文化審議会著作権分科会基本問題小委員会(平成22年第3回)議事録 抜粋2010-05-31

http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/kihon/h22_06/pdf/gijiroku.pdf

文化審議会著作権分科会基本問題小委員会(平成22年第3回)議事録

平成22年5月31日(月曜日) 14時~16時

【三田委員】私がこの権利集中機構が必要だと考えたのは、例えば先ほど言いま
したように、国立国会図書館のデータをデジタル配信するということになります
と、50年前に出版された本が対象になってきます。これは作家が書いた本だけで
はありません。ハウツーもののようなものもありますし、学術書もあります。
そう考えてみますと、例えば谷崎潤一郎のご遺族のような、現在も文庫本が出て
いて、文芸家協会に登録していて、お金を受け取っている人というのは1%もな
いだろうと。自分のおじいさんがそんな本を出していたということも知らないよ
うなご遺族の方がほとんどだろうと思います。
ですから、私が考えた簡易登録制度というのは、あくまでも公的機関が一番上に
あって、現在作家活動をやっていたり、ご遺族が文芸家協会に登録しているよう
な人は、その団体が一括登録をすればいいわけでありますけれども、それ以外の
ものについて、この公的機関が新聞広告を出すなり、ネット上に宣伝をするなり
して、これから国立国会図書館の本が例えば1冊300円で読めるようになります
みたいなことになりましたら、例えば100円ご遺族に渡しますよというような告
知をして、必要な方は登録をしてくださいと、これは無償で登録をできるという
ことにして、そこに配分をすると。文芸家協会に属している人には、文芸家協会
にお金を配分するということでいいだろうと思います。

そうやって、全ての著作者を対象とした権利処理のシステムというものをつくれ
ば、利用が促進されるだろうと。そういうご遺族は必ずしもプロ意識はないわけ
ですね。そういう人にも一定の分配をする。しかし、なおかつそういう呼びかけ
をやっても応じる方がいない、いわゆるオーファンワークスというものについて
は、これはそのお金を将来的にタイムラグがあって、3年後に私遺族ですという
人は必ず出てきますので、クレーム処理費として積み立てていって、すぐに配分
ができるということをやっていかなければなりません。

それから、名乗り出た人に「本当に権利者なのか」と言うのは、実は非常に難し
いです。実際にそれを調査しようと思ったら、数万円とか十数万円とか、それぐ
らいのお金がかかります。だから、クレーム処理費からそういう調査をやってい
く必要がありますし、しかし国立国会図書館のデータを例えば10年間で1回ぐら
いしか利用者がいないと、100円払うのに10万円かけて調査するということはで
きないわけですね。ですから、利用できるクレーム処理費を積み立てた中で、で
きる限り利用の頻度の多い著作者から順番に調査をしていって、著作権継承者を
探していくとか、名乗り出た人が本物かどうかを調査するなど、できる限りのこ
とをやるというぐらいのことでシステムを運営していく必要があるだろうなと考
えております。

それから、もう一つ重要なことは、この小委員会、なぜ今ごろになって基本問題
について考えなければいけないのかと。これは多分いろいろなところから、現行
の著作権法が煩雑過ぎるとか、権利制限を一つ増やすためにも大変な年月がかか
るとか、主に利用者の側から利用しづらいという要請が出ているからではないか
なというふうに思います。

そうしますと、何らかの形で著作権法を簡略化するとか、あるいはフェアユース
規定のようなものを導入するとかの要望があるのだろうと思います。これをここ
で議論していますと、権利者は何か守りに入って、利用する側と利用される側が
押し問答をして、時間がたってしまうというのは非常に不毛なことだというふう
に私は考えております。

1つ具体例をお話ししてご理解をいただきたいと思っているのですけれども、例
えば視覚障害者のための音訳図書、朗読図書というものがあります。これは従来
権利制限になっておりまして、著作権法で点字図書館等が作成して貸し出すのは
オーケーだということになっていたわけでありますけれども、ネット社会になり
ますと、今までCDとかカセットテープを郵便で貸し出していたものをネット配
信できないだろうかというご要望が点字図書館に私のところからありまして、郵
便で貸し出しているものをネット配信するのに問題はないだろうというふうに思
いました。

だから、文芸家協会に登録されている方については、とりあえず一括許諾を出し
ますよということを申し上げまして、会員の方のご理解を得て、一括許諾の、契
約システムで対応したわけでありますけれども、当時文芸家協会に登録されてい
た方は3,000人しかおりませんので、3,000人の作品しか配信できないということ
になるわけですね。現状では、やはり権利制限規定を改定するしかないなという
ふうに考えました。

ただし、今までテープになっているものを配信できるようにデジタル化するため
には、時間が必要であるということでしたので、とりあえずその3,000人だけで
作業をやってくださいというふうに申し上げて、作業をやってもらいつつ、一、
二年そのシステムを運用した上で著作者からは1件の苦情もないということが分
かりましたので、私の方から権利制限を拡大したらどうかという提案をいたしま
して、実際に権利制限が拡大されたわけですね。

権利制限をこういう形で一つ一つ拡大していくというのは、これからの時代には
対応できないだろうと思います。私が一存で3,000人の分はオーケーを出したわ
けでありますけれども、実際は点字図書館で読まれているものというのは、ハウ
ツーものとか学術書があり、文芸家協会だけでは対応できません。ですから、何
か公的な権利を一括して預かっているようなところがあって、そこに文芸家協会
も参加して、こういう利用については無許諾無償でいいのではないかという話し
合いをすれば、そこで一括許諾を出すというような、それだけの機構ができてい
れば、著作権法を一々いじる必要はなくなってくるわけですね。機構がしっかり
していれば、著作権法そのものは簡略化する方向に行けるのではないかなという
ふうに考えます。

その集中管理の機構が利用者にとって不便であるというようなことがあれば、
その機構は、理事会か何かが運営するだろうと思うので、そこに河村委員も入っ
ていただいて、利用者の側からの意見を述べていただくということで、話し合い
で解決できる部分が増えていくだろうと。そういう意味で、こういう機構を作る
ことによって、著作権法はシンプルにできるのではないかなと。そこまで含めて、
こういう提案をさせていただいたということであります。

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