第171回国会 参議院文教科学委員会 会議録(抜粋) 2009/06/112009-06-11

http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kaigirok/daily/select0106/171/17106110061014c.html

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第171回国会 文教科学委員会 第14号 平成二十一年六月十一日

○友近聡朗君 それでは、そろそろ本題の方に入ってまいりたいと思います。
 まず、国会図書館の方にお伺いしたいと思いますけれども、平成十八年の十二
月に資料デジタル化基本計画というのを策定されて、今年の三月に所蔵資料の媒
体変換基本計画というのも作られたと聞いております。この概略について簡潔に
御説明お願いします。
○国立国会図書館参事(内海啓也君) 今年三月に策定いたしました平成二十一
年度以降の当館所蔵資料の媒体変換基本計画につきましてでございますけれども、
所蔵資料の保存と利用の両立を図るために、資料の媒体変換の基本的な考え方と
優先順位を示したものでございます。
 計画の大きな柱は、これまで資料の劣化対策としてマイクロフィルム化を行っ
てきました。この点を修正いたしまして、これからは主にデジタル化によって対
応することとしたというところでございます。
○友近聡朗君 ありがとうございました。
 大まかな流れを十八年からざっくり言いますと、本は基本的にデジタル化しま
しょうと。そしてスキャンして、将来的にはインターネットで皆さんが見れるよ
うにしましょうということだと理解しております。
 そこで、確認させていただきたいんですけれども、本著作権法の改正案三十一
条の第二項でありますけれども、この改正案で、国会図書館へ納品されてすぐ速
やかに資料のデジタル化、スキャンを行うことが可能になるというふうに思いま
す。この法律案では、資料のデジタル化のみが権利制限の対象となっているとい
うふうに思うんですが、その後、スキャンした資料をどういうふうに活用するの
かというのは特段の定めが置かれていないというふうに認識しています。
 そこで、文化庁にお伺いしたいんですけれども、図書館のデジタル化を進める
上でこの法案の有する意義は非常に大きいというふうに思っておるんですけれど
も、本改正の意義と、あと権利制限の内容を資料のデジタル化に限った理由とい
うのを教えてください。
○政府参考人(高塩至君) 今回の著作権法改正の三十一条でございますけれど
も、国立国会図書館のいわゆる納本制度を受けまして、デジタル化を直ちに進め
られるというものでございます。
 これは、先ほど来お話ございますように、国会図書館は大きな使命として、納
本制度によりまして、我が国の官庁印刷物、出版物、民間出版物の資料というも
のの保存というのを大変大きな使命で持っております。現行の規定によりますと、
その所蔵資料につきましては、既に劣化したり損傷が激しいものにつきましては
デジタル化は可能でございますけれども、現に国会図書館の所蔵資料の中にも非
常に保存の状態が悪いというものもございまして、そういう段階でデジタル化、
電子化いたしましても、なかなか資料の保存状態が余り良くないということがご
ざいます。
 そうしたことにかんがみまして、今回の法改正では、出版物を納本後直ちに良
好な状態のまま将来への文化的な資産として保存されるようデジタル化を可能に
したということでございます。今回の法改正につきましては、原本に代えまして
その複製物を公衆の利用に供することとしていることから、その原本をデジタル
化する方式によって複製することが資料に掲載された情報を保存する上から有効
と考えられることからこうした規定を置いたわけでございますけれども、今後、
電子化された資料についてどのような形で利用していくかということにつきまし
ては、現在国立国会図書館におきまして、いわゆる著作権者、出版社からも参加
いたします資料デジタル化及び利用に関する関係者協議という場が設けられてお
りまして、出版業への影響等も考慮しながら検討されるものというふうに私ども
は理解しているところでございます。
○友近聡朗君 皆さんにお手元にあります資料の一を見ていただきたいんですけ
れども、国立国会図書館の電子データ化の取組ですけれども、いわゆる本が入っ
てきてスキャンしてコンピューターで見れますよという予算、平成十二年から大
体一億円とか、多くても二億円程度しか予算付けがされていません。今年度の当
初予算も一・三億円でありましたけれども、今回の補正予算で約百倍の予算が付
