 教室の前方でデジタル教科書・教材を大きく投影させ教室全体で共有
・ グループに一台や子ども一人ずつ、動きのあるデジタル教科書・教材を持た
 せて使用教室の前方でデジタル教科書・教材の一部を大きく投影して教室全体
 で共有することで、多くの子どもの注意をひきやすくなる。グループごとや一
 人一人がデジタル教科書・教材を持つ場合でも、アニメーションなど動きのあ
 るコンテンツで注意を向かせることができる。

3.5.2 病気などにより登校が難しい子どもに有効な機能

病院で療養中の子どもが在籍する病院内の院内学級を含めて、特別支援学級には、
病弱・虚弱な子どもが下記の人数が在籍している。20

小学部:1282人、中学部:455人

これ以外にも、自宅などで療養し登校が難しい子どもは多数いると思われ、一人
で学習する、ベッド上で学習するなどの状況から下記のような困難が見られる。

◯学習における困難の例
・ 鉛筆での書字が難しい
・ ページをめくるのが難しい
・ 本を適切な位置に保つことが難しい
・ 長時間同じ姿勢での学習が困難
・ 一人での学習が難しい、学習の進度が適切かわからない

◯デジタル教科書・教材の活用例
・ 姿勢など応じた入力補助機器、ソフトウェアを利用しての文字入力や、任意
 のページへの移動
・ 位置を固定しやすい機器や設置器具の利用
・ 書かれている文章の読み上げ
・ 学校での授業の様子を中継したり、録画したものを再生したりして学習する
・ 学校の授業で板書された内容、示された資料、行ったテスト等を、手元のデ
 ジタル教科書・教材で表示させる

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20 「特別支援教育の現状」,
  http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/002.htm

学習に適さない姿勢や、長時間同じ姿勢での学習を余儀なくされる場合は、姿勢
などに応じた入力補助機器やソフトウェア、設置器具を使い、文章を読んだり、
書き込み可能なデジタル教科書・教材に書き込んだりして学習を行うことができ
る。長時間同じ姿勢で読むことが難しい場合は、録音された人の声や、合成音声
エンジンにより読み上げられた文章を聞くことで学習を行うことも有効になる。
一人離れて学習を行う場合も、インターネット回線を利用して、手元で授業の中
継や録画された授業を見たり、板書などの内容を共有してもらったりして、確認
することもできる。

3.5.3 肢体不自由の子どもに有効な機能

肢体に不自由のある子どもは下記の人数在籍している。
・ 特別支援学級:小学部 3024人、中学部 893人
(一部は知的障害を合併していると思われる)
・ 特別支援学校:小学部7811人、中学部4455人
(重複障害を合併している子どもが多数いると思われる)
・ 通常学級:人数は不明だが、近年は多くの子どもが通常学級にも在籍してい
 ると思われる

これらの子どもにも、デジタル教科書・教材を使うことにより、学習効率を上げ
ることができるケースが認められている。

◯学習における困難の例
・ 鉛筆での書字が難しい
・ ページをめくるのが難しい
・ 本を適切な位置に保つことができない
・ 長時間同じ姿勢での学習が困難
・ 多くの教科書教材を持ち歩くことが難しい

◯デジタル教科書・教材の活用例
・ それぞれの障害に応じた入力補助機器を利用しての文字入力や、任意のペー
 ジへ移動
・ 位置を固定しやすい機器や設置器具の利用
・ 書かれている文章の読み上げ
・ 軽量のハードウェアに複数の教科書教材のデータを搭載

鉛筆を持ったり、鉛筆で上手に字を書くことが難しくても、子どもがそれぞれの
身体的困難に応じたスティックやトラックボールなどの入力機器やソフトウェア
キーボードなどのソフトウェアを使い、書き込み可能なデジタル教科書・教材の
問題に回答したり、自身の考えを表すことができることも、デジタル教科書・教
材を使用する利点となる。紙の教科書教材では取り扱いが難しかった子どもも、
アクセシビリティに配慮されたデジタル教科書・教材と、それぞれの子どもの困
難に応じた機器などで、学習の効率をあげることができる。
長時間同じ姿勢で読むことが難しい場合は、録音された人の声や、合成音声エン
ジンにより読み上げられた文章を聞くことで学習を行うことも有効になる。

3.5.4 聴覚に障害のある子どもに有効な機能

聴覚に障害のある子どもは下記の人数在籍している。
・ 聾学校: 小学部 2210人、中学部 1279人
・ 特別支援学級: 小学部 822人、中学部354人
◯学習における困難の例
・ 教員や他の子どもの発言を聞くことができない、聞くことが難しい
◯デジタル教科書・教材の活用例
・ 教員が話す内容をあらかじめ文字や手話のデータで用意し、手元のデジタル
 教科書・教材で確認
・ ノートテイクや手話通訳、音声認識機能の活用

