文部科学省 平成22年4月2日 生徒指導提要 発達障害と思春期2010-07-22

http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/22/04/1294538.htm
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/22/04/__icsFiles/afieldfile/2010/06/04/1292248_02_1.pdf

第3章 児童生徒の心理と児童生徒理解
 第3節 青年期の心理と発達
 2 発達障害と思春期
 (1)思春期の課題

思春期という時期は、第二次性徴期、第二次反抗期の時期を含み、精神的にも身
体的にもそれまでとは違う大きな変化を経験する時期になります。大人と子ども
の狭間にあり、見えない将来への不安を抱えながら、親からの精神的な自立に向
けて悩み、絶対だった大人に対する否定が反抗という形で表現され、友達関係も
内面を共有する仲間へと変わっていきます。ここでは、思春期として小学校高学
年から高等学校段階までの時期の課題について述べます。

発達障害のある児童生徒にとっても、他の多くの児童生徒と同様あるいはそれ以
上に精神的に過敏な時期であり、とても傷つきやすい時期でもあります。学校生
活における度重なる失敗経験、苦手意識や挫折感から、些細なことも自分の欠点
であると思いこみ、情緒的に不安定になりやすく、自己評価が低くなったり、自
己嫌悪に陥りがちになります。対人関係や学習面等におけるちょっとしたつまず
きや困難をうまく解決できないことがきっかけとなり、不登校や引きこもりなど
の二次的な障害につながってしまう場合も見られます。

思春期における発達障害のある児童生徒の課題は、多くの児童生徒の抱える課題
と基本的には同じです。例えば、○1行動する仲間から内面を共有する仲間へと
発展する友達関係、○2肉体の変化と性的な成熟に付随するエネルギーの増大、
初潮や精通の受け入れ、○3性格や容姿、能力などの自己像の形成、自我同一性
(アイデンティティ)の確立、○4自立と甘えの葛藤を経験しながらの親からの
精神的自立、そして、○5見えない将来の進路選択に対する不安などが挙げられ
ます。

一般の多くの児童生徒は、身近な大人との関係や友達関係の中で、あるいは様々
な自分の経験を通して、課題に対する自己解決能力を高めていきます。しかし、
発達障害のある児童生徒の場合には、不安や悩みを身近な人とコミュニケーショ
ンを通じて理解してもらうこと、課題解決のために他者に援助を求めること、過
去の経験に照らし合わせ自分なりの工夫をしてみることなど、社会性や対人関係
に関する能力の弱さがあるために、自己解決能力が育っていきにくい面がありま
す。

 (2)配慮したい思春期の対応

周りの児童生徒との違いに気付き、うまく取り組めない自分に対する不安を取り
除くためには、欠点を指摘するよりも長所に注目し、認めていくことが大切です。

学校生活において学習面のつまずきは適応に大きなウエイトを占めてきます。L
Dなどの学習面に困難のある児童生徒は、児童期から既に様々な学習上の困難を
経験しており、意欲や自信を失い、「自分にはできない」などと自己評価が低く
なってしまっています。中学校、高等学校と学習内容が次第に難しくなればハー
ドルはさらに高くなります。

授業における個別的な支援の手立てについては、中学校であれば小学校から、高
等学校であれば小学校、中学校からの支援に関する情報を十分に収集し、各教科
担任の共通理解として、できるだけ同じような対応ができるように心掛けていく
必要があります。

そして、個別的な支援を行う際には、何よりも対象となる児童生徒自身のプライ
ド、自尊感情に配慮することが重要になります。特別扱いされることが、配慮と
ならず、逆に心の痛手になることがないように、十分に説明し、納得の上で進め
ることが大切です。

学習面とともに特に配慮したいのが友達関係です。友達からの何気ない一言が自
尊感情を傷つけ不適応につながってしまうこともあります。障害特性に関する基
本的な理解は、教職員だけでなく、周りの児童生徒や保護者にも進めていく必要
があります。