けられています。十年間分の約九倍という予算付けでありますけれども、今回の
大規模な予算化によって資料のデジタル化というのは一気に進むことになるかと
思います。
 それは資料三の方を見ていただきますとよく分かりますけれども、緑の、グリ
ーンの部分が今まで既にデジタル化されていた部分で、今回の補正予算でブルー
の部分がデジタル化されます。右の戦後期刊行図書というのがありますけれども、
その部分、少し小さく見えますけれども年代別で表記してありますので、残って
いるのが大体四分の三ぐらい、まだ、補正予算でデジタル化した後でも四分の三
ぐらいは残ってくるのではないかというふうにお伺いしておりますけれども、今
回は百倍以上の予算が付きましたので良かったですけれども、今後どのようなペ
ースでデジタル化を進めていくのか、そして優先的にデジタル化する資料はどの
ようなものかというのをお伺いしたいと思います。
○国立国会図書館参事(内海啓也君) 現在、国立国会図書館の所蔵する明治、
大正期の刊行図書をデジタル化いたしましてインターネット公開する事業を行っ
ております。その総数は十四万八千冊を画像情報の形で提供中でございます。
 当館では平成二十一年三月に先ほど申し上げました資料のデジタル化につきま
しての基本計画を策定したところでありますけれども、平成二十一年度の補正予
算では、計画を加速いたしまして、図書七十五万四千冊を始めとした大規模なデ
ジタル化を実施いたします。これによりまして、先生がおっしゃいましたデジタ
ル化すべき約四百万冊の図書については約四分の一のデジタル化が達成される見
込みでございます。
 今後のデジタル化につきましては、多額の予算を必要とするところであります
ので、引き続き必要な予算の確保等に努め、計画的に推進してまいりたいと思い
ます。
 それから、優先的にデジタル化する資料でございますけれども、資料の劣化、
損傷の度合い、それから利用頻度、それから希少性、余り世にないもの、希少性
というものを考慮して進めてまいりたいと考えております。
○友近聡朗君 ありがとうございます。
 図書館では、先ほどから御説明ありましたとおり、近代デジタルライブラリー
というところで既に著作権保護期間が満了した資料あるいは著作権者から許諾を
得た資料、そして、文化庁長官の裁定制度を活用することでインターネットで広
く公開してきていると思います。
 長尾館長さんは、こうした取組を更に発展させられて、国立国会図書館がデジ
タル化した資料を第三者機関などに提供して、料金を徴収した上で広く一般に利
用に提供する電子図書館構想というものを提唱しておられると思います。資料の
四番目を見ていただけますとその構想の大体全容が把握できるかと思いますけれ
ども、私、個人的にはこの電子図書館構想、出版関係者や著作権者等と議論を尽
くした上でいいモデルをつくっていただきたいというふうに思っています。
 私の地元である愛媛県というのは長崎県に次いで島嶼部の多い地域でもありま
す。そこの島の子供たちやおじいちゃん、おばあちゃんが今でも現実的に図書館
に足を運んで本を見るということは今日でも事実上不可能であります。そこで、
長尾館長に御自身の電子図書館構想について御説明していただきたいとお願いし
ます。
○国立国会図書館長(長尾真君) 現在出版活動が電子的な世界にどんどん移り
つつございます。これは世界的な動きでございます。その中で、日本において出
版界と図書館が共存共栄できる関係を構築していくということが日本の文化を発
展させる上で非常に大事なことだと認識しているわけでございます。
 私が提案しておりますビジネスモデルは、この資料四にございますけれども、
国立国会図書館が電子出版物の納本を出版社から受けまして、紙の資料の電子デ
ータの納本あるいは購入によりまして収集いたしました電子形態の資料、これが
デジタルアーカイブと書いてあるものでございますが、その資料を遠隔地からも
利用できるような仕組みをつくるということを考えているわけでございます。
 具体的には、右の方に書いてあります電子出版物流通センターといった組織を
設立することを考えまして、利用者はこれを経由して国立国会図書館に蓄積され
た電子図書を一定期間利用でき、その際には利用料金をこのセンターに支払うと
いう考え方でございます。支払われたそのお金は、このセンターから出版社ある
いは著作権利者に還元されるというモデルを考えております。
 どのくらいの利用料金が適切であるかと、あるいはこれで出版事業が成り立つ
のかどうかといったことは、これからいろんな実証実験をしてみなければ分から
ないところでございますけれども、将来は本の流通経路は現状とは全く違ったも
