「図書館と公共サービスの在り方に関する事項」に係るまとめへの意見2011-10-17

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2011/10/17
「図書館と公共サービスの在り方に関する事項」に係るまとめへの意見

社団法人日本図書館協会 東京都中央区新川1-11-14 03-3523-0811

◆2.[1]国会図書館からの送信サービスについて【3-4頁】
 【国会図書館からの送信先等を限定した上での送信サービスの実施について】
において、大学図書館及び公共図書館への送信により、「希少な出版物の画像を
用いた研究が可能となる」、「国民の「知のアクセス」の向上、情報アクセスに
係る地域間格差の解消につなが」ることから、送信先として含めるべきではない
かとされる一方で、「全ての図書館を一律に同等を見做すことは適切でない」と
して、その範囲を限定することが記されている。この限定についてはやむを得な
いものと思われるものの、上記の観点から、なるべく広い範囲の図書館に送信さ
れるよう考慮いただきたい。
 学校図書館については、アメリカ連邦議会図書館の「アメリカン・メモリー」
事業にもみられるように、希少な出版物の画像閲覧は教育上非常に効果的とみら
れることから、対象に含めるよう考慮いただきたい。
 また、省庁が定めた設置要件に含まれる図書館(室)、例えば厚生労働省所管
では、特定機能病院、臨床研修指定病院、地域医療支援病院、保健師助産師看護
師養成所の設置要件に図書室の設置が定められており、これらの施設において医
療その他の情報が迅速に得られるように考慮いただきたい。

◆2.[1]国会図書館からの送信サービスについて【4頁】
 「○2国会図書館からの送信データの利用方法の制限について」において、
「送信先におけるプリントアウト等は、送信先において無制限に複製物が作成さ
れる事態につながる可能性もあり、当面の間は認めないものとして整理するべき
であると考えられる」とあるが、現在の図書館におけるコピーサービスは、大半
の図書館において限定された要件のもとで実施されており、このプリントアウト
サービスについては、さらに厳格な運用を行うことも可能である。このため、他
の施設とは異なり、図書館においては、著作権法第31条第1項に基づくコピーサ
ービスを行う関係上、著作権に関する講習の修了者を必ず置いており、このよう
な運用が可能となる環境は整っているものと考える。
 また、送信先の図書館でプリントアウトを認めないと、コピーを入手するため
に結局国会図書館に申込みを行わなければならないことになり、情報アクセスの
地域間格差の解消につながらないものと考えられる。
 したがって、送信先の図書館においてプリントアウトを認めるべきである。
 なお、この考えについては、2011年9月21日開催の文化審議会著作権分科会法
制問題小委員会の第4回会合において、多数の委員から同じような考えが述べら
れたものと承知している。
 ただし、送信先で厳格に運用されるように、送信先でのプリントアウトを認め
るに当たっては、著作権に関する講習の修了者を置く以外の条件が付されるとし
てもやむを得ないものと考える。

◆2.[1]国会図書館からの送信サービスについて【4頁】
 「○2国会図書館からの送信データの利用方法の制限について」において、
「送信先、対象出版物が限定されていることなどを踏まえると、特段の制限をし
ないことが適当であると考えられる」とされている。これについては、「情報ア
クセスの地域間格差の解消」等の趣旨を踏まえると、このような考えは妥当であ
ると考えるため、このように進めていただきたい。

◆2.[1]国会図書館からの送信サービスについて【4頁】
 「○3国会図書館からの送信サービスに係る対象出版物の限定について」にお
いて、「「市場における入手が困難な出版物」等にすることが適当」とされてい
る。これについては、著作権者の経済的利益への影響を考えると、極めて妥当な
考え方であると思われる。ただ、何を「市場における入手が困難な出版物」かに
ついての判断を、個別に出版社に問い合わせるなどの煩瑣な方法による必要があ
るとすると、事実上送信サービスを行うことが困難になるなど、混乱が予想され
るため、以下の点につき配慮いただきたい。
(i) 判定が容易になるような基準を設けていただきたい。
(ii) 再版したとたんに送信停止をしなければならないという事態を招かないよ
うな運用ルールを設けていただきたい。
(iii) 判断が出版者の恣意的な意思で左右されないよう、明確な基準を設けて
いただきたい。
(iv) 上掲の事項とも関係するが、過去に出版された資料における用字等の違い
が重要な意味を持つ場合があることから、ほぼ同内容の資料が刊行されていると
いうことをもって、即送信しないとはしないようにしていただきたい。

◆2.[1]国会図書館からの送信サービスについて【5頁】
 「○4国会図書館からの送信先等を限定した上での送信サービスの実施に係る
著作権法上の対応について」において、「権利が制限された場合においても、送
信対象となる出版物の著作権者等の求めがあった場合には当該出版物を送信サー
ビスの対象から除外する方式を導入することも考えられ」るとあるが、この措置
の目的に鑑み、著作権者が再刊の意思がないのに意図的に送信サービスの対象か
ら除外することを避けることが必要ではないかと考える。このため、送信サービ
スの対象から除外するにあたっては、著作権法第81条に基づき出版権者に課せら
れている「出版の義務」のような義務付けを課すなど、国民に出版物の画像デー
タのアクセスを保障するための措置を講じていただきたい。

