障害者制度改革の推進のための第二次意見(案) 第29 回(H22.12.17)2010-12-17

http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/kaikaku/s_kaigi/k_29/pdf/s1.pdf

障害者制度改革の推進のための第二次意見(案) -- 抜粋

3)教育
(推進会議の認識)
 日本における障害者に対する公教育は特別支援教育によって行われてお
り、法制度として就学先決定にあたっては、基準に該当する障害のある子ど
もは特別支援学校に就学する原則分離別学の仕組みになっている。障害者権
利条約は、障害のある子どもとない子どもが共に教育を受けるインクルーシ
ブ教育制度の構築を求めており、こうした観点から、現状を改善するために
以下を実施することが必要である。

【インクルーシブな教育制度の構築】
 人間の多様性を尊重しつつ、精神的・身体的な能力を可能な最大限度まで
発達させ、自由な社会に効果的に参加するとの目的の下、障害者が差別を受
けることなく、障害のない人と共に生活し、共に学ぶ教育(インクルーシブ
教育)を実現することは、互いの多様性を認め合い、尊重する土壌を形成し、
障害者のみならず、障害のない人にとっても生きる力を育むことにつながる。
また、義務教育だけでなく、就学前の教育、高校や大学における教育、就
労に向けた職業教育や能力開発のための技術教育、生涯学習等についても、
教育の機会均等が保障されなければならない。

【地域における就学と合理的配慮の確保】
 障害のある子どもは、障害のない子どもと同様に地域の小・中学校に就学
し、かつ通常の学級に在籍することを原則とし、本人・保護者が望む場合に
加え、ろう者、難聴者又は盲ろう者にとって最も適切な言語やコミュニケー
ションの環境を必要とする場合には、特別支援学校に就学し、又は特別支援
学級に在籍することができる制度へと改めるべきである。
したがって、「障害の状態に応じ、十分な教育が受けられるようにする」と
いう現行の規定は、障害の種類と程度によって就学先が決定されることを許
容し、インクルーシブな教育制度と矛盾する恐れがあるため改められるべき
である。
 障害のある子どもが小・中学校等(とりわけ通常の学級)に就学した場合
に、例えばわかりやすい授業や教材、必要なコミュニケーション、学校にお
ける移動支援、医療的ケア等、その他各人のニーズに応じた合理的配慮が提
供されなければならない。当該学校の設置者は、追加的な教職員配置や施設・
設備の整備等の条件整備を行うために計画的に必要な措置を講ずるべきであ
る。

【学校教育における多様なコミュニケーション手段の保障】
 手話・点字・補聴援助・要約筆記等による教育、発達障害、知的障害等の
子どもの特性に応じた教育を実現するため、ろう者を含む手話に通じた教員
や視覚障害者を含む点字に通じた教員、手話通訳者、要約筆記者等の確保や、
教員の専門性向上に必要な措置を講ずるべきである。
さらに、教育現場において、一人ひとりのニーズに基づき、あらゆる障害
の特性に応じたコミュニケーション手段を確保するため、教育方法の工夫・
改善、電子教科書を含む使いやすく、わかりやすい教科書の保障等必要な措
置を講ずるべきである。