のになると考えられますが、こういうモデルを早急に打ち立てて、おっしゃいま
したように、東京あるいは関西館の近くにおられない方々にも平等に図書館が利
用していただけるような世界をつくっていきたいというふうに思っているところ
でございます。

--中略

○那谷屋正義君 -略- さらに、拡大教科書というか、教科書バリアフリー法
では、視覚障害というか、弱視の方だけでなくて、発達障害等も含め、障害のあ
る児童生徒すべてが対象になっております。発達障害の児童生徒には、例えばマ
ルチメディアDAISY化された教材が適しているというふうにも言われていま
す。今後、発達障害等の子供たちに対する環境の充実に向けて、実際に効く、有
効的な施策等をどう講じていこうと考えていらっしゃるのか、お考えをお聞かせ
いただきたいと思います。
○政府参考人(金森越哉君) 障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書
等の普及の促進等に関する法律、いわゆる教科書バリアフリー法では、発達障害
のある児童生徒が使用する教科用特定図書等の整備充実を図るため、必要な調査
研究等を推進する旨が規定されております。これを踏まえ、文部科学省では、本
年度から新たに、発達障害等の子供の障害特性に応じた教科書等の在り方やこれ
らの教育的効果などについて実証研究を行うことといたしております。
 この調査研究事業では、先般、専門の委員による審査評価を経て、四つの団体
を実施主体として選定したところでございまして、このうち東京大学先端科学技
術研究センターでは、パソコンなどの支援技術を活用し電子化された教材の作成、
教育課程との関連性の研究や協力校での実証研究を行うことといたしております。
また、財団法人日本障害児リハビリテーション協会では、マルチメディアDAI
SY教材に主眼を置き、電子教科書の備えるべき機能の研究や教科書等の試作及
び実証研究など行うことといたしております。
 文部科学省といたしましては、これらの調査研究成果を踏まえ、発達障害のあ
る児童生徒が教科学習における困難を克服し、障害の有無にかかわらず十分な教
育を受けることができるよう、教材等の学習環境の整備を進めてまいりたいと考
えております。
○那谷屋正義君 是非お願いをしておきたいと思います。
 それでは、済みません、やっと法案に関しての質問に移らさせていただきます。
 障害者の著作物利用にかかわる権利制限の見直しということで、第三十七条三
項、そして三十七条の二等にうたわれているわけでありますけれども、まず聴覚
障害者にかかわる権利制限規定というのは、放送のリアルタイム字幕にこれまで
限定されておりまして、非常に厳しいものであったというふうに思うわけですけ
れども、その理由をどのようにとらえられていますでしょうか。
○政府参考人(高塩至君) 今先生から御指摘ございましたように、現行の著作
権法によります障害者に対する権利制限の規定につきましては、聴覚障害者の著
作物利用につきましては、放送の音声部分のリアルタイムの字幕というものに限
られているわけでございます。これを今後、いわゆるリアルタイム以外の異時と
いいますか、違った時間帯でも字幕送信というものを可能にいたしますし、これ
まで対象とならなかった映画なども対象にするということで、今回の法改正では
大幅な聴覚障害者に対します権利制限を掛けるということになっているわけでご
ざいます。
 なぜこの字幕についての問題がこれまで難しかったかといいますと、やはり映
像の問題につきましては、この字幕付きの映像というものについては、健常者の
方でもそれが利用できると、また健常者に利用された場合には、その権利者側、
いわゆる映画会社、映画製作会社などにおきまして影響があるということから、
双方間の協議というものに時間が掛かるとともに、慎重な意見が多かったという
ことでございますけれども、今回そうした意見調整が成ったということで法改正
を行うと、こういう経緯に至ったところでございます。
○那谷屋正義君 取りあえず、そこのところは権利者側の部分から出てきた問題
ということで、お答えということで認識しておきたいというふうに思いますが。
 複製等を行うことのできる主体というもの、政令で定めるものというふうにな
っておりますが、これは一体どこまで拡大をされるのか。第三十七条第三項、そ
して第三十七条の二第一号と第二号について、それぞれ別個に示していただけた
らというふうに思います。例えば、公共図書館、学校図書館、大学図書館、NP
O法人というものは主体となり得るのかどうか、よろしくお願いしたいと思いま
す。
○政府参考人(高塩至君) 今回の改正案におきましては、第三十七条の三項及