◆2.[1]国会図書館からの送信サービスについて【5頁】
 「○4国会図書館からの送信先等を限定した上での送信サービスの実施に係る
著作権法上の対応について」において、「サービスの実施が著作者、出版者の利
益を不当に害するものではないと考えられることを踏まえれば、著作権者へ対価
を支払うことの必要性は高くないと考えられる」とされているが、この考え方に
賛同する。また、補償金の支払い義務を課すこととなると、受け皿機関の設置、
徴収・分配コストの問題など、解決が必要な多くの課題が発生することになるこ
とからも、補償金支払い義務を課すことには反対である。

◆2.[2]国会図書館の蔵書を対象とした検索サービスについて【6頁~7頁】
 検索結果の表示につき、「ただし、1行程度の表示であっても、例えば辞書、
辞典類、又は俳句などの短文を集めた出版物等についてはその利用目的を達して
しまうことなどが想定されることなどから、検索対象となる出版物の選定におい
ても細心の注意を要すると考えられる」とあるが、たとえ俳句の一首が検索結果
として表示されたとしても、それをもって出版物の購入を取り止めるなどの著作
権者の経済的利益を損なうことは考えにくく、却って、表示されたことをもって、
出版物の購入につながることの方が多いと思われるため、積極的に表示する方向
で検討いただきたい。

◆2.[1]国会図書館からの送信サービスについて【1頁~5頁】
 2頁1つ目の○において「全ての国民が等しく利用できることが重要であり、
特に障害者や高齢者へのアクセシビリティについても十分に配慮されることが望
ましいと考えられる。」と書いているが、これは「配慮しなければならない」事
項である。国連障害者権利条約批准に向けた取り組みを進め、著作権法第37条
に定める視聴覚障害者等の必要とする方式による複製等や自動公衆送信が行える
国立国会図書館においては、視聴覚障害者等がそのままでは利用できない場合に
は、利用可能な方式によって提供する必要があり、また権利者は、障害者が利用
できるようにすることに対して国民の責務として協力する必要がある。
 1頁の◆2つ目において「原則として現状どおり画像ファイルを用いたサービ
ス」としている点は、上記障害者のアクセスを排除するものであり、視覚的認識
に障害を持つ者に対しては、利用可能な方式で提供することを明記すべきである。
 2頁以降の(2)送信サービスの具体的な在り方について及び5頁の(3)ま
とめにおいて、障害者に対する具体化について触れられていない。著作権法第37
条で定められたものとの連携を含めて、より具体化し、改正障害者基本法、国連
障害者の権利条約の実現に努める必要がある。

◆2.[2]国会図書館の蔵書を対象とした検索サービスについて【6頁~7頁】
 本文検索サービス画面は、視覚障害者等のアクセシビリティに配慮し、必ず
視覚障害者等のモニターを踏まえて実施していただきたい。(2)の○2検索結果
の表示について、音声出力がされたり、出版物そのものが障害者の利用に配慮さ
れたものであるなら、どのような配慮がされているのかがわかるような表示が必
要である。

◆3.公立図書館等の役割について【8頁】
 8頁の検討内容報告冒頭で、公立図書館等を「公共性の高い社会教育機関」と
して位置付け、「地域社会の様々な問題解決、知的創造活動への貢献や障害者等
の情報に係るアクセシビリティの向上などその使命を果たすため、所蔵資料のデ
ジタル・アーカイブ化やデジタル・ネットワークを活用したサービスの提供を促
進することは意義があると思われる。」としていることは大いに評価できる。
 しかし、その後の具体化における議論では障害者等の情報にかかるアクセシビ
リティの向上についてどのように進めるのかが記されていない。
 たとえば、電子書籍のアクセシビリティの向上のために、公立図書館等とその
利用者である障害者等と電子書籍製作者との協議の場を設けることなども必要と
思われる。
 視聴覚著作物にアクセスするための障害は、個別性の強いもので、ある障害に
配慮されて制作されたものであっても、どうしてもアクセスできない人が出てく
ることが起こりうる。そうした時に、著作権法第37条の権利制限によって、その
障害者のニーズに合わせて図書館等が必要な方式に複製できるよう、権利制限が
許されたものにはDRMの解除等も許されるような仕組みが必要と思われる。

◆4.まとめ 【9頁】
 デジタル・ネットワーク社会の進展に、図書館が果たすべき役割がさらに重要
となってきているという認識は、大きく評価できるとともに、われわれ図書館界
もさらに奮起するところである。
 この図書館の果たす役割の中で、特に著作物へのアクセスに困難を抱える人た
ちへの配慮はより大きな責務をもつものである。
 よって、このまとめの部分においても、特に障害者等への配慮についての文言
を明記してほしい。
 まとめの最後に書かれた「有償配信サービスの実験的な事業など」の取り組み
については、生活保護世帯等、低所得者への配慮も含めて検討していただきたい。

[2011年10月12日提出]

 氏名:社団法人日本図書館協会
 住所 東京都中央区新川1-11-14 電話番号 03-3523-0811

意見
◆1.基本的な考え方【1頁】について
 日本政府は2007年9月28日、国連障害者権利条約に署名し、現在、批准に向け
た国内法整備を進めているところである。そして今年8月5日、障害者基本法の改
正を施行した。このような状況において本まとめの基本的な考え方に、このこと
が全く触れられていないのは不適切と思われる。
 国連障害者権利条約第21条の情報へのアクセスの権利、第24条の教育の権利、
第30条の文化的な生活に参加する権利及びその第3項に記された知的財産権に関
する法整備にかかる考え方をこの項においてきちんと触れる必要がある。

【参考】
「障害者の権利に関する条約(原文と日本政府仮訳)」抜粋
Article 4 General obligations --略

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