聴覚障害の子どもが、教員の説明を聞くことが難しい際に、あらかじめ教員が話
す内容のポイントを文字や手話のデータで用意し、手元のデジタル教科書・教材
で確認しながら授業に受けることで、理解を促進できる。また支援者が、教員や
他の子どもの発言内容を聞き取ってコンピューターなどに入力して聴覚障害のあ
る子どもに見せるノートテイクや、インターネット回線を利用しての遠隔手話通
訳、発声された音声を認識して自動的に文字で表示させるコンピューターの音声
認識機能などと、デジタル教科書・教材を組みあわせての活用も考えられる。

3.5.5 全盲の子どもに有効な機能

全盲の子どもは下記の人数在籍している。
・ 盲学校: 小学部 678人、中学部 448人
(重複障害のある子どもが多いと思われる)
・ 通常学級: 人数は不明だが、それほど多くないと思われる

◯学習における困難の例
・ 紙に印刷された教科書教材を読むことができない
・ 板書された文字を読むことができない
・ 点字教科書が通常の検定教科書と同様に無償給与されるが、製造には時間と
 費用がかかり、種類は全国で一種類のみ
・ 無償給与される点字教科書以外の教科書教材は、教職員などが作成する必要
 がある
・ 点字の教科書教材は大変かさばる
・ 子どもが試験や課題に点字で回答をする場合、点字を理解できない教職員は
 判読に時間がかかる

◯デジタル教科書・教材の活用例
・ デジタル教科書・教材の内容を音声で聞く
・ デジタル教科書・教材の内容を点字で読む
・ デジタル教科書・教材にキーボードを使って入力することで、多くの人にす
 ぐに理解できる手段で、問題の回答をしたり、自身の考えを表したりすること
 ができる

視覚のない子どもにとって触覚で書籍を読んだり情報を入手したりすることがき
る点字は非常に重要だが、全ての情報を点字で入手することは難しい。一方、文
字データを音声にするソフトウェアや、触ってわかる凹凸の点字に変換する機器
が存在し、それらとデジタル教科書・教材を組み合わせて使用することにより、
多くの情報を全盲の子どもも入手することができるようになる。
点字教科書は、点字を理解できる子どものみが対象になり製造費用が問題になる
が、デジタルデータは障害がある子どもに限って有効なものではないため、デー
タ作成費用は安価に抑えることができるはずである。点字は文字文化による学習
効果があると言われており、おろそかにしていいものではないが、必ずしも点字
の資料などが提供されるわけではない将来の就労環境などを考えると、点字以外
のコミュニケーションに長けることも重要であると考えられる。

3.5.6 弱視の子どもに有効な機能

弱視の子どもは下記の人数在籍している。
・ 特別支援学級: 小学部:252人、中学部:83人

また、弱視等の小中学生 4990 人の子どものうち、学校としてのどのような教科
書を使用することが望ましいかの調査結果21は下記の通りである。
・ 点字教科書が望ましい子ども: 295人
・ 拡大教科書が望ましい子ども: 1525人
・ 通常の検定教科書が望ましい子ども: 1636人

◯学習における困難の例
・ 紙に印刷された教科書教材や板書された文字が小さかったり、まぶしかった
 り、一部が欠けるなどして、見ることが難しい
・ 拡大教科書が通常の教科書と同様に無償給与されるが、弱視の見え方は様々
 なため制作が難しく、利用者数も少ないため製造費用が高額
・ 拡大教科書は通常の教科書に比べかさばる

◯デジタル教科書・教材の活用例
・ デジタル教科書・教材を自身の見やすい文字の大きさに変更して見る
・ デジタル教科書・教材を自身の見やすいコントラストに変更して見る
・ デジタル教科書・教材を自身の視野にあわせて文字などの場所を調整して見
 る
・ 板書された内容をデジタル教科書・教材に同期して手元で確認する

弱視といっても、単に教科書教材を拡大すれば全ての子どもが見えやすくなるわ
けではなく、見え方は様々である。アクセシビリティに配慮されたデジタル教科
書・教材ならば、子どもの見え方に応じて、個々に見やすいように調整すること
ができる。拡大教科書は製造費用が問題になるが、デジタルデータは障害がある
子どもに限って有効なものではないため、データ作成費用は安価に抑えることが
できるはずである。また板書など離れたところの文字や図を、手元のデジタル教
科書・教材に投影させて見ることで、学習効率を高めることもできる。