び三十七条の二でございまして、それぞれ視覚障害者、聴覚障害者につきまして
の複製が認められる主体につきまして、その範囲を拡大することでございます。
 現行法の規定は、御存じのように、その施設を設置していること、また障害者
の福祉の増進の事業を目的としているということの限定を掛けておりますけれど
も、今回の法改正では障害者福祉に関する事業を行う者という規定に改めまして、
それらを広く対象とするということになっておるわけでございます。
 現時点でどういう形でこれから指定をしていくかということでございますけれ
ども、利用者確認の体制の整備状況ということなどもこれからその指定の際には
勘案することになりますけれども、今先生からお話ございましたように、広く公
共図書館や関係の事業を行っております民法法人などが新たな対象になり得ると
いうことを考えておりまして、今後、関係者の意見も聴きつつ、検討を行ってま
いりたいというふうに考えております。
 先生、条文ごとにというお話ございましたけれども、三十七条の三項は視覚障
害者でございまして、現行では点字の図書館や大学、筑波技術大学、その他いろ
んな特別支援学校の図書館などが認められておりますけれども、今後、これから
私どもで検討するわけですけれども、これに加えて、公共図書館や録音図書など
の作成を行っております社会福祉法人それからNPO法人なども対象に入ってく
るのではないかと思っております。
 また、三十七条の二の第一項、これは字幕の自動公衆送信の方でございますけ
れども、これは現行の聴覚障害者関連施設に加えまして、現行ではこういった事
業を行っているのは株式会社がございまして、それらについても対象となり得る
と思っております。
 第二号の方では、これは映像の貸出しの方でございますけれども、これについ
ても公共図書館や社会福祉法人というのが新たに加わってくるという可能性が高
いというふうに考えております。
○那谷屋正義君 公共図書館はオーケーということですけれども、学校図書館、
大学図書館も大丈夫と考えていいんですか。
○政府参考人(高塩至君) そういった録音図書の作成や字幕の作成というもの
を行っておって、そういった体制が整っていることが認められれば、可能性がご
ざいます。
○那谷屋正義君 現行法で規定されております聴覚障害者向けのリアルタイム字
幕の作成の実施主体というのは実は三法人に今限られているということでござい
まして、今後は政令で定めることというふうになっていますけれども、何か現状
と同じ規模にとどまってしまう可能性があるんではないかというふうなこともご
ざいます。こうした疑問に対して、そしてまた、こういったことは聴覚障害者の
ための複製字幕付きの映像の貸出しを行うことのできる主体を視覚障害者並みに
拡大することが必要ではないかというふうに思うところでありますけれども、い
かがでしょうか。
○政府参考人(高塩至君) 今先生おっしゃいましたように、これまでは聴覚障
害者のための映像の貸出しというのは認められてなかったわけでございまして、
新たな事業展開ということになりまして、それにつきましては、これまで指定さ
れておる聴覚障害者の情報提供施設に加えまして、公共の図書館やそういった事
業を行っております民法法人というものが対象になっていくものだというふうに
考えております。
○那谷屋正義君 今回の改正によって、その他視覚、聴覚による表現の認識に障
害のある者にまで対象が拡大されています。つまり、視覚、聴覚障害以外の方に
というところまで対象が拡大されているわけでありますが、発達障害や精神障害
等の他の障害をこの著作権法上に明確に位置付けられなかったというか、位置付
けなかった理由というのは何かあるんでしょうか。
○政府参考人(高塩至君) 先生御指摘のように、今回の法改正では著作物を視
覚障害者、聴覚障害者に限らず視覚や聴覚により認識することに障害のある者で
あれば広く障害の種類を問わずに権利制限の対象とするという内容でございます。
 具体的な規定の絞りについての御質問でございますけれども、今回は典型的な
ものとして視覚障害者や聴覚障害者を例として示しているものでございますけれ
ども、これはあくまで例示でございまして、その他発達障害や精神的な障害者な
ども含めまして、実際に認識に障害があれば広く規定の対象となるよう、特定の
障害者を列挙する形にはしなかったところでございます。
 具体的に今の法文が三十七条と三十七条の二と、視覚障害者、それから聴覚障
害者と条文を分けて書いておりますけれども、発達障害者の方は双方にもまたが
るというような部分もございまして、私どもとしては、広く障害の方を対象にす