【交流及び共同学習】
 交流及び共同学習には、様々な形態がある。例えば、特別支援学校と小・
中学校等の間で行う学校間交流、特別支援学級と通常学級との学校内での交
流、居住地の学校で行う居住地校交流、地域の人々との地域交流等があり、
それぞれ、直接一緒に活動する直接交流と、手紙やビデオテープの交換等を
介して行う間接交流がある。
しかし、学校間交流は年に数回であることが多く、直接交流が可能となっ
ても移動の際に親が付き添いを求められるなど、多くの課題がある。交流及
び共同学習は分けられた教育環境が前提となるため、原則分離の教育のまま
では障害者権利条約で規定しているインクルーシブ教育は実現しない。地域
社会の一員となる教育の在り方という観点から見直されるべきである。
以上を踏まえ、基本法には次の観点を盛り込むべきである。
・ 障害のある子どもは、他の子どもと等しく教育を受ける権利を有し、そ
 の権利を実現するためにインクルーシブな教育制度を構築すること。
・ 「障害の状態に応じ、十分な教育が受けられるようにする」という現行
 の規定は、障害の種類と程度によって就学先が決定されることを許容し、
 インクルーシブな教育制度と矛盾する恐れがあるため表現を改めること。
・ 障害のある子どもとない子どもが、同じ場で共に学ぶことができること
 を原則とするとともに、本人・保護者が望む場合に加えて、最も適切な言
 語やコミュニケーションを習得するために特別支援学校・学級を選択でき
 るようにすること。
・ 本人・保護者の意に反して、地域社会での学びの機会を奪われることの
 ないようにすること。
・ 学校設置者は、当該障害者に必要な合理的配慮を提供することはもとよ
 り、追加的な教職員の配置や施設・設備の整備等の条件整備を行うために
 計画的に必要な措置を講ずること。
・ インクルーシブな教育の原則を踏まえ、子ども同士のつながりを障害の
 ない子どもと同程度にするように交流及び共同学習の実施方法を見直すこ
 と。

(基本法改正に当たって政府に求める事項に関する意見)
○ 障害のある子どもの教育的ニーズに的確にこたえられる教育を提供する
 多様で柔軟な仕組みを整備するとともに、そのために必要な合理的配慮や
 必要な支援が提供されるために必要な施策を講ずること。
○ 障害のある子どもと障害のない子どもの交流及び共同学習について、互
 いに地域社会を含む社会の一員としての相互理解が深められるよう必要な
 施策を講ずること。

7)国及び地方公共団体の責務
(推進会議の認識)
【障害者の権利を保障する責務】
 国及び地方公共団体は、あらゆる人権の享有主体であるすべての障害者が
地域社会で自立した生活を営むことができるよう、その権利を保障する責務
を有すると同時に、身体障害や知的障害が対象となる障害者雇用義務や地方
自治体の医療費助成制度などが精神障害には適用されないなど障害の種別・
程度により福祉・医療施策に制度的格差がある現状を改める責務を有してい
る。障害者基本法の改正に当たり、この点を明らかにするべきである。

【差別を禁止する措置を取る責務】
 国及び地方公共団体は、障害に基づくあらゆる差別を禁止するための措置
を講ずる責務を有している。また、国及び地方公共団体は障害者への合理的
配慮義務を有すると同時に、事業者、企業、学校設置者など合理的配慮を行
うべき者に対し、財政的、技術的な支援を行う責務を有している。

【インクルーシブ社会の構築】
 国及び地方公共団体はあらゆる差別や偏見をなくし、障害者の置かれてい
る状況についての国民の理解を広げ、障害のある人が障害のない人と平等に
地域社会で自立した生活を営むことができるインクルーシブな社会を構築す
る責務を有している。
 以上を踏まえ、基本法には次の観点を盛り込むべきである。
・ 障害者が地域社会で自立した生活を営む権利を保障し、並びに障害者間
 の制度的格差をなくすための措置を講ずる責務を有すること。
・ 障害に基づくあらゆる差別を禁止するための措置を講ずる責務を有する
 こと。
(基本法改正に当たって政府に求める事項に関する意見)
○ 国及び地方公共団体は、障害者権利条約における「地域社会で生活する
 平等の権利」を踏まえ、地域生活と社会参加に必要な支援の措置を講ずる
とともに、障害に基づく差別を防止する責務を有すること。
○ 国及び地方公共団体は、障害の種別や程度に基づく不合理な制度的な格差
 をなくす責務を有すること。
○ 障害者を福祉施策の客体としてのみとらえているという印象を与える表
 現は用いないこと。