家庭教育支援条例案に対する緊急声明 親学推進協会理事長 高橋史朗 平成24年5月8日2012-05-08

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 家庭教育支援条例案に対する緊急声明  親学推進協会理事長高橋史朗

大阪維新の会の大阪市議団が議員提案を予定していた「家庭教育支援条例案」に
対して、「大阪自閉症協会」など大阪府内を中心に活動する13団体が、「学術的
根拠のない論理に基づいている」として、条例案の撤回と勉強会の開催を求め、
市議団は5月市議会での提案を見送ったと報じられています。
5月6日に大阪維新の会は、「本条例は、維新案ではありません。ある県で提出さ
れた条例案を議員団総会にて所属議員に『たたき台のたたき台』として配布した
ものであり、今後の議論の材料として提出したもの」であることを明らかにして
います。
そのことは同条例案の前文に「本県の」と書かれていることからも明らかであり、
ある県の極めて粗雑な非公式な私案が一体なぜマスコミに流れたのか理解に苦し
みますが、私に対する不当な批判も散見されますので、見解を明らかにしておき
たいと思います。同条例案に「乳児期の愛着形成の不足が軽度の発達障害やそれ
に似た症状を誘発する大きな要因」「伝統的子育てによって(発達障害は)予防
できる」と書かれていることに対して、「親の育て方が原因であるような表現は
医学的根拠がない」というのが、批判の最大のポイントになっています。この批
判の箇所については、私の見解とは異なる点があります。
発達障害の原因は先天的な基礎障害(impairment)ですから予防はできませんが、
斎藤万比古総編集『発達障害とその周辺の問題』(中山書店)によれば、乳幼児
期の早期に出現するとされる能力障害(disability)、さらに、学童期から思春
期にかけて出現するとされる二次障害は「個体と環境の相互作用の結果の産物」
として理解する必要があり、一つの側面として「発達障害は関係障害である」と
も指摘されています。
したがって、子供たちに大きな影響を与える環境を整えることは、症状の予防や
改善につながると考えることができます。
また、文部科学省の脳科学に関する報告書も「遺伝要因と環境要因が複雑に絡み
合って発症する」と述べ、世界保健機関(WHO)は11年前に障害分類を改定し、
個人の障害を環境との関係性の中で捉え、個人因子と環境因子の相互作用を重視
する視点に転換しました。
さらに、浜松医科大学の杉山登志郎教授は、高齢出産やたばこの影響、多胎、未
熟児、生後から1歳までの環境要因の積み重ねが発達障害の要因になりうると、
指摘しています。このように子供の発達にみられる後天的、二次的障害にウェイ
トを置いて発達障害に言及する科学的知見も見られます。家庭教育は子供の発達
の支援であるという立場に立てば、このような科学的知見は、特にこれから親に
なる人たちに一刻も早く提供する必要があるのではないでしょうか。より早期の
対応が有効ともいわれています発達障害の予防と早期発見、早期支援に全力をあ
げる「未来への投資」こそが求められているのです。
勿論、「乳幼児期の愛着形成不足」が先天的な基礎障害の「大きな要因」ではあ
りません。その点では条例案は不適切です。しかし、二次障害に環境要因が関係
していることは明らかですから、二次障害については、早期発見、早期支援、療
育などによって症状を予防、改善できる可能性が高いといえます。
その意味で、発達障害児・者の親の心情に最大限の配慮をしなければなりません
が、親を責め傷つけることにつながるという理由で、環境要因や育て方が二次障
害に関係するとの見解までもタブー視し、「疑似科学」と不当なレッテル貼りを
してしまうことは、子供の「発達を保障」することによって得られる子供の「最
善の利益」を損ねることになるのではないでしょうか。
親の「人権侵害」だと声高に叫ぶ人たちには、子供にも発達段階に応じて親から
保護される権利があり、教育基本法第10条が「父母その他の保護者は、子の教育
について第一義的責任を有するものであって・・・・・心身の調和のとれた発達
を図るよう努めるものとする」と明記していることも忘れないでほしいと思いま
す。
いずれにしても、この専門領域については未だ研究途上にあり、専門家の見解が
分かれているので、見解を異にする専門家からのヒアリングをしっかり積み重ね
「発達障害」という用語の定義を理解し、共通理解を深めたうえで、十分に論議
を尽くして再出発する必要があると思われます。
混乱を招いた一部不適切な条例案のために家庭教育支援条例の全体を葬り去るこ
とは将来に禍根を残すことになります。
今後、国会議員の勉強会でも発達障害と虐待の関係(虐待の連鎖―虐待に起因す
る「発達障害的症状」)、発達障害の環境要因と伝統的子育て(関わり方)など
について専門家からヒアリングを行い、科学的知見に基づく情報の提供に努めて
まいりたいと思います。                  平成24年5月8日

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