3.5.7 試験における課題

普段の学習ではデジタル機器を用いているが、入学試験をはじめとした試験では
デジタル機器の使用が認められず回答に苦労し、実力通りの結果をだせないケー
スがある。試験は本来の学力をはかるものであり、学習に困難のある子どもがデ
ジタル機器等を用いて困難を克服することができるのであれば、デジタル機器等
の使用が制限されるのはおかしい。例えば鉛筆を持つのが難しく、情報端末にキ
ーボードで文字を入力することで学習している子どもが、試験の際だけ情報端末
の使用が認められず鉛筆を持つように強要されるのは、おかしな話である。
学習時のみならず、試験においても合理的な配慮がなされるべきである。

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21 「小・中・高等学校等に在籍する弱視等児童生徒に係る調査の結果について」
  http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/21/12/1287566.htm

3.5.8 学習に困難のある子どもが使用するハードウェア、ソフトウェア、コンテ
   ンツにおける課題

従来からある多くの情報端末は基本的なハードウェア、OSのレベルで、あらゆる
人にとって利用しやすいように、JIS で定められているアクセシビリティ要件を
満たしており、基本的なアクセシビリティが確保されている。しかし、電子ブッ
クリーダーなど新しい情報端末においては、視覚障害や肢体不自由の人などに対
する配慮がなされていないものも多く、新規でハードウェアを製作する際は、
JIS で定められているハードウェアの該当部分に準拠する形での配慮や、それを
補う周辺機器の開発・提供が必要である。

例:麻痺ある子どもが電源スイッチに手が届かない、ボタン操作する力が弱い
  不随意運動のある子どものタッチスクリーンの誤操作が多い

また、画面の情報を任意の大きさに変更できる機能、画面上の文字などの情報を
音声で読み上げる機能、読み上げている箇所を強調表示する機能などがソフトウ
ェアやコンテンツに備わっていることは、学習に困難のある子どもだけでなく、
多くの子どもに有効だと思われる。これらの機能の設定の仕方、ソフトウェアや
コンテンツの配布のされ方や入手の用意さ、配布システム自体のアクセシビリテ
ィも重要な問題であり、適切な配慮がされるべきである。
また、学習に困難のある子どもに向けてコンテンツを加工する必要があるケース
も多いため、コンテンツの提供者には、データの加工や変換に際して、無駄な手
間やコストが発生しない形でのデジタルデータの提供が求められる。
一方で、全ての機能を搭載し、全ての困難や障害に対応するハードウェア、ソフ
トウェア、コンテンツを目指すことは、多くの子どもにとって不必要に大きなシ
ステムになり、開発に時間と費用がかかり、必要なタイミングで必要な子どもに
届けられない可能性が高くなってしまうと考えられる。最新のテクノロジー動向
を注視しつつ、全ての機能が確保されていなくても、柔軟で拡張性のある形を目
指すべきであると考えられる。

デジタル教科書教材協議会 DiTT成果発表会/明治記念館 2011/04/252011-04-25

デジタル教科書教材協議会は、学校教育におけるデジタル教科書教材の普及に向
けた一年間の活動を発表する「DiTT成果発表会」を開催いたします。
皆さまのご参加をお待ちしております。

日時:2011年4月25日(月)14:30~17:00(14:10受付開始)
場所:明治記念館 「富士の間」
  (東京都港区元赤坂2-2-23)
http://www.meijikinenkan.gr.jp/access/index.html
※当日、会場の様子をニコニコ生放送にて配信予定です。

参加費:無料

概要:
・2010年度活動報告
・第一次提言書発表
 ~デジタル教科書・教材を開発し普及させるためには~
・DiTTビジョン発表
 ~2015年度までにDiTTが成し遂げたい目標と活動指針~
・パネルディスカッション
【登壇予定】
・黒須 正明(放送大学教授、総合研究大学院大学教授・学長特別補佐、
 NPO法人人間中心設計推進機構理事長)
・田原 総一朗(ジャーナリスト)
・藤原 和博(東京学芸大学客員教授)
・三宅 なほみ(東京大学大学発教育支援コンソーシアム推進機構副機構長)
・文部科学省、総務省
・中村 伊知哉(慶應義塾大学メディアデザイン研究科教授)
他数名

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※1社2名まで。参加される方のお名前を全てお書きください。

上記を明記のうえ、DiTT事務局 Email: ditt@ditt.jp までお申し込みください。

*プレスの方は「プレス」とお書き添えください。