ることから、条文上は明記をしておりませんけれども、そういう方たちを今後対
象にしていくという考え方でおるところでございます。
○那谷屋正義君 ありがとうございます。
 今言われたように、発達障害や精神障害を持つ方が通常の著作物を読むこと等
が困難だったとしても、それは聴覚による表現の認識の障害によるものなのか視
覚による表現の認識の障害によるものなのかということについてはなかなか定か
ではない部分もある。そういう意味では、またがる部分もあるというようなお話
はもっともだろうというふうに思うんですけれども。
 それでは、この本法律案の書きぶりといいますか、そういったもので、すべて
の障害者、すべてって余り大上段に構えていただかなくていいんですが、すべて
の障害者が自分の障害に合った方式の著作物を入手することが可能となるのでし
ょうか。
○政府参考人(高塩至君) 法律によりましても、障害の方たちのその障害に応
じて、それに理解する方式により、そういう媒体を、著作物を提供できるという
ことでございまして、一般的に広く様々な障害者のための著作物が出されており
ますけれども、それらを一律に決めるのではなくて、個々の障害の方たちの状況
を見てそういったものを発行する可能性を広くとらえようという趣旨で今回の法
改正の形にしているところでございます。
○那谷屋正義君 是非、その趣旨を今後も生かしてお取組をお願いしたいと思い
ます。
 それから、細かい話になるかもしれませんが、対象者の範囲の限定というのは
どのような方式によって行われるのかということが一つあります。
 例えば、現在多くの点字図書館では、利用者の登録要件に障害者手帳の所有を
掲げているところが多くございます。しかし、この対象者の範囲に過度な制限が
掛かるということは本法案の理念を損ねるものではないかというふうに思うわけ、
実際にはどういうふうになるのか、お答えいただけたらと思います。
○政府参考人(高塩至君) 今回の法律案では、視覚又は障害による表現の認識
に障害を有する者の用に供するための著作物の複製を認めるということでござい
まして、そのような障害を有する者を確認する方法につきましては、実際の障害
者の必要性に応じて柔軟に対応したいということで、法律上の特段の要件は設け
なかったところでございます。
 このため、その確認方法ということで先生お話ございましたけれども、障害者
の手帳ですとか医師の診断書というものも一つの方法としてございますけれども、
実際に録音図書や字幕の作成を行おうとする事業主体が個別に確認をしていくと
いうことでございます。また、図書館と文芸家協会の間では、そういった協定、
対応できるようにしたというところでございます。
○那谷屋正義君 そういったところの柔軟性というのも大事だろうというふうに
思いますので、よろしくこれからお取組をお願いしたいと思います。
 それから、先ほどから触れている条文のところにいわゆる対象者の拡大という
ことがうたわれているわけですけれども、その両者にただし書というのがござい
ます。このただし書というのが設けられている趣旨を端的にお答えいただければ
と思います。
○政府参考人(高塩至君) 今回の三十七条第三項及び第三十七条の二のただし
書は、いわゆる権利者、著作権者又はその許諾を受けた者たちが、自ら障害者に
とって必要な方式での著作物を提供するという場合には権利制限の適用をしない
ということでございます。
 これは、障害者の提供に当たりましては、先ほど来お話ございますような福祉
施設やボランティアの方たちによる支援で障害者の方たちのための様々な著作物
が作成されておりますけれども、本来の姿として、やっぱり権利者自らが障害者
に対応した方式で著作物を提供するということが望ましいという考え方から、そ
うしたインセンティブを損なわないようにするために権利制限を適用しないとい
うことで、権利者自らがそういった障害者のための著作物を発行することを促す
ということでございまして、こうしたただし書につきましては、障害者の権利条
約ですね、そうした理念にも合致するものであるというふうに考えておるところ
でございます。
○那谷屋正義君 まさに今言われたとおりだろうというふうに思うんですが、衆
議院の審議において高塩文化庁次長は、音声カセットが発売されている場合には、
第三十七条第三項に基づき、DAISY図書を作成することについて、単にテー
プよりDAISYの方が容量が大きいとかそういった物理的な理由ではなくて、
真に障害者の方がそういうものでなければ図書などを認識できないという理由が
認められれば可能であるというふうに答弁をされています。