その際、障害ということを強調するのではなく、障害による困難さや行動の特徴、
それに対する対応の仕方についての理解を図ることが重要です。学校生活におけ
る児童生徒の言葉遣いや態度の荒さなどが気になる場合には、発達障害のある児
童生徒との関係だけでなく、学校全体で取り組むべき課題として、集団づくり、
仲間づくり等の人間関係を学ぶ指導を積極的に取り入れていく必要があります。

通常の学級において、発達障害のある児童生徒に対して個別的な支援を効果的に
行うためには、学級全体が落ち着いて学べる環境を保障し、児童生徒たちに学ぶ
意欲を持たせることが重要になります。それは、特別な支援の必要な生徒だけで
なく、学級のすべての児童生徒にとっても学びやすい学習環境を整備し、分かり
やすい授業を工夫することが基本となるということです。発達障害のある生徒が
参加できている授業には参加しやすい条件が整っており、うまく参加できない授
業にはそれ以外の児童生徒にとっても参加しにくい状況があるということです。

これらのことはどの教科においても共通のことであり、対応の工夫を個々の教科
担任に委ねるのではなく、学年体制の中で十分な話合いと共通理解により工夫し
ていきたいことです。

また、言葉かけやかかわり方などの工夫は、教科学習に限られたことではなく、
部活動や委員会活動などの課外活動においても関連してくることから、学校全体
で共通理解を図る必要があります。必要に応じて、外部の専門家から助言を受け
たり、個別の指導計画を作成したりしながら、対応の見直し検討をしていくよう
にします。

 (3)自己理解の難しさ

発達障害のある児童生徒は、思春期になると多くの場合、学習活動などにおいて
皆と同じように取り組めない経験の積み重ねから、自分に苦手な分野があること
や他の児童生徒との違いに気付いてきます。対応の難しい場面で自分なりの試行
錯誤を繰り返したり、他者からの助言を受け入れたりしながら、苦手なことに対
する解決方法や対処の仕方などを身に付けていきます。また、そうしなければな
らないことを本人なりに理解するようになります。

発達障害のある児童生徒が将来に向けてこれからの自分の生き方を考えていく上
で、発達障害としての特性を把握し、障害を個性として受け止め、自己理解を図
ることが重要です。そして、身近で生活している人たちにとって、本人の障害受
容をどう手伝うかが問題になってきます。

しかし、本人にとっては、それらの難しさが障害に起因するものと認めることに
は大きなハードルがあります。発達障害に対する社会の受け止め、理解が十分で
はない現状では、障害という言葉は非常に重いもので、傷つき、悩み、不安感が
高まります。障害の受容を進めることが、必ずしも社会への適応の早道ではなく、
本人の自己理解の段階によっては苦しむことになるということを、周囲の者が十
分に理解しておくことが重要です。少し時間をかけて、障害特性を個性として受
け止めることから、得意な面は伸ばし、苦手な面は工夫して取り組める努力をし
ていくことに目を向け、心の面も含めて対応していくことが大切です。

 (4)相談できる人や場の確保

思春期の発達障害のある生徒に対しては、こうした児童生徒自身が抱えている悩
みや課題について真摯に受け止め、相談できる人や場所を確保することがとても
重要になります。これまでの教育相談は、担任や養護教諭、スクールカウンセラ
ーなど、一部の担当者が個別に相談を受けることが多く、教職員全体が情報を共
有化することが難しく、対応の仕方に誤解が生じたり一貫性がなかったりするな
ど、期待したような成果が得られない場合が見られました。

今後は、校内の相談体制をシステム化し、コーディネーターをはじめ、養護教諭、
特別支援学級担任、生徒指導担当教員やスクールカウンセラーなどがうまく役割
分担する中で必要な情報を共有化して対応していくことが望まれます。相談は相
談者のニーズが第一ですが、発達障害のある児童生徒にとっては、相談すること
もコミュニケーションという苦手な社会的スキルの一つです。無理強いや押し付
けの指導にならないように、児童生徒が話しやすい雰囲気を日ごろからつくって
いくことがとても大切になります。--略

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