 真に必要である理由というものを広く解釈すれば、主に健常者向けに市販され
ているオーディオブックなどもただし書の対象となることが懸念されるわけであ
りますけれども、その部分についていかがでしょうか。
○政府参考人(高塩至君) 権利者というか、著作権者の方が自ら障害者のため
の著作物を発行するということがこれから促進をいたしますのであるわけでござ
いますけれども、権利者の方で作成しますものは市販のものということで、著作
物の方式というものがある程度パターン化されたものになるということが予想さ
れるわけでございますけれども、やはり個々の障害者を見た場合に、それぞれそ
ういった市販されたものではやはりその著作物を理解できない、こういった状況
が当然あろうかと思うわけでございまして、そういう際には、市販されておるか
らそれはもう権利制限の対象外ということではなくて、個々の状況に応じて、私
どもは、権利制限ではなくて、ボランティアの方たちなどが新たにそういうもの
を作成するということが可能になるという余地を残したといいますか、そういう
考え方に基づいた考え方でございます。
 したがいまして、容量の話が衆議院の方で、お話今ございましたけれども、単
に、出されているものと新たに作ろうというものが、言わば利便性の向上のよう
なものだけの観点のものについてはなかなかそういうものは対象になりませんけ
れども、真に、まさに障害者のための情報格差の解消という観点からそういう著
作物を作るというものであれば認められていくものだというふうに考えておると
ころでございます。
○那谷屋正義君 ありがとうございます。
 それから、本法律案が施行されましたら、録音図書が市販されているにもかか
わらず録音図書を作成してしまった場合、著作権の侵害行為というふうになって
しまうわけであります。それを防止するために、どのような録音図書が今発行さ
れているのかということを早期に周知することができるような手だてを講じなけ
ればならないというふうに思うわけであります。
 例えば、出版社等に対して市販している録音図書の一覧の公表を求めるお願い
の文書を発出するとか、そういうふうなことが考えられるんではないかと思うん
ですが、文化庁としてどのような対応を取る予定なのか。そして、ただし書によ
って障害者をめぐる情報アクセスの状況が現状よりも悪化しないように万全を期
す必要性があるのではないかと思うところでありますけれども、いかがでしょう
か。
○政府参考人(高塩至君) 今お話ございましたように、障害者用の図書が市販
されている状況につきまして把握するということは、それをこれから作成しよう
という方たちにとりましても、ただし書がございますので、不測の権利侵害とい
うことにならない、リスクをある程度軽減できるということがございますし、ま
た、権利者側の方におきましても、いわゆる無断複製というものも防止というこ
とも可能になりますし、また、自ら提供します著作物の購入の促進というのにも
つながる利点があると思っております。
 このため、権利者側におきまして、今先生から御提言がございました障害者用
の市販図書の一覧の公表など、そういう公表が自ら積極的に行われることが大変
期待されるところでございまして、実際、現在でも一部の権利者団体と図書館団
体の間ではそうした情報提供が行われていると聞いておりますけれども、私ども
文化庁といたしましては、法案の成立後、こうした取組も参考にいたしまして、
こうした運用が円滑に行われるよう、関係者の取組を支援してまいりたいという
ふうに考えております。
○那谷屋正義君 大臣にお尋ねをしたいと思いますけれども、障害者権利条約の
第三十条第三項では、締約国は、国際法に従い、知的財産権を保護する法律が、
障害者が文化的な作品を享受する機会を妨げる不当な又は差別的な障壁とならな
いことを確保するためのすべての適当な措置をとるとされています。障害者の情
報アクセスの保障に向けて、政令の内容はもとより、公共図書館や福祉施設にお
ける実際の運用についても、文化庁が責任を持って主導していく必要性があると
いうふうに思いますけれども、いかがでしょうか。
○国務大臣(塩谷立君) 今回の改正案につきましては、今御指摘ありましたよ
うに、障害者の権利に関する条約の趣旨を踏まえて、障害者の情報格差を解消す
るために、著作権に関する法律面での課題を解決するものであります。
 文部科学省としては、文化庁の主導の下で、改正法の趣旨等についてコンテン
ツ事業者や関係団体、福祉施設等に対して周知をしていくこと、同時に、これら
の事業者を所管する関係省庁等も連携して、障害者に対する著作物等の提供が円
滑に行われるように必要な環境整備を図ってまいりたいと